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TIMELINE for “parallel park” に向けて parallel parkを振り返る

4/5  tacicaの結成記念日!!

その翌日、4/6より始まるワンマンツアー

「TIMELINE for parallel park」

 過去に発売したアルバムを現在のバンドで再現をする「TIMELINE」企画の4回目。結成19周年を迎えるtacicaが今回再現するのは2008年に発売した1st album 「parallel park」。

 実はこのTIMELINE for parallel parkは2020年にも開催されていた。かのウィルスが猛威を振るっていたために、1公演のみで観客も収容人数を減らしていた。行きたくても行けなかったという方も多くいただろう。(私もその一人)

 それが今回、さらに1st mini album
Human Orchestra」も合わせて演奏されるという。結成20周年を迎えようとしているtacicaが
原点回帰をするツアーとなっている。
昔から知っている人も、最近知った人あるいはこれから知ろうとしている人も楽しめるツアーになるだろう。 

 そんな楽しみ満載なツアーをさらに楽しむために改めて1st album 「parallel park」を振り返ってみる。(あくまで自己満足)


1.ヌーの休日

 束の間の休日にこれからを考えて、また移動を始める。

 1曲目だというのにタイトルには休日という言葉が入り、本当にこれから曲が始まるのか? と思わせる。

 イントロ無しで2分08秒で終わる短い曲。
後に出るアルバムでもtacicaのアルバムの1曲目は短めの曲が多い。

 ヌーといえば大移動が有名な動物だ。食料を求めて群れとなって危険な場所を乗り越えていく。そんなヌーの束の間の休日と人の生きる様を掛け合わせているかのよう。

0になる瞬間 誰も待ってないから
だからその瞬間 何を持っていたい?

 待つと持つで韻を踏んでいるのが心地よい。
 0、無に帰るとき、つまり"ここからいなくなる"
瞬間なんて誰も待っていない。だからその瞬間を迎える時、何を持っていたいか問いかけてくる。

必要に始まる生命が輝いていた夜

 食料を求めて大移動するヌーは産まれ落ちたときのあの夜のことを思い出す。
輝いてみえたあの頃のことを思い出して、過去に惹かれながらヌーは、人は、休日を終えてまた歩き出す。

 休日というタイトルであるもののどこか始まりを予感させて、次曲"ゼンマイ"とシームレスに繋がる。

2.ゼンマイ 

 あの時見た風景も抱いた感情も忘れないように、夜明け前にまた希望を探す。

 ヌーの休日から自然に繋がって始まる。
ゼンマイは植物の方のゼンマイであり、機械の方の発条でもあるよう。

ビルの威勢で
大好物の胸を焼く様な
夕日も覗かなかったり

 高層ビルが立ち並び、空や風景といったことを見ることが出来なくなった。発展や成長をするには何かを失うことも必要となる。

僕の鼓動を報せたいだけ
街の色を忘れないうちに

 この街の風景を、ここで過ごした思い出もきっと忘れてしまうその前に僕がいた証を刻みたい。

傷を隠して成功なんだ
気付かれたって失敗なんて云わないのに

 傷ついたり、落ち込んだり、へこんだり。そんなことを周りには見せずに隠す。気づかれたって誰も失敗なんて言わないのに隠し続ける。

出来損ないのゼンマイ
宙に浮く筈のない
未来は嫌いになったの

 ゼンマイバネは引っ張っても弾性の力で元に戻ってくる。出来損ないのゼンマイは元に戻って来れず伸びきったままになってしまう。
そんな進むだけしかない、元には戻れない未来を嫌悪する。

