【歌詞考察】back number「赤い花火」〜なぜ、「7時を回る前に振られておいてよかった」の?〜

今回は、夏にぴったりの名曲 back numberの「赤い花火」の歌詞考察です。
前回までと書き方を変えたので、少しは読みやすくなっていたら良いな。

それでは、はじまりはじまり



主人公の最大の強がりと「7時」の謎

7時を回る前にフラれておいてよかったわ
最後に私と見る花火は余計に綺麗でしょ


▶︎「7時を回る前」の「7時」はなんの時間かと言えば、「花火が始まる時間」と考えられます。
歌詞を言い換えると、「花火が始まる前に振られておいてよかったわ」となります。
そして、花火が始まったらどうなるかと言えば、彼の視線は空に向くわけです。
つまり、花火が始まってしまえば、振られて傷ついている自分の泣き顔を彼に見られなくて済むのです。
また、「振られておいてよかったわ」「最後に私と見る花火は余計に綺麗でしょ」という、あたかも私は何一つ傷ついてませんよとでも言うかのような言い回しからも読み取れるように、この曲の主人公は自分が傷ついていることを悟られたくない気持ちを持っていて、この後も一貫して強がり続けます。
振られるタイミングが花火の最中じゃ声なんて聞こえないし、花火の後に言われてしまったら泣き顔を隠すのも一苦労になる。彼女の強がりな性格がこれ以上ないくらいシンプルかつ的確に表現された歌詞だと思います。


"最後"を噛み締めながらも強がりを辞めることが出来ない

癖のある硬い髪に指に頬に首筋に
もう触ってはいけないのね
煙の跡を目で追うフリして
次の花火を待つ あなたを見てた

▶︎これで最後だから、髪や指や頬や首筋に触れた日々を思い返しながら、彼の姿を目に焼き付けている様子です。
ガン見して縋ったりせずあくまで「煙の跡を目で追うフリ」をするのは、彼女のプライドがそうさせるのでしょう。


花火の音に掻き消された、主人公の悲痛な叫び

真夏の空に浮かび上がって滲んだ
ほら見て綺麗だよなんて言うほど苦しくなった

▶︎ 「真夏の空に浮かび上がって滲んだ」ものは当然、「花火」と読み取れますが、ここは、主人公が泣いているから打ち上がった花火が滲んで見えるのだと思います。打ち上がった花火が煙とともに夜空に消えていく様は「滲んだ」と表現しても伝わるし、ギリギリ違和感がない絶妙なラインではありますが、文脈から見て"滲んで"いるのは空ではなくて"私"の視界だと解釈したいです。
「ほら見て綺麗だよ」は泣いてる自分を見ないで欲しい思いから、わざとらしく彼の視線を花火へ誘導しています。別れ話なんてなかったかのように普通の会話を装っていますが、同時に脳裏をよぎる、こんな風に普通のカップルみたいな会話を交わすことはもうないという現実が彼女を苦しくさせるのです。


魔法にかけられたのは誰?

二度と治らない火傷みたいな痛みが胸を焦がす魔法
あなたには強くかけたのに誰が解いたの?

▶︎ 「二度と治らない火傷みたいな痛みが胸を焦がす魔法」=絶対に私を忘れられない魔法をあなたにかけたということでしょう。しかし、ここで注目すべきは、私も同じ魔法にかけられていたであろうということです。
二人同じ魔法にかけられている間は幸せだったが、彼の魔法が解けたことで2人の関係性は終わりを迎えています。

どこをどう探しても
あなたは他にいないのに
そんなのきっと今だけだよだって
そんなわけがないでしょ

▶︎主人公が彼にかけたのと同じ魔法にかけられてしまっていることがわかる歌詞です。
冷静に考えれば(客観的に見れば)、彼の言い分の「そんなのきっと今だけだよ」が正しいと思われますが、「二度と治らない火傷みたいな痛みが胸を焦がす魔法」にかけられたままの私はそれを否定します。


強がりながらも終わりを受け入れる

夏を通り抜ける度に私は綺麗になるの
お見せできなくて残念だわ

▶︎捨てられた惨めさと、それを認めたくない強がりな気持ちの表現です。
「お見せできなくて残念」というのは、言い換えれば「(綺麗になっていく私を)見られないあなたが可哀想」ということです。実際に可哀想なのは捨てられた私の方ですが、「可哀想なのはあなたの方よ」と強がっているのでしょう。

笑い飛ばして また会えるのならそれでいい それでいいの それでもう

▶︎「笑い飛ばして」=傷ついたりしないわ、というポーズです。引きずったりしないで綺麗さっぱり忘れて、お互いにフラットな状態でありたい。未練を断ち切る意思が垣間見えますが、嫌いになったわけではないから、「また会えたら」と思ってしまう。もう彼の魔法は解け、2人の仲が元に戻ることはないとわかっているから、「それ(=未練を断ち切っていつかまた会えたら)でいい」という諦めの気持ちが表れていると考えられます。



前を向こうとしてもなお、魔法に苦しめられる

同じ花火が二人を照らすのにあなたの胸の内は赤くないのね

▶︎かつて同じ魔法にかけられて同じ熱量で想い合った2人が、並んで同じ花火に照らされているのに、今やその内面は決定的に違っている、2人の関係が終わってしまったことを表しています。
「あなたの胸の内""赤くないのね」は私とあなたの違いを強調する表現で、お互いに対する想いの違いを表しています。言い換えるなら、私の胸の内は赤く染まっている=まだあなたのことが好き。だと言うことでしょう。


総括〜ありえんリアリティで描かれた女の矜恃。生々しさがめちゃくちゃ好き〜

主人公の突然の別れに傷ついた「本心」と、それを彼に悟らせたくない(あるいは自分に言い聞かせるような)強がりな「建前」が交互に描写されることで、読み手・聞き手に主人公の心の揺らぎがよく伝わるようになってるんだろうな〜と思いました。苦しいけど苦しいと認めたくない矜恃を描くことで、主人公の女性が持つ強くて弱い部分の質感がよりリアルに読み手・聞き手に伝わるような気がします。知らんけど。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
それではまたいつか。


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