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Prominence

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詩・散文詩の倉庫02
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賛歌

賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力   ―—街を歩いてもアスファルトに走る無数の    亀裂から滲み出てくる闇を見つめるだけだ―—  ああ この皮膚がすべて剥がされても   感じているか?  動いている 動いている 闇の中で 蠢く者がいる   おう 耳孔で劣化ウラン弾が爆ぜようとも   聴こえているか?    無限に遠く 無限に近い  闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で 赤ん坊がむずがっている 夜の

ちょっとソ連の方へ

    ちょっとソ連の方へ 黒髪がばらりほどけて シベリア鉄道の脇を遁走するトロッコに轢き殺される とろとろとトロッコが進む遥か前方に 朝露をたっぷり含んだ草原が転がりまくり 死んだ黒髪はぐっしょり濡れて 鳥の冠羽の発情期を知らないままに それを代行してしまう シレッと     ウラジオストックの北西の森の奥深く 黒髪は 枯木の林に絡み付いて 電撃ラケット状の罠に掛かったシベリアタイガーは既に虎魚のから揚げになっている から揚げが我が祖国の団欒の食卓に並ぶ頃には 大気の底

鍋料理はほどほどにしてくれ 2

純白のかっぽう着を 砂漠の夕陽がピンク色に染めて ぎんぎんぎらぎらを歌いながら 元気いっぱいにお遊戯する ハローキティちゃん 万歳して手のひらヒラヒラ 体はくるくる回転すれば 空から千のちゃんこ鍋が 黄金色の流星群となって しだれ花火の如く墜ちて来る ナスカの地上絵的スケールの キティちゃん模様を砂漠に描いたら きみはちゃんこ鍋をてきぱき配膳して 私を菜ばしで手招きする ハローキティちゃんも ぎんぎんぎらぎらが佳境に入ると うおおりゃどおすこいっ! と 夕陽に向かって可愛

鍋料理はほどほどにしてくれ 1

紫黒色の真夜中に 流星よりも高速で スピンしつつ飛来する ハローキティちゃん紋様の土鍋 キッチンに降臨する 鍋料理の具材の堆積と その後の亡霊化は 発光するこんぶダシにより 贋の皆既月蝕に憑依する などとワケの分かり過ぎない ラヴポエムをほざきながら 鼻歌まじりの笑みを浮かべて 君は片手に菜ばしを構え ぐつぐつと煮えたぎる 土鍋の蓋をOPENすれば たとえば寄せ鍋や 牡蠣の土手鍋を あるいはアンコウ鍋や ハタハタしょっつる鍋を はたまたキムチ鍋や ぼたん鍋のたぐいを かなりイ

晩秋

南へ向かう鳥達が うす色の空へ溶けて行く きみは衣装棚から 厚い上着を出してきて 胸元を飾る小さな憧れを そっと隠した 子犬が地層の匂いを嗅いでいる 鳥の化石に恋をしたんだ

眼をやられた男

街を這いずり回る 薄汚れた思想を ひっくり返せば 苔の付いた鰐の腹を晒し 蹴り上げれば 貧弱な翼で羽ばたいて 裏通りを低空飛行した後 暗い巣穴に引っ込む  (奴らはウザウザと生きて   ウザウザと死ぬ) ヒトの言葉は 絶えず剥がされる 無くした言葉を求めて ざらざらの舌で 風のスジを探ってみても 絡み付いて来るのは 饐えた思想のフラグメント  (奴らの巣穴に手を突っ込んでも   卵は生ゴミに出された後だ) 街外れのゴミ集積場で 屍骸で膨れたゴミ袋を漁る このバ

悪魔とモリー

立て簾を尻からげ 西日から遁走する ポンコツ食堂 って何のこっちゃ 真白いうどんを まさにいま啜りつつある 丸い背中と脊柱の軋み 頸椎の湾曲と パブロフの猫舌 畢生の大仕事として つるつるつると 一本ずつうどんを啜る その生きざまは 哀しくも喜ばしくも べつに無いですが 向かいのテーブルの 爺さんは何ゆえ はよ食わんかいワレと 歯抜けた顔で笑うのか 放っといてくれ フーフーフーと ダシを冷ましつつ この脳裏には アメリカ五大湖周辺と 中西部の荒野に ハイウェイの光景 モーター