 スティックのカウントがあってからのサビ。
一度立ち止まって深呼吸をするかのようだ。

世界が今 全力で吐き出すは
息を切らした希望

 世界中にばら撒かれるのは息を切らすような か弱い希望。その希望を求めて日々を耐える。

部屋の隅で好機を待って
痺れていた足を
そっと突き出そうと

 誰にも気づかれないような場所で足が痺れるまでその時を待つ。ようやく巡ってきた機会に希望を夢見て一歩踏み出そうとする。

合わせた手に企んでいた未来の
自分じゃない今日も

 昔願った理想の通りではなくても今日という日は当たり前のように過ぎていく。

腫れ上がった瞼じゃないと
見間違えたのさ 僕も
綺麗な目をしたヒーローが頷いた
命を知ってしまった

 泣いてばかりいた僕はもういない。理想通りにならなくても小さな希望を探すことで生きる意味を知る。
そんな僕を見てどこかにいるヒーローが肯定するように頷く。

踊れない世界を回して
また理由を見つけ出すさ 
夜明け前に

 思い通りにならない世の中で立ち止まっては生きる意味を探す。

 夜明け前に というフレーズが繰り返されて歌われる。

 ゼンマイバネが跳ねるようにぐっと力を込めているように感じる夜明け前。
また明日を迎える為に力をつける。

3.人間1/2

 相反する"僕と僕"。どちらかじゃなくてどちらもあって"僕"をつくる。

 前の2曲とは打って変わって激しいギターの音から展開される。その後、ベースが主張しながら入ってくるのも気持ちがいい。
ちなみにタイトルの1/2は2分の1とそのまま読んでもハーフと読んでもいいとのこと。ただ猪狩さんはあえて読まずに人間というタイトルで呼称している。

闘争心を持って生まれた あの日のモンスターも
 
角度違う生命達が 今日も競い合う世界さ

 物事は角度を違えて見ると変わる。生物だってそうだ。皆が皆、同じじゃない。闘争心を燃やす者もそうでない者も、角度が違うだけの同じものたちが競い合っている。

眠らないのは左 
その身勝手許さない右
左右不対称にもう疲れたみたい

 非対称ではなく、不対称。こんな言葉はないが、違和感なく聞ける。
ぶつかり合う感情たち、でもそのバランスをとるのはどうしてか疲れてしまう。

両方の声が
「この身体で生まれて良かったのかい?」 
云われた気がして 焦っていないかな

 相反する2つが声を揃えて、この身体で生まれて良かったのかい? と聞いてくる気がする。
そんな言葉に動揺してしまう。

好んで抱いたどちらかを本性だって呼ぶ
お望み通り終えたけど
もう片方の僕見当たらない

 そんな2つの内の1つを選んだら、その人の本性が顔を出す。そして選ばれなかったもうひとつは姿を消してしまう。

置いてきた僕が
怪我した隣で眠った振り
追い出した言葉は覚えていないかな

 選ばれなかったもうひとつは怪我をして、眠った振りをして、まるでもう関係ないかのように振る舞っている。しかも自ら追い出したはずなのにその言葉すら覚えていない。

 脈を打っているかのようなドラムが鳴り出す。
その後、血が巡るようにギターの音が駆け回る。

心臓のように 特別な居場所は無いとして

 2つの声は心臓のように場所が決まっているわけではない。だからといって無視できるものでもない。

もう片方を探している
両方の声が
「僕等で生まれて良かったのさ。」
云われたつもりで歩いていけるから
 
もう僕等のままで居させて

「生まれて良かった」
きっとそう言われている。そんな都合良く解釈して生きて行くためにも、置いてきたもうひとつの僕を探す。

 自分との闘いを終え、眠るかのように音が止む。

4.HERO

 聞こえているか、いるんだろう? ヒーロー。 ボロボロの僕を助けてくれよ。

 人間1/2の余韻もそこそこにまたアップテンポな曲が続く。こちらの曲はmvが作られている。

 中々に難解でシュールさもあるmv。ただ演奏している姿はめちゃくちゃ格好いい。この頃はまだ顔出ししていない時の為、顔は照明で上手く隠されている。 

大胆に転べるスニーカー 爪先で堪える反動
大事なものが失くなった 泣いたりしないんだ

 失っても傷ついても、堪えて決して泣きはしない。そんな強がりが窺える。

涙で描かれたヒーロー
僕等を守って

 

