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noteの街に風が吹く Ⅳ 方向性を占う「三方よし」【小説的考察】

江戸時代、今でいう「名裁判官」として活躍した江戸町奉行の大岡越前守忠相をご存じですか。加藤剛が主演した時代劇ドラマ『大岡越前』はシリーズ化されて1970年からおよそ20年間続きました。その大岡越前の有名な逸話に「三方一両損」があります。

江戸の町での出来事。ある大工が三両入った財布を落としてしまいました。その財布を拾った左官が大工に届けたところ「俺も江戸っ子でぃ。一度ふところを離れた金が受け取れるか。持って帰りやがれっ」と頑としてきかない。左官も左官で「金がほしくて届けたわけじゃねえんだ」と腹を立ててケンカをはじめる騒動に発展。そこで大家さんが提案して天下の名奉行、大岡越前守に裁いてもらうことになります。

大岡越前は一旦その三両を受け取ると、自分の懐から一両を足して四両とします。すると2人の江戸っ子ぶりに感心したとの理由で、褒美として大工と左官にそれぞれ二両ずつ渡したのです。

「2人とも本来ならば三両手に入れるところを、二両になったから一両ずつの損。この越前も懐から手出しして一両の損。これぞ三方一両損なり」

大岡裁き「三方一両損」として語り継がれ、落語の演目にもなっています。もちろんドラマ『大岡越前』でもその一幕が見られます。

今回の『noteの街に風が吹く』ではそんな「三方一両損」に似ているようでちょっぴり違う、もっと現実的で将来に繋がるような夢のあるお話しが飛び出しますよ。

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私は、まゆから教わった通りに『共同マガジン』に参加して、書いた記事を投稿した。すると鳴かず飛ばずだった記事に少しずつ“スキ”がつきだした。誰かが反応してくれていることを実感できるとやはり嬉しいものだ。

その一方で、noterたちが書いた記事を読むうちにいろいろな悩みがあることがわかり、私自身も疑問を抱くようになった。

私はまだ日が浅いのでそこまで深刻に捉えていないが、記事に対するリアクションの向こう側を気にするnoterは少なくないように思える。

“フォロワー”や“スキ”の数が増えると嬉しいが、実は記事を読まずにフォローしたりスキをつけたりしている可能性がないとは言い切れない。

「そんなことで一喜一憂するな」という言葉が脳裏をかすめるが、私だってそのことを考えるとモチベーションが下がってキーボードを叩く手の動きが鈍ってしまう。

PCのディスプレイをボーッと見つめながら考え事をしていたら、いつ現われたのかまゆの声がした。

「何やってんの?パソコンに吸い込まれちゃうぞ」

「吸い込まれたいよ。私もまゆみたいにnoteの世界を覗いてみたいわ」

「冗談よ。いくらなんでもそれは無理。何を真剣に悩んでたの?」

私が“フォロワー”や“スキ”に抱いた疑念について話したところ、まゆは複雑な表情を見せた。

「ジュン、まだ甘いわね。いいこと。そんなところでもたついている場合じゃないのよ。早くマネタイズのことを考えないと置いてかれちゃうわ」

「えーーーーもう次の課題! 何よ“マネタイズ”って? マタニティーブルーズ的なこと?」

「あんたマタニティーブルーズになる前に妊娠の兆候すらないでしょ。収益化することをマネタイズっていうの!」

「なんでnoteに収益化が関係あるの? 無料だよね」

「確かに無料で記事を投稿できるし、多くの記事が無料で読めるわ。でも有料記事を読むには課金が必要だし、共同マガジンやメンバーシップも有料の場合があるわ。それによって収益が発生するの」

「ていうことは、もし私が有料記事を書けば収益化できるということよね」

「そういうこと。今はnoterのほとんどがマネタイズに興味を持っているといって過言じゃないわね」

「でも、まだ記事を投稿し始めて間もないのに、有料記事なんてハードルが高くてまだ無理そう」

私が弱気な言葉を吐くので、まゆが呆れたようにアドバイスしてきた。

「あなたみたいに一歩を踏み出せないnoterがたくさんいるわ。有料記事やマネタイズについてはシゲクさんの『note生き残り戦略2024』を読むとわかりやすいかも。有料だけど購入する価値はあると思う」

「それも有料なんだ…」

私はまだ有料記事を購入したことがない。ついこぼした言葉をまゆに聞かれてしまった。

「ジュンだってダイエット本や美容関係の本や資金運用の本とか買うでしょ? noteの有料記事も役立つ文章を購入すると考えればいいのよ」

まゆはそう諭してから、次のような理論を紹介した。

「共同マガジンもやっているジセおじ GAMIさんが、noteの収益化に関して“三方よし”の考え方を提唱しているわ」

「三方よし」の精神は未来を救うヒント

「それって、大岡越前の“三方一両損”みたいなやつじゃない? おじいちゃんが録画したドラマを繰り返し見ていたから覚えてるの」

私は祖父と過した頃の記憶を辿ってピンときた。しかし的外れだったようだ。

「あなたの年代で“三方一両損”を知っているとは感心ね。でもそれと“三方よし”は同じようで違うのよ」

まゆによると、「三方よし」は近江商人の経営哲学だという。

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近江商人は近江国(現在の滋賀県)を拠点として活躍した、大坂商人や伊勢商人と並ぶ日本三大商人のひとつだ。伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛は近江商人だった。伊藤忠グループでは伊藤忠兵衛の言葉から生まれた「三方よし」の精神を企業理念としている。

