Levy分布とそのモーメント
abstract Levy分布を標準正規分布から導出し、モーメントを持たないheavy tailな確率分布の例になっていることを示します。
1 Introduction
Levy分布は期待値や分散を持たないheavy tailな確率分布の代表例です。このような確率分布の例としてCauchy分布(自由度1のt-分布)を思い出す方も多いのではないでしょうか。実は、どちらも安定分布と呼ばれるheavy tailを考えるときに重要になる確率分布のクラスの一例です。
このnoteではLevy分布を定義し、そのモーメントが正の無限大に発散することを示します。
2 Levy分布の基礎
2.1 Levy分布の定義
Levy分布の基礎になる標準Levy分布は、以下のように標準正規分布を使って導入できます。
定義 $${Z}$$ を標準正規分布 $${N(0,1^2)}$$ に従う確率変数とします。このとき、$${X=1/Z^2}$$ が従う確率分布を標準Levy分布 $${Levy(0,1)}$$ といいます。
さらにLevy分布 $${Levy(a,b)}$$ は、確率変数 $${Y=a+bX}$$ が従う確率分布と定義します。ただし $${a}$$ は実数、$${b}$$ は正の実数とします。
2.2 累積分布関数と確率密度関数
Levy分布の累積分布関数と確率密度関数は以下のようになります。
定理 $${Y\sim Levy(a,b)}$$ とします。累積分布関数 $${F_{Y}(y)}$$ と確率密度関数 $${f_{Y}(y)}$$ は以下のようになります。ただし、$${\Phi(z)}$$ は標準正規分布の累積分布関数とします。
$$
\begin{align*}
F_{Y}(y) &= 2\left[1-\Phi\left(\sqrt{\frac{b}{x-a}}\right)\right],&x> a\\
f_{Y}(y) &= \sqrt{\frac{b}{2\pi}}\frac{1}{(x-a)^{3/2}}\exp\left[-\frac{b}{2(x-a)}\right],&x> a
\end{align*}
$$
以下では、標準Levy分布 $${Levy(0,1)}$$ つまり $${a=0,b=1}$$ の場合のみを示します。一般の場合は、変数変換の公式から従います。
証明 標準Levy分布の累積分布関数は、第1節の定義から以下のように計算できます。
$$
\begin{align*}
F_{X}(x)& = \mathbb{P}\left[\frac{1}{Z^2}\leq x\right]
= \mathbb{P}\left[Z^2 \geq \frac{1}{x}\right]\\
&= 2\mathbb{P}\left[Z \geq \frac{1}{\sqrt{x}}\right]
= 2\left[1-\Phi\left(\frac{1}{\sqrt{x}}\right)\right]
\end{align*}
$$
確率密度関数は合成関数の微分公式を用いて、次のように計算できます。ここで $${\phi(z)}$$ は標準正規分布の確率密度関数です。
$$
\begin{align*}
f_{X}(x) &= F'_{X}(x) = 2\times\frac{1}{2}\frac{1}{x^{3/2}}\times\phi\left(-\frac{1}{\sqrt{x}}\right)\\
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\frac{1}{x^{3/2}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]
\end{align*}
$$
以上で証明できました。■
3 Levy分布のモーメント
Levy分布は $${k=1,2,3,\cdots}$$ 次のモーメント $${\mathbb{E}[Y^{k}]}$$ が正の無限大に発散します。以下では、標準Levy分布の場合で期待値(1次のモーメント)が正の無限大に発散することを示しましょう。一般の場合も同様に示すことができます。
定理 確率変数 $${X}$$ が標準Levy分布に従うとします。このとき、期待値 $${\mathbb{E}[X]}$$ は正の無限大に発散します。
証明 鍵になるのは、$${\displaystyle\int_{1}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{x}}dx}$$ が正の無限大に発散することです。期待値を定義通りに計算すると、以下のようになります。
$$
\begin{align*}
\mathbb{E}[X] &= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{0}^{\infty}x\times\frac{1}{x^{3/2}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]dx\\
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{0}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{x}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]dx\\
\end{align*}
$$
ここで、$${\displaystyle\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]}$$ が単調増加であることに注意します。すると、次のように右辺を下から押さえる不等式を作ることができます。
$$
\begin{align*}
&\int_{0}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{x}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]dx\\
&= \int_{0}^{1}\frac{1}{\sqrt{x}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]dx + \int_{1}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{x}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]dx\\
&\geq \int_{0}^{1}\frac{1}{\sqrt{x}}\exp\left[-\frac{1}{2x}\right]dx + \exp\left[-\frac{1}{2}\right]\int_{1}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{x}}dx\\
\end{align*}
$$
第一項は $${0}$$ 以上、第二項は最初に述べたように正の無限大に発散するので、標準Levy分布の期待値は正の無限大に発散することがわかりました。■
Acknowledgement
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