 ここでタイトルのヒーローという言葉が登場する。泣いたりしないと強がっていたが、弱音を吐くように涙を流して、縋るようにヒーローに守ってくれと願う。

降るイメージによってのエンジンで
廻す手は緩められないが
胸の最上階では機械音通りに
心地よく踊れるんだ

 降りてきたイメージがエンジンとなって、手を動かしてくる。しかし、胸の最上階の心臓は機械のようにいつも通りに精密に脈を打っている。
つまり、どんなときでも心臓は脈を打って、自分というものが存在している。

私利私欲に出来た 機関銃じゃ
撃ち出せる不安はない
なのにヒーローさえ辿り着けない
場所まで築き上げたんだ
そうだろう

 機関銃はマシンガンと読む。まさにマシンガンのように言葉が矢継ぎ早に続く。
 自分のために作ったマシンガンでは不安は撃ち出せないのに、ヒーローでも辿り着けないような場所を望んでしまった。
ボロボロになってまでもやりたい何かがある。

何時になったらさ
地球儀上に描いたキミは
僕等に気付いてくれるの

何時になってもさ
唯一僕の胸に届く声は
聞こえそうにない

 空想上のヒーローに助けを乞う。
いつになったら。いつになっても。
その助けは来ないのに。
それは分かっているのに助けを乞う。

立ち止まる日の中心で
廻す手は緩められなくて

 行き先が分からずに立ち止まってしまう。そんな中で地球儀を廻して廻して、ヒーローを探す。どこかにいるそのヒーローの助けを乞う。

「雨が降り出したら又、次回を待って。」
なんて言葉 聞こえるんだ

 そんなヒーローからとうとう答えてもらえる。
確かに答えはもらったけれど、思っていた答えではなかった。でも、それでも"次"という希望をもらえる。今はダメでも次ならば。

僕等どう綺麗に歩いたって
自分まで騙し切れないで

 他人から良く見られていても、自分だけは騙すことは出来ない。泣いたりしないと強がっても、本当は泣いていたり。心の中ではヒーローに縋っていたりする。
 そんなどこにでもいる人間なのだ。

声をヒーローまで届けようと願えば
0から築けそうだ 何度も

 「また次回の機会に」
そう言われたからその"次回"のために今度は0から作り上げる。何度だって作り上げる。

 ラスサビが終わったと思ったら、最後にcメロが続く。こういうパターンはLEOやaranamiなどでも見られる。

大胆に転べるスニーカー
中傷で破れるジーンズが
傷だらけのネジを巻いて
描き出す ヒーロー

 何度だってヒーローを描く。
汚れだらけ、傷だらけでも何度だって立ち上がる。それこそヒーローのように。

 どこかにいる、どこにでもいるヒーローへ呼びかけるような歌い方で終わりを迎える。

5.黄色いカラス

 どれだけ変わろうと僕は僕。色をつけるのも自分自身。

 かなり文字量が多く、素人が歌うのには難しいなと思わせる。こちらもMVが作られている。

 こちらはHEROとは違いアニメーション。黄色いカラスとモノクロの世界という単調ではあるものの引きこまれる。
カラスは黄色が視認できないという話がある。
(本当は色よりも紫外線がカラス除けになっているらしい)
 mvの冒頭でカラスの群れに見向きもされずに落ちて行く黄色いカラス。そんな孤独なカラスの歌。