近江商人の経営哲学のひとつとして「三方よし」が広く知られている。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方だ。滋賀大学宇佐美名誉教授によれば、「『売り手によし、買い手によし、世間によし』を示す『三方よし』という表現は、近江商人の経営理念を表現するために後世に作られたものであるが、そのルーツは初代伊藤忠兵衛が近江商人の先達に対する尊敬の思いを込めて発した『商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの』という言葉にあると考えられる。」とのことである。

伊藤忠商事HP「近江商人と三方よし」


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「つまり、noteで有料記事を投稿したクリエイターが“売り手”ならば、それを購入する読者は“買い手”、note全体の運営が“世間”と言えるわね」

「そっかー。“三方一両損”は大岡越前がとんちを効かせた逸話だけど、“三方よし”はリアルな経済効果を表現しているんだ」

私が唸ると、まゆは頷きながら続けた。

「これは日本経済の行方を左右する考え方でもあるわ。消費者が低価格を追究しすぎると、販売する側は十分な利益を得られずに雇用者は被雇用者の賃金を上げられない。場合によってはリストラもあり得る。そうすると社会全体の経済は冷え込んでしまう。それぞれのバランスを保つ“三方よし”の精神が必要なのではないかしら」

「すごーい! まゆってさぁ、本当に座敷童子の一族なの? だったらさしずめ“座敷神童”ってところね」

「ジュンが言うとお世辞に聞こえないから照れちゃうわね。で、マネタイズについてはわかってくれた?」

「ええ。私はとりあえず“買い手”として気になる有料記事を読んでみるわ。有料記事がどんな感じか掴んでから“売り手”として自分で有料記事を書こうと思う」

「それとあとひとつ。noteの街には“スキ”や“マネタイズ”を気にせず、のんびり散策したいという人もいるから。忘れないようにしたほうがいいわね」

「へーーそうなんだぁーー、十人十色ってことね。わかったわ」

会社での異変

最近はnoteがすっかり生活の一部になった。夜遅くまで記事を読んだり、スキをチェックしたり、自分の記事を書いたりと忙しい。でも続いているのは充実感があるからだろう。

今朝も眠い目をこすりながら出勤した。するとまだ朝礼前なのに、チーフが応接室に来るよう手招きするではないか。不意を突かれてさすがに緊張した。

応接室に入ると、私と同じ時期に入社したAさんが立っていた。Aさんは、私より年下だがやり手のセールスレディーだ。

「新屋敷さん、実は彼女から話があるらしいんだ」とチーフが切り出すと、Aさんが頭を下げた。

「ごめんなさい。嫌がらせをしたのは私なんです。新屋敷さんの机に“いらない”と書いた紙を入れたり、トイレに落書きしたのは私なんです」

「なんでまた。私がなんかやったっけ」

「違うんです。羨ましかったんです。新屋敷さんのことが。私は毎日周りの目を気にしながらあくせく働いているのに、新屋敷さんを見ていたらマイペースで余裕があって。正直嫉妬してました」

何言ってんの!私だってなんとかかんとか1か月耐え凌いだんだから。そう心の中でぼやきながら、Aさんに聞いてみた。

「でも、わざわざ私に明かさなくてもよかったんじゃない?」

「実はnoteで読んだんです。ジュン1ダースさんが書いた記事を。自分がやったことが、どれほど人を傷つけたのか気づかされました。ホントにごめんなさい」

「新屋敷さん、私もあのときは軽々しく『エイプリルフールだから』なんて返して申し訳なかった。Aさんから真相を聞かされて反省したよ。許してくれ」

チーフにまで頭を下げられては仕方がない。私もまさかここまで引きずるとは思っていなかったので、これ以上責めるつりはなかった。

「わかりました。Aさん、正直に話してくれてよかったわ。私はもう気にしていないから、また同期としてよろしくお願いね。それと、ジュン1ダースの件は内緒にしといてね」

「はい!」

Aさんの笑顔を見て、なぜだか私も嬉しかった。

置き手紙

私は気分良く仕事を終えると、家路を急いだ。いつものように4階まで階段を上った。

「ただいまー」

ドアを開けて呼びかけたものの、まゆはどこかに出かけているようで返事はなかった。

「お帰りなさい」のリスポンスに慣れてきたので少し寂しい。

テーブルには美味しそうな夕食が準備されていた。ふと、そこに置かれた封筒に目がとまる。

嫌な予感がした。

封筒を開けると手紙が入っており、手書きでこうしたためてあった

ジュン、今日は会社でいいことがあったみたいね。

思えば、エイプリルフールであなたが凹んでいるときに出会いましたね。
私は座敷童子一族として「不幸そう」なジュンがやり甲斐を見つけられて嬉しいです。
ジュンもnoteに馴染むことができてよかったじゃん。
noteの街もジュンのように前途有望な住人が増えて活気が出ると思うわ。

これってある意味「三方よし」だよね。

ジュンはもう大丈夫。私はそろそろ次の出会いを求めて旅に出ます。じゃあまた。

私は手紙を読みながら頬を伝う涙を拭った。

でも悲しかったわけではない。きっとどこかでこっそり見ているであろうまゆに向けて話しかけた。

「ありがとうね、まゆ。また遊びに来てね」


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『noteの街に風が吹く』シリーズは一旦終了します。最後までお読みいただきありがとうございました。

noteの街に特筆すべき変化があったとき、再始動するかもしれません。

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文中で紹介したシゲクさんの有料記事および、「三方よし」を取り上げたジセオジ GAMIさんの記事。

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