見出し画像

美しい瞬間 #シロクマ文芸部

新しい朝が来た。
電車のホームに着き、白い息を吐く。


今日は上司に何の理由で怒られるだろうか。
今日は何に緊張しなければいけないのか。


私は真面目に仕事をしているつもりなのに、どうして理不尽なことで怒られなければいけないのだろうか。
三連休明けの日、電車を遅延させる人の気持ちが分からないこともない。


「理不尽なことを我慢するのもお給料に含まれる」って母親に言われたっけな。
私は理不尽なことを我慢するために大人になったんだろうか。


死は甘い誘惑だ。
でもきっと、死んだら無になる。
あぁ、私は輪廻転生できるのだろうか。

私はアホだから、
実家に行けばいつも忘れ物をして帰ってくるし、
この前は大掃除で洗濯機にスマホを入れて回し年末に大きな出費をしたし、
体温計を冷蔵庫に入れて冷やしたこともある。

そんな感じで、私は死ぬならポップな死に方がいい。
周りから「●●らしいよね」と葬式で言われるような。
あぁ、朝から何を考えているんだろうか。


朝日が目にささる。

反対側の電車が過ぎ去ったときイヤホンから、OasisのWonderwallが流れた。
そして富士山の形が見えた。
それは文字通り、美しかった。


あぁ、これは私しか知らない瞬間だ。
その瞬間を美しいと思うのに、全てが完璧なタイミングだった。
「うつくしいものを、美しいと思えるあなたの心が美しい」
小学校の時の担任の先生が好きな言葉と言ってたっけな。

どんなに疲れていても、私にはこんな感性が残ってる。
だから私は私をやめられない。


会社に向かう電車が来た。
今日も怒られるかもしれない。
でも私は大丈夫。
あいつは私のようなこんな美しい感性を持ち合わせていない。


新しい朝に立ち向かえる私は、満員電車へ乗り込んだ。


▼以下の企画に参加しました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?