 イントロもなく、猪狩さんの歌が息継ぎも絶え絶えに怒涛に続けられる。

千年経ってたってきっと
知らないことは多過ぎるぜ

 〜ぜ。という歌詞はtacicaにしては珍しい口調な気がする。

  千年経ったとしても知らないことはきっとある。この世の中の全てを知るには千年でも一万年でも、何億年経ってもきっと無理だろう。

着せ替えごっこ楽しんで
気づけば色は何処だっけ
水溜まりに映った姿から
掛け離れた居場所を知る

 何かになりたい、あの人のようになりたい。
憧れを追い求めているうちに自分というものが分からなくなっていた。そして憧れからも掛け離れていたことを知ってしまう。

理解不能で愉快なドラマ
傍から観れりゃ笑えるけど
主演担った自分のドラマとなると
未だモノクロなの

 なんて馬鹿馬鹿しい物語だ、とフィクションを笑っているけど、自分の人生は色もつかないようなつまらない物語。

十数年間 街は僕の
不安や弱さを吸い込んでくれた
でも逃げたくて 
「飛べるから。」と言い張って

 育った街は不安も弱さも包み込んでくれた。
でも、そんな場所から離れたくなって、自分の物語に色をつけてみたくなって、何の根拠もなしに飛び出した。

有り余る自由を手に
これと云って大切なモノなんて無いから
孤独だって事にすら気付けないのかな

 飛び出して自由は有り余るほど得ることが出来た。でも、何の考えもなく飛び出したせいで、誰からも見向きもされていない。そして孤独になっていることにすら気付いていない。

「空を掻いてもっと上手に泳ぎたい。」

 もっと自由に、もっと上手く、もっと……。
そんな願望を呟く。

今 世界が終わるのなら 
「待ってました。」と言える時に
限って終わりは来ないってのも
もう十二分解ってるから
でも確かに無限じゃなくて
そう確かに終わってみせる

 サビ終わり後すぐに2番の歌詞へと入り、また矢継ぎ早に言葉が畳み掛けられる。

 待ち構えているときに限って、"それ"は、やってこない。そんなことはもうわかっている。
でも無限に続くことなんてあり得なくて、いつかは終わりを迎える。

「消えたって憶えてる。 何時だって。」

 いつかは終わりを迎える僕や街はそれでも憶えている。ここで過ごした日々や風景、思い出。そういうものは決して忘れない。

 そして続く歌詞からは自己問答が続く。

僕にとって誰にとって 
大切なモノとはなんだろうか
 
大切なのはさ
理に叶ったモノばかりを求める為?
それだけじゃないって事を

 理に適ったではなく、理に叶ったという表記。
そんな道理に叶ったモノだけが大事じゃない。もっも大切なモノはきっとある。

きっと上手に泳ぎたいから
逃げ惑う理由もないのさ
貰った声だけを枯らしても鳴く

 誰に見つからずとも自分のしたいことをする。
それだけなんだ、と気付く。孤独になりながらも鳴き続ける。きっと自分のことを気づいてくれる誰かが何処かにいるだろうと黄色い羽根を振り翳しながら今日も飛んでは、鳴く。

6.サカナヒコウ

 なぜ僕らは生き(息)続けなければならないのだろうか。感情なんてものがなければもっと簡単なのに。

 激しいサウンドが続いたが、ここで一度テンポダウン。カラスから今度はサカナへと続く動物のリレー。

 魚 飛行という言葉だとトビウオを連想させる。トビウオは魚でありながら外敵から身を守るために空を飛ぶ。そんなトビウオの歌だろうか。
(ちなみに猪狩さんの奥様の元所属バンドでもとび魚の名が入った曲がある。もちろん単なるただの偶然だが……)

