何するゲーム?面白いの?好きなの? - 評価する行為の分解、の試行

 私は常々、好きと嫌いと面白いとつまらないはそれぞれ個別に採点可能である、と思っています。
 ここでの採点とは具体的な点数を付けることでなく、内容物の分析結果を比喩して表現することです。また、評価基準としては当然これらで足りるはずもなく、よく混同されやすいものとして好きと面白い、よく相関性があると思われているものとして好きと嫌い、を例に挙げました。

 と、一から言うとめためたに長ったらしくわかりづらいのですが、既存の言葉に則ってそれぞれを呼称できるようです。
 即ち、感想、批評、状態の形容。

「カリカリしてる」?
「酸っぱい味がする」?
「中が空洞」…?
そんなの感想じゃない
状態の形容をしてるだけだ!
感想って言うのは感情の変化を言うことなんだ
「カリカリしてる」から自分はどう思ったのか
中が空洞と知って不快だったのか快感だったのか
君たちはたかだか菓子を食った時の自分の感情の変化にも気付けていない

 それがどういうものであると述べることと、結果自身がそれをどう受け取ったか述べることを、それぞれ「状態の形容」「感想」と言い分ける、とします。
 ちなみにこの漫画、全編はTogetterにまとめられていますので、興味ある方はリンクからどうぞ。

批評するときの主義として、印象批評から離れるようにする。「点数」を揶揄する向きがあるが、おれは賛成である。というのも、点数という縛りがあるからこそ、批評家は公共的になろうとするからだ。ところで、あるひとりの個人が完全に公共的であるなどということは、不可能である。おれが死ねば、人類全員が死ぬ。

 公共的であろうというスタンスから見た評価を、(藤田祥平氏個人の主義ですが、「藤田式批評」とか言い始めると鬱陶しいので、敢えて大きめに)「批評」と呼称する、ともします。

 とすれば、ゲームを評価するにおいて、ざっくりとした概要紹介のことを「状態の形容」、注意深くプレイし考察した面白い/つまらない点を「批評」、個人的にここが好き/嫌いだった部分を「感想」として、一緒くたに言われる評価を切り分けて論ずることができるのではないか。
 そういった仮定のもと、試しに2本ほど評価(状態の形容、批評、感想)してみます。


 (状態の形容)
 Just Shapes & Beatsは、音楽に合わせて迫りくるShapesを回避する、リズム弾幕ゲームです。
 単色で描かれたShapesの動きはなまめかしく、音楽と合わせて踊り狂う、一種のミュージックビデオとしてとても良く作り込まれています。そういったビデオの中、小さな自機を上手く操作し回避すると、まるで自身も音楽に合わせて踊っているような気分になれるでしょう。
 回避操作は移動の他、ダッシュが搭載されています。一定距離を無敵で移動する、所謂ドッジロールですが、これを使用しないことで取得できる実績が存在することから、タイミング合わせて縄跳びするだけでなく、昔ながらの実直な回避行動もサポートされていることがわかります。
 また、オンラインの協力プレイが搭載されている点も魅力的です。特別目玉としてのモードではない、オマケ的Co-opだと思いますが、それをわざわざオンラインプレイに対応してくれるスタジオは多くありません。まあ、今ではリモートプレイで大多数解決する話ではありますが、この時は珍しかったのです。
 ストーリーは個性豊かなShapes達による無言劇で進行しますので、非ローカライズ地域でもバッチリです(そもそもが11言語に対応していますが)。ルールもとてもシンプルなので、誰にでも楽しめるゲームです。

 (批評)
 過去、一部の弾幕STGに対し、弾幕のイライラ棒化が騒がれていました。
 具体的に何がイライラ棒的弾幕か、何が弾幕をイライラ棒と思わせてしまうのかに関して、論ぜられたものを見たことはありませんが、「自機狙い弾+方向固定弾」のテンプレートからはみ出して行き、弾を止めて壁としてすら運用し始めた、弾幕の進化の過程に現れた言葉でした。
 弾幕は大きく形を変えてきました。単に武力の行使でしかなかった弾幕は、弾によって何かを抽象化して表現するようになり、弾で具体的に何かを描くジョークも現れ、めくりかえって、描かれた絵のことを弾であるとすら言うようになりました。

画像1

 そして今、Just Shapes & BeatsがSteamでbullet-hell basedを名乗り、Nintendo Storeで弾幕アクションシューティングと紹介されるのは、過去イライラ棒と揶揄されたその体験こそが一つのジャンルであったという証左です。
 一発も弾を撃たないこのゲームをシューティングと呼ぶことに抵抗があるのならば、シューティングから独立し、一種のダンスとして楽しまれる今日の弾幕アクションに、また一つ新たな名前を付けてあげるべきではないでしょうか。

 (感想)
 そして私はこのゲームが嫌いです。

 シューティングゲーマーが培ってきたコンテキスト、自機狙い弾の誘導と切り返し、接射や弾封じといった直感的でないが一般的な攻略法というのは、それが面白いから受け継がれてきた物です。
 Just Shapes & Beatsに自機狙い弾は、覚えている限り一つも存在しません、弾封じ等も同様です。
 それら、知っている者達にとって工夫の余地は、知らない者達、新規に対する参入障壁でした。なのでこのゲームは、シューティングゲーマーでない方々にこそプレイされるべきゲームであり、アクションシューティングの名乗りを見て購入した場合の期待は裏切られることになるでしょう。

