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例えば、今、音楽と少し距離のある生徒とアンサンブル

例えば、今、音楽と少し距離がある生徒とハノン

うちは、音楽教室から脱皮して音楽室をやっています。(とはいえ音楽を学ぶ場所にかわりはありませんが・・)
そんなところにやってくる生徒の中にも、なんとなくここににきてる、なんとなく続けてる、という様子の生徒もいます。
なんだかんだ生徒との付き合いが長いので、なんか親戚のうちくらいにおもわれてんのか?という感じで、とにかくちゃんと時間にはやってきて、くてっと話をしてかえる、みたいな。

ことに中学一年生ともなると、忙しくて家で練習もできそうにないので、とにかく、ここで指を全部動かそうということで、指番号ハノン(指番号だけを抜き出して楽譜をみないで指番号で弾く、という練習)というのをやっていて、とにかくそこからワークが始まります。

絶対に弾きたくないというわけでもなく、さりとて、うほっピアノ楽しい、という感じもなく、ちょっとむすっとした感じで、始まるハノン。

さて、そこに、音楽室のぬしが一緒に並んで、同じハノンをこの生徒とユニゾンで弾くとしたら、果たして、その生徒の音に並んで、どんな演奏をしたらよいか。
何をとか、どんな曲をではなくて、音楽でどんな関わり方をするか・・・

私はいつも、そこが音楽教室から一歩ふみだした”音楽室”の本領だと思うのです。

なので、ここでは腕組みして、傍観し、メトロノーム片手にがんばれとか言う場面ではないんですよね。
かと言って、模範演奏的に「私についてこい」と言わんばかりの伴奏は、中学生がよく言う「うざい」というカテゴリーに入れられてしまうことだろうと思うし。場合によってはそれは言葉より、まずい。へんにに寄り添われても気持ち悪い。

ここは言葉で具体的に伝えるのは難しい領域やとは思うのですが、例えばメゾピアノでひく生徒のハノンに、それより軽くそほく、先走らないように、気を使わせないように、生徒の途切れがちなところを少し補足するように、そして何より、生徒と並んでただハノンをやる、という心地よさが共有できるように、そういう線を描きながら、伴奏、いえ、伴走できたら上出来と思います。

そして、その技が私はここ音楽教室をやめて音楽室になっているこの場所にある「音楽」なんだと思っています。
たかがハノンだけれども、そこは使いようなわけで。

何を選ぶか、指の正しい使い方のために、ハノン、そういう選択が音楽教室なら、そのうえに今ここで、欠くことのない音楽をすぐに楽しむためのハノンに、いかにシフトするか。それが音楽室のあり方やと。

ムスッとしながらも思春期の生徒、嫌でもなさそげに最後まで弾いたあと、ちょっと世間話などはじめました。緊張が解けた様子。レッスンとしての時間はそれから。

痛みを忘れるためのアンサンブル

数年前、父が手術後、麻酔が切れた夜に付き添ったときの話です。

真夜中、苦しそうな父の手に手を乗せて、子どもに子守唄を歌うときにするような、トントンとリズムを取る仕草をすると、少し、痛みからきがそれたようで、私は、自分が眠くならにように、それに合わせて歌をうたいました。
ふと、手をとめると父は、それを続けてくれるように、と、いいました。
トントントン、と3回 そして少し間をおいて、またトントントン、と3回、この繰り返し(・・・といっても、微妙な揺れがあるわけなのですが)が一番父の身体に入っていけるのだということがだんだんに見えてきて、それには呼吸が関わっていることや、出産のときのヒーヒーフーみたいに、同調してもいけない、ということ、を学びました。

帰ってその時のことを思いながら、utena drawing に起こし直した、あのとき掴んだ感じは、父からの忘れられないギフトになりました。
それは、もしかしたらかなりふかいところでの人と人のやり取りを可能にする、音楽の本領なのかもしれない、と、思います。

その人にはいりこんでいけなくてなんのための音楽なのか。

口で褒めようが、叱責しようが、こうした伴走のときに伝わっていくもののほうが、言葉よりもうんと何かを届けてくれる。届いてしまう。

音楽室にくる生徒たちが今練習している曲を片手パートずつとか、かんたんにリズムやハーモニーを添えるようにとか、で、私とセッションをする?というと、
お、いいよ、と、いっちょ前の顔になります。

完成されなくても、いつでも音楽は楽しめるし、深いところにも刺さっていく。
そうしながら、
その人がほんの少し先を見通せるように一歩さきが明るくかんじられような、
そういう仕事がしたい、と思います。音楽室への模索はまだまだ続きます。

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ここからは初めて谷中の記事を読んで頂いた方に、もし興味が湧いたらも少し読んでいただきたい記事です。

utena drawingは動線を描くことで音楽の要素を伝え合ったり、自分の感じている音楽にアプローチしたりすることのできる音楽学習ツールです。これについては、こちらを覗いてみてください。

この記事を収めたマガジン「人と音楽のあいだを満たすものについて」から抜粋

愛媛の片田舎でがんばってます。いつかまた、東京やどこかの街でワークショップできる日のために、とっておきます。その日が楽しみです!