本当の事を逃した空に 
尋ねた雨の音
聞こえない様に潜った水
濁してアナタは泣いている

 すごく詩的。

空に尋ねるとそれに応えるように雨が降り出す。
そんな雨から逃げるように水中へ潜る。そんな水中で水か涙か分からないように誤魔化して泣く。

色んなモノが大切で
泡になるのが恐いかい

 水の泡になるとは、今までのことが全て無駄になることだ。
大切なモノがありすぎて、いつか終わることを恐れてしまう。

掻き分けて辿り着く筈の海に
残って居たいだけ

 敵から逃げるとかそんな危ない事をせず、ただ日々を過ごしたい。何事もなく泳いでいたい。

付属の感情を恨んで飛ぶ

 感情はなぜあるのだろうか。感情がなければこんなに苦しいことも辛いこともないというのに。
身体に付属しているそんなものを恨む。

何時からこんなに呼吸は苦しいか
どうして必要なのだろう
誰か以上の飛行

 敵から逃がれるために飛ぶトビウオは嘆く。
どうしてこんなに辛い日々を過ごさなくてはならないのか。なぜ、泳ぐだけでなく、飛ばなければならないのだろうか。

  猪狩さんの声とメロディはまるで夜が明けたかのように感じる。

何処に向かって呼吸は続くのか
どうして繰り返すのだろう
僕らしい飛行

 行き着く先は分からないのに呼吸は続く。
それなのにどうして自分らしさを貫くのか。

 魚 非行。 
魚でありながら空を飛ぶという特殊なサカナ。
そんな嘆きのような歌。

7.ウソツキズナミダ

 嘘吐きがつく嘘が誰かの為になれたら。 心の中で涙を流しても笑ってもらいたいから。

 ギターの特徴的なイントロから始まる。
この曲もベースがいい味を出している。

遅れない速さで
止まらない速さで
砂糖に紛れてやっと走れるなんてさ

 ちょうどいい速度で走る。それには砂糖のような甘さが必要だ。ずっと同じ速度で生き抜くことなんてきっと無理だ。少しの休息やご褒美があるからこそ生きていられる。

転んで初めて強風を知ってから誰か交代を!
では何故? 朝には紐を結んだろう

 交代してくれ! と願うほどの痛みや失敗といったものを知り、怖じ気付く。しかし、また次の朝になれば不思議ともう一度立ちあがろうとしている。
 ここのドラムが力強くそれを後押ししてくれるように演奏される。

僕を守る為に今夜
創った明日分の嘘が
迷い出した人の頭上に
飛び回ってもいいのにな

 明日をまた迎えるために嘘をついて自分を守る。そんな自分を守るだけのちっぽけな嘘が迷っている人に届いて、そんな迷いを晴らしてくれればいいのに。
そんなことを考える夜。

いいのにな、の歌い方には優しさを感じられる。

繋いで初めて温度を知ってから弱くなった日も
この手は その手を
強く握っていて

 この曲は"手を繋ぐ"ということがキーワードになっているよう。

 嘘つきは知ってしまう。
こんな自分でも信用してくれる人のことを。

人が眠る前のソファで
零した響かないメロディーも
せめて離さない手の方へ
当たり前に届いて欲しい

 ふとした時に零れた言葉だって、見捨てないでいてくれるあの人に届いてくれたらいいのに。

ウソツキズナミダ 鮮明に

 4回に渡って繰り返される歌詞。
  
 嘘吐き's涙。
嘘吐きたちだって涙を流す。自分を守るために嘘を吐いて、苦しんで涙を流す。
 嘘吐き 傷 涙。
嘘を吐いて傷ついて傷つけられて涙を流す。
 嘘 月 傷 涙。
傷だらけになってまで嘘をついて涙を流した夜。
 ウソツキズナミダ
涙さえ嘘にはしない。

