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ラジオをきっかけにしたターニングポイント(その1)

 私はラジオ番組の収録の仕方を教わった。

 その時が来るまでは、私も他のパーソナリティー(番組を担当している人)と同様に、自分が喋りたいテーマを決められた時間に沿って喋ることに集中していた。
 スタジオの管理者が音響と編集を担当しており、時には番組に参加しつつBGMを調節したり、楽曲を中間に差し込んだりする。そう、パーソナリティーはトークに集中すればよかった。番組中に流したいBGM用の曲と、番組の中間に差し込みたい楽曲を準備する。

 もちろん喋る側も好きなだけ喋るだけではない。タイムテーブルを自分で用意して、時間になったら次に進められるようにしないといけない。時間は有限なのだ。放送局のジングルも忘れずに差し込まないといけない。

 時間が来たら話を中断するというのもある種の技術だ。伝えたいことは間違いなく伝えて、かつ時間を厳守しなければならない。ゆえに、「それだけ」といっても難易度は思った以上に高いものだといえると思う。

 私は10分程度のフリートークには困ったことがない。高校卒業後に役者の勉強を二年ほどやったことがあるので、多少の緊張はすれど意味なく「どうしよう」とはならない。だが、時間を守って喋るというのは難しいものだ。好きなことを喋るときに好きなようにして喋ってしまうと、時間も浪費してしまううえ、何も相手に伝わらない。
 伝言ゲームなどというものがある通り、「伝えたいように話す」ことは容易なことではない。喋りの難しさである。

 ここに、さらに音響の調節が加わる。

 BGMの大きさと自分のマイクの入力の調整。収録前にマイクの位置はもちろん入力状況を確認する。

 私はあまり地声が大きくないので(病的なまでに声が出なかった。ボイストレーニングはこれを改善するために通っており、現在は日常生活に支障が出ない程度に回復した)、ツマミを少しずつ調節して入力状況を調節する必要がある。もちろん出力する音量が小さいとそもそも録音が出来ない。この入出力のバランスも適宜調節が必要だった。

 このスタジオで収録するのは私だけではない。私の前に収録した人に音響機器の設定が整っている為、今度は私に合わせて調節する必要があるのだ。BGMはちゃんと流れるか? マイクで喋ったとき、ちゃんと録音されてるか? 

 というかどの程度の声量で喋るのか?

 パソコン側のシステムの扱い方も教わった。使うシステムはシンプルだが、操作一つ間違えればやり直しだ。録音ボタンを押し忘れていた、なんてよくある失敗である。

 直前になって番組用に整えていたプレイリストが順序バラバラになってしまったこともある。失敗した方が学ぶとはいうが、他の番組のプレイリストまでガチャガチャにしてしまったことがある。弁償ものである。

 ところでこの音響機器は、ミキサーと呼ばれる機械である。

 ミキシング(Mixing)という言葉がある。あまり聞きなれない言葉かと思うが、料理に使う調理機器のミキサーのイメージで良いと思う。違うのは飲食物を混ぜるのではなく、複数の音源を一つにするということだ。もちろん適当に一緒くたにするのではなく、Aの音源は小さくしてBは大きく、ここでCを差し込む、というようなことをするのがミキサー。というイメージで良いと思う。

 ちなみにディスクジョッキー(DJ)とは違う。皿回しと呼ばれることもあるそれは、ミキサーとは別のマシンを扱っている。

 ※ただし、アーティストとしての側面を持つディスクジョッキーはミキサーを用いてパフォーマンスをすることもある。ここでは少なくとも、私はミキサーだけを使っているということだけが正しく伝わっていると良いと思う。

 効果音を好きなタイミングで鳴らす、というやり方までは到達していないものの、最低限自分の番組を回せる程度にはなった。まだ体に染みついているわけではないので、やり方を都度確認しながらではある。

 今でも流す予定の楽曲を間違えたり、録音ボタンを忘れていたり、マイクの出力を上げるのを忘れていたりとウカツをすることがある。

 だがこのやり方を知っているということは、なにか自分にとってプラスになるかもしれない。少なくともマイナスにはなるまい。

 スタジオに設置された音響機器を触らせてもらえるというだけで十分すぎるほどの経験をさせてもらっている。この経験が何に活かされるのかはまだ分からない。

 だが少なくとも、この経験がなければ次の話には進まなかったことだろう。この時点では私も、そしてこの恩人も未来については何もわかってはいなかった。

カバー写真:pixabay
撮影者:khamkhor

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