 画面表現についても期待してはならない点があります。
 限定的な表現の避けゲーといえば、例えばNoiz2saのような美しい抽象表現を、このゲームに期待してはなりません。
 あらゆる場面で具体的な事象が描かれます。怒った敵が薬物を摂取するとマリオのキノコの音と共に巨大化し、土管が現れ、片方に入ればもう片方から出てくる。また別のステージでは、螺旋状の壁に囲まれて真ん中がぽっかり丸く空いていて、そこに回避すると次はゆらゆらと大きな丸が何かを探すように揺らめく、ああ、最初のあれがライフリングで次のがサーチライト、つまり007ね。
 具体的な文化に則った表現がゲーム中の多数を占めます。色数を絞った限定表現内で可能な限りの連想を行わせるものであるとすれば、確かに十分に手がかかっています。
 しかしこれを、アブストラクト弾幕シューティングと呼ぶような、そんなレビューが存在してはいけません。マリオを知らない者が土管ワープに納得するでしょうか。007は今の若い子に伝わるでしょうか。さらに言えば宇宙人に見せて、この敵は人類の顔を模したものであり、この表情は怒っていてこっちはラリっていると、伝わるでしょうか。
 アブストラクトに文化的背景は存在してはいけません。アブストラクトは宇宙人にも地球人にも平等に訪れる、現象のみが漂うものです。そしてこのゲームの表現は、あまりに人間の脂にまみれています。

 何ならチップチューンと言ってとりあえずマリオサンプリング出しとく、お前らこーゆーの好きなんだろ感が、セガハード民としては鼻につく、みたいなのもありますが……楽曲についてはそれでも、大半に満足しているので、そこには深く触れません。
 ただ、私は事前に、このゲームを「アブストラクト弾幕シューティング」と呼ぶレビューを見て購入してしまったので、アブストラクトでも弾幕シューでも何でもないじゃん、アブストラクトと弾幕を勉強し直してこい、という感想を抱いてしまったのでした。


 (状態の形容)
 Kicstarterにて多くの支持を集め、期待と共にリリースされた、ローグライトFPS。
 '96当時を再現したローポリ画面と、やりすぎなまでの血液表現、そしてそれらを大きくアピールするVHS風の特撮PV等、あの頃のゲーマーに訴える要素が多く含まれています。
 ランダムに生成されるダンジョンの中を、カードキーや網膜認証用の生首を探しつつ、初期装備の銃を強化したり、使い切りの強力な銃を撃って捨てたりして進んで行くゲームです。
 ランダム生成で何度でも遊べる、というのが昨今流行のローグライトの部分ですが、ゲーム中はバニーホップやロケットジャンプ等、'96当時のFPSの仕様が多数再現されていて、新旧併せ持った遊び味となっています。

 (批評)
 が、それら新旧の遊び味は、融合し調和されているというより、ばらばらに存在します。

 まずローグライトとして見ると、ジャンクボックス、廃品回収機、武器MOD等は、フロア毎に出現数が定められています。何度やっても同じくらいの武器強化量になるため、強化アイテムも数が決まっているかもしれません。これらは大体詰まない程度配置されており、廃品回収なかったけど今回体力回復多い、等のブレが無く、プレイの多様性の面で致命的です。
 また、初期装備を強化していくと、大抵はゾーン2をクリアした辺りから、使い切りの拾い武器よりも初期装備のほうが強力になります。その上全編通して弾が余りがちなため、ランダムに配置されている武器の使いどころを見極めるようなプレイは、ゾーン2までで終わることでしょう。

 逆にオールドスクールFPSとして見ると、ゾーン1,2の狭苦しさ、踏むとダメージを受ける黄色い血による移動制限は、窮屈な印象を受けます。
 ゾーン3まで進むと確かに気持ちよく飛び回り撃ちまくれるようになりますが、今度は敵AIのお粗末さが足を引きずります。真っすぐ寄って来るしかないため、狭い出入口まで引っ込めば全員纏まってしまうのです。
 結果、部屋を開けて引っ込んで撃つ、の繰り返しになり、そこまで激しく飛び回るゲームとは言えません。

 決してつまらないゲームではなく、高い難易度から来る踏破時の達成感は高かったものの、それも初回だけ、ゾーン2突破できるようになると大抵クリア安定してしまうので、何度も味わえるものではありません。
 総合して、気合の入れどころは理解するものの、どこかちぐはぐな、空回りした一本。人に勧めるにはやや厳しいでしょう。

 (感想)
 でも、気付くとやってしまうのです。
 土曜の昼下がり、何かしようと思いつつだらだらとスマホをいじったり、マインスイーパを解くように、Strafeを起動して1周し、経過した時間を後悔する。それを何度も繰り返しました。
 やっちゃうから消そうと思っても、アップデートが入る度にまたインストールし、アプデ確認に1周、なんとなく1周、を繰り返しました。

 思うにこのゲームは、味が薄いのです。
 つまらない点は少ないものの、面白い点も少ない。プロシージャルはガチガチに制限され、部屋構造と敵の組み合わせはシナジーを発揮せず、全体を通しては一回性があっても、ミクロに分解していけばいつもの単純な作業。
 プチプチ潰しに感動を求めず、スーパーの麦茶パックに深いコクや香りを求めないように、既に踏破が安定したStrafeというのは、薄い麦茶が如く昼下がりの怠惰に似合ってしまうのです。

 これを好きというほど、私はオールドスクールFPSに傾倒しているわけでもなく、ゴア表現に魅力を見出しているわけでもありません。
 ただ、薄い麦茶のことを大好きで飲んでいるのでなくても、麦茶のことが嫌いではないように、薄いStrafeを薄く遊んでいるだけです。

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