キミが眠れないと叫んで
使ったココロ中の涙
伸ばされる手が触れる位置で
馬鹿みたいに笑っていたい

 眠れないほど辛いのに、心の中でしか泣けないキミの側にいて馬鹿みたいに笑っていたい。

ビル模様に最低な明日も
僕等は見張って居なくちゃ
果てはその予報通りだって
嘘みたいに笑って欲しい

 例え最低な明日を迎えようとも生き続けなくてはならない。でもそんな最低な明日でさえも
「予報通りだ」と嘘みたいに笑って欲しい。 

 最後に猪狩さんの雄叫びが響き渡る。涙を流している全ての人たちに向けるかのように。

 鷽(うそ)という鳥がいる。災いを"嘘にして、幸運を呼び込むという伝承がある。
 そんな嘘みたいなことがあったらいいのにな。

8.バク

 夢は飲み込んだ。それでも誰かの思い通りではなく自分らしくありたい。

 
 ここでまたロックテイストの曲。ライブではストロボも焚かれたり、tacicaの中でも激しめの曲。
ドラムやコーラスもライブでは見所。

 バクは夢喰いで知られる伝説上の生物。
バクに夢を上げますと唱えると悪夢から逃れられるという。

食い足りないが脳の嘘
勿体無いから取っておこう
その溜め込んだモノだけで
今 生命体は続いていく

 夢は何故見るのか、はっきりとした答えは未だに出ていない不思議な体験だ。 
空想をすることでそれが活力になることもある。

きっと寄り添った恐怖を
避ける手段 夜間飛行
「ただいま。」 弱音染み込んだベッド

 弱音を吐いて、それが染みついたベットで恐怖から逃れるために夢を見る。まるで夜の逃避行。

晒せないから隠そうとして
夜に何度も逃げ込んできた
キミ宛に綴られたシナリオも破いて捨てる

 誰かに晒すことは出来ないから、ずっと秘密にしていたこと。レールに乗った人生ではなく、そんな理想を夢見る。

転ばない様に歩こうとして
傷一つ無いままのカラダ
開けないから閉ざそうとしたココロ
鍵一つ掛けられないのにさ

 身体と心の関係。tacicaでは多く見られる。
身体に傷はなく、開けない心。そんな自分が嫌で塞ぎ込もうとするが、肝心の鍵は掛けられていない。

打ちのめされちゃって
離されたって ほら構わないのは
取り留めない時間飛行
「おかえり。」弱音持ち帰った迷子

 現実では打ちのめされるばかりでただ無駄な時間を費やす。
「おかえり。」
打ちのめされた僕を夢の中で迎える。

埋まらない日のカラのままで
僕に足りないモノは頭の中で
創られるからなんて威張るなよ

 自分に足りないモノ、自分の理想は自分で創造すると豪語するが満たされない。そんな空っぽの口だけの自分。

 cメロのコーラスの声の重なりはゾワッとする。

要領良くを謳っている
彼等がやって来て邪魔をするけど
「オレの夕食だ。手を出すな!」

 バクは周りに邪魔されながらも"僕"の夢を喰おうとする。

欲を張って食い過ぎたみたいだ
叶わない程 描く世界を
キミの手で創られたシナリオを破いて捨てる 
似合わなくとも生きようとして
差し支えなきゃキミのままで

 誰かに決められたルールに縛られるのではなく、叶わない夢ばかりを見過ぎるのではなく、不格好でも自分らしさを持っていて欲しい。

夜の方に手を振って告げる
「さよなら。」弱音分け合った僕だけの庭

 「ただいま。」「おかえり。」
迎えて、迎えられていた、縋りついていた夢に
「さよなら。」を告げる。

もう止めたんだ脳の嘘
でも少し位なら取っておこう

 さよならを告げたけれど、でもまた何かのときに助けになるかもしれない。だから少しくらいなら夢に縋りついてもいいだろう。

 ラストでは今まで響いていた音が止み、まるでさわやかな目覚めのような気分になる。

9.Silent Frog

 忘れては覚える日々を繰り返す。でも、きっと誰かが忘れないでいてくれる。

 
 優しげなアコギの音色と歌声が響き渡る楽曲。
訳すならば沈黙の蛙、鳴かない蛙。
求愛の為に鳴く蛙が鳴くのを止めるとき。それは何を意味するか。

 余談だが、後に発売された「命の更新」のMVでも蛙が登場する。 
「命の更新」→「ドラマチック生命体」→
「不死身のうた」
という三部作の蛙の物語。


昨日はどこで何をしたんだろう
思い出せない今日が素敵

 昨日のことすら忘れるくらいの充実した今日。