インソムニア

漆黒の空の下 パーマネントグリーンに輝く草原で 千人の私が牧草を食んでいます すぐに千と一人になりました 次は私が千と二人になり 次は私が千と三人に 次は私が千と四人 私が千と五人‥ 私が千と‥ 私が千‥ 私が‥ 私‥ ‥ ‥ 数日後の午前中 私のクリニックのクライエント羊が 両眼の下にどす黒い隈を作って ヨタつきながらやって来ました 充血した眼で私を見るなり 「ああ‥‥あなたが九十九万九千九百九十九人」 私を数えてバッタリ倒れると 四つ足万歳のヘソ天姿勢で 深い眠

海と即興

海が 挫滅する 群青色した 海が 挫滅してゆく 錐もみ状に 圧搾されて きらびやかに 弾ける 海の果肉 総天然色のNoise 決して来ることのない 終末の周りを 永劫回帰する潮流 死者が蘇る 静謐な海に 巻き起こる Milford Gravesのパーカッション びっくらした! イルカと太刀魚が エレクトするたびに 海は 群青色の濃さを 増してゆき 僕らは ゆったりと撓む水平線の 胸に抱かれることを 夢見てしまう 湾岸の礼拝堂の 微笑む聖母像の下で 君と僕はまだ青い

八月

1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。              2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の

プロミネンス

いつも既に記憶だった夏の日に 俺は裸体を晒した少年少女達と 沖合を鳥が群がる海を見たかったが だれひとり気付かぬうちに 海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた 熱気だけが渦巻く無音の嵐に 真夜中の街路樹の果実は金色に弾け 白昼の都市はあらゆる場所で錯乱した 見ろよ水平線を 待ち焦れた空を 天空の片隅に鳥達を追いやって 西から東へ視野いっぱいに 燃え上がる紅炎のアーチ 星々が何億年も語り継いできた 青白い水母のような蜃気楼を 無数の真っ赤な蛇の舌で メラメラと焼き尽くすプロミネン

天使の骨盤

 天使の骨盤は、単独で自立生活が可能であるから、幼生期には他の身体部位と離れて、火星に骨盤だけのコロニーを形成している。火星の北極冠の広大なドライアイスの氷原を群れをなして滑走しながら、左右の腸骨から翼が生え出て来るのを待つのである。将来翼となる骨芽細胞の増殖が始まり、十分に成長発達した暁には、天使の骨盤は翼を羽ばたかせて氷原から次々に離陸し、火星の重力圏外へ飛び出すと、尾骨の方向舵を巧みに操りながら、大挙して地球に飛来するのである。  ところが、地球の大気圏突入時の空気との

怪猫伝

見渡す限りの 涼やかな朝の恐怖である 舐めたらまだ夜の味がするコンペイトウの砂漠に棲むモフネコが眼ヤニをふきふき起床するやいなや頭蓋が核爆発しくさった 蒼天にエレクトするキノコ雲は ごっつう禍々しゅうてドモならんのう 骨灰まみれのコンペイトウが草原に七日七晩降り続けたという 千のモフネコの千の首は 千万の弾頭に増殖して極超音速ミサイルに装填すると無数の瞳孔が縦に光り出しました                 それで、猫又AIの             秘儀的核実験

うまれかわ

じゃぱねっとカタカタの社長が、机の上に大きなガラスビンを置いて、カン高い声で通販のセールストークをしている。ガラスビンの中では黒い味噌みたいな物がゴニョゴニョ動いている。その中からピンポン玉くらいの大きさの惑星が次々に生まれると、ポンッと蓋が弾けて、水・金・地・火・木・土・天・海の順にビンから飛び出し、ポンポンポンと八つの超小型打ち上げ花火に変わった。最後に冥王星もヨロヨロと出て来て打ち上げ花火に変わった。社長はひと通りセールストークを終えると、片手でビンをパチン!と叩いて、