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緊急投稿2-秀岳館サッカー部暴行事件に思うこと-

秀岳館サッカー部暴行事件

 秀岳館サッカー部のコーチ及び監督による部員への暴行事件について、秀岳館高校はコーチを懲戒免職とし、監督は退職させることを発表した。(※1)当該暴行事件は監督の指示による部員の「謝罪」動画問題のほか、コーチが部員を殴る動画の流出に監督が当該動画を流したとした特定の部員に脅しともとられる言動を行ったこと(※2)が指摘されており、秀岳館サッカー部に自浄作用がないことを知らしめることとなった。

 秀岳館サッカー部の不祥事はこれだけに留まらない。秀岳館高校サッカー部入部を前提とした中学生が寮で上級生から暴行を受けた事件があったほか、(※3)複数のコーチ、上級生による暴行は日常茶飯事であったとの証言もある。(※4)単なる一サッカー部コーチ及び監督による個人的な事件というよりは秀岳館サッカー部、もっと言えば秀岳館の学校自体のあり方に問題があったと言えよう。(※5)

相次ぐ部活での暴力

 さて、部活における暴行事件は秀岳館高校だけの問題であろうか。部活内での暴行、暴力に関する事件は「竹田高校剣道部主将死亡事件」、「大阪市立桜宮高校男子バスケットボール主将自殺事件」が有名だが、これらだけに留まるものではない。最近でも2021年8月に鹿児島南高校の女子バレー部顧問が部員を平手打ちにしたほか(※6)、先日も堺市の中学で野球部顧問が部員に暴力を振るった事例がある(※7)。

 だが、(※6)の記事の事例のように、試合での勝利を理由に部員の保護者や部員OBの中にしごきの名の下に暴力を容認する部活では、暴力が問題化されにくい傾向にある。秀岳館高校の事件をはじめとしたメディアに登場する暴力事件は氷山の一角であり、部活内での暴力に泣き寝入りしている者も少なくないのではないか。

勝利至上主義からの決別を

 部活における勝利至上主義の背景には何があるのだろうか。元ラグビー選手の平尾剛は柔道における小学生での全国大会廃止を踏まえ、スポーツにおける小中学生の全国大会での廃止を提唱し、勝利至上主義について以下のように警鐘を鳴らす。

 目標を失うことになるわが子やその友達をおもんぱかる気持ちは、わからないでもない。わが子に向けられる親心や顔見知りの児童への労わりは察するに余りある。だがこの気持ちは、大会において好成績を収められるであろう可能性を秘めた児童にしか向けられていない。大会のたびに親や指導者からの重圧を耐え忍ぶ児童は視野に入っていない。
 子供を思いやる尊い気持ちを十分に汲みつつ、それでもなお指摘したいのは、たとえ短期的には不利益がもたらされるとしても、将来を見越した長期的な視野で恩恵にあずかるかどうかを想像する必要性である。「勝利から得られるもの」と「勝利への固執で失われるもの」とを天秤にかけ、冷静に吟味する態度が成熟した大人には求められる。教育を目的とした若年層のスポーツを考えるときに、この構えは決して欠かすことはできない。(※8)

 平尾はスポーツにおける価値について、身体の感受性を育むこと、容易にくじけない強靭さ、主体性、積極性を備えた心構え、自尊心を育み、所属する集団を快適に生きるための所作を身につけるためにあると言う。その上で、勝利至上主義はこれらのスポーツにおける価値を無視したものであり、勝利をすればこれらの価値は自然についてくるという思考停止であると明言した。名古屋大学教授の内田良も学校教育の立場から勝利至上主義を否定しているが、(※9)平尾の勝利至上主義の否定はスポーツに精通している立場からの否定であり、今の運動部の部活に見られる勝利至上主義は真の意味でスポーツを愛好している状況にはないことを指摘したと言える。

 平尾は全柔連会長の山下泰裕、元陸上選手の為末大が児童の健全性を育成することの大切さから小中学校での全国大会は必要でないとする立場を踏まえ、ラグビーにおいても少年期においては発育の差がプレーの優劣、試合の勝敗を大きく左右するため、少年期における競い合いには意味がないとしている。また平尾は、スペインのサッカーチーム「ビジャレアル」の指導を行った佐伯夕利子の例を挙げ、競技力の向上よりも人としての成長を促す指導を行ったが、プロ選手になる比率はほとんど変わらなかったことを指摘した。青少年のスポーツにおいてはスポーツで勝利することよりもスポーツを通じた人間育成が大切であることを強調しており、大学教授という教育者としての立場のスポーツ観でもある。

質の高いスポーツ指導者の育成を

 部活動における暴力事件、市場蔓延主義が相次ぐのは、平尾剛や佐伯夕利子のような見識を持った人材がスポーツに携わる人間に足りないことが一因となっていないだろうか。現在スポーツ庁の「運動部活動の地域移行に関する検討会議」などでは、部活動を地域のスポーツクラブに一部移行をすることなどが議論されている。そこでは休日の部活動を民間のスポーツクラブやスポーツ少年団に移行をさせるということが検討されているという。(※10)

 ただ、休日の部活動を外部に委託をするとしても、休日での部活動と平日の学校における部活動との区別がはっきりつけなければ形を変えた部活動の延長でしかない。(※11)また、地域のスポーツ少年団における指導者においても指導力が足りない者が少年団員に暴力、暴言を行っていることが指摘されている。(※12)部活動の地域への移行と同時に、スポーツ指導者自身の質の向上を図ることが求められる。特に、秀岳館高校のコーチ、監督のように暴力、暴言を行った人物が当該学校を去っても、スポーツ少年団や別の学校などでスポーツへの指導をさせないようにするための措置や規定を明確に規定することが喫緊の課題である。

 現在議論されている部活動改革は教育者の負担を軽減するという視点が強く、部活動に代わる新たなコミュニティとしてのスポーツ愛好者の集まりをどう構築するかの視点に欠けている。生涯スポーツ、社会教育としてのスポーツのあり方という観点も踏まえた部活動、とりわけ運動部の改革による学校の枠を超えた部活動改革を行うことが求められているのではないか。

皆が集まっているイラスト1

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(※1)

(※2)

(※3)

(※4)

(※5) 「秀岳館理事長」で検索を行うと理事長の叙勲を教職員のみならず生徒も祝う個人崇拝をイメージさせる画像を掲載したホームページが見られた。

(※6) 

(※7)

(※8)

(※9)

(※10)

(※11)

(※12)


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