そんな日が過ごせたらなんて素敵だろう。

夏の終わりに似合いの多くも
渇かされる日々に雨を待っている

 夏は蛙が生きるのには中々難しい季節。変温動物の蛙は夏眠をして地中で過ごす。
太陽に照らされて渇かされる日々に雨を望む。

歴史の中に転んだ証拠や
話せないことがあっても良いだろう

 歴史は美化される。上手くいったこと、成し遂げたことが取り上げられる。でもきっとそれだけじゃないはずだ。

僕は次から次へ考え付くのさ
頭はたった一つでも
奇跡なんてモノ
何時になっても来ないと
解ったから

 たった一つの頭を使えば、アイデアはいくらでも思いつく。でも奇跡だけは起こらないと知ってしまう。 

コンクリートの溜め息 三角の星
いつか僕が塞いだ
口を耳を目をその全部
鳴かない事で知って

 蛙は求愛のためによく鳴くことが知られている。そんな蛙はまた次の春を迎えるための地中で周りの風景や感情を知る。地上にいた時には知らなかったことを。
当たり前に過ごしている毎日も改めて見返すと意外な発見があるかもしれない。

どれ位の涙とか感覚を捨て
生きて見えた光は眩しい愛しい
でも次の日を覚える為に忘れて

 その日感じた景色や雰囲気、その時々に感じるもの。そういったものに救われるけれどこれからを生きる為には忘れなくてはならないことでもある。そうして日々は過ぎていく。

覚悟が痛みに勝ってくれるなら
暫くルールなんて無くても良いから
キミの形が何歳になっても
敵わないモノが在っても良いだろう 

 覚悟などという曖昧なもので痛みが無くなれば、ルールに縛られずにやっていけるのに。
いくら歳を重ねたって敵わないものがある。でもそれくらいでいい。歳をとったからといって何でも出来るわけでもない。

キミが望まない事
人が望むけど
笑えないなら間違いだよ

 同調圧力。みんながやってるからという言葉に惑わされ、やりたくないことにも手を出してしまうこともある。
何にでも手を出して良いということではない。自分がどう思うかが大事だ。

いつか僕が残した
足跡や夢の食べ掛けも
上手に守っておいて

 口を耳を目を塞いで知ることもあるように、諦めた夢や今までのことがいつか日の目を見るかもしれない。だからずっと守っていて欲しい。

此処は何度目の雨も
何度だって僕にだってくれるみたいで
眩しい愛しい事その全部
忘れる度に覚える

 雨の降る頃に顔を出す蛙。地中での日々を耐えて再び顔を出す頃にはまた雨が知らせてくれる。
目の前の風景も感情も"次"を生きるために忘れては目に焼き付けて覚える。そして蛙は静かに地中へと身を潜める。
 きっと来年も。
そんな希望を持って。

10.アースコード(ver.118STG)

 僕らは存在し続ける。地球の音を奏でるように。

 アルバムの最後に相応しいストリングスも入った壮大な曲。1stシングルのカップリングとして入っていたアースコードとのバージョン違い。ver.118STGとはbpm118でストリングス(strrings)有りとのこと。

思い出を食べ散らかして 途方に暮れた
 
チョコ程甘くはない日々を
置き去る僕らの証にさ
でも名前はないから
その他大勢の抜け殻

 食べ散らかして←バク、silent frog
 チョコほど甘くはない日々←ウソツキズナミダ
(砂糖に紛れて)
    抜け殻←人間1/2 (もう片方の僕見当たらない)
などなどその他にも後にも出てくるが、(こじつけっぽいが……)今まで出てきた曲を彷彿とさせるフレーズが散りばめられている。

 割とtacicaの歌詞は過去を振り返るような言葉が多い。この曲もそうだ。
 チョコのように甘くない日々を過ごす。そんな当たり前の日々に特別な名前は無く、その日々は抜け殻のように残る。
 

どうして僕等は穴だらけ
何歳になっても
それを隠して目指す風景
ただ飛び込む先も理想じゃない

 歳を重ねたとて完璧にはならない。いつだって弱点や欠点がある。それを隠して挑戦するけれど理想には辿り着けていない。

痛い雨に出会うから
今度は負けやしないと誓う
背中に捕らえた追い風が
駆ける瞬間に合わせて

 雨という言葉もtacicaの歌詞にはよく出てくる。
雨の似合うバンドといってもいいくらい。

挫折。躓き。空振り。失敗をしても、次こそは。
そんな思いを胸にして吹いてきた追い風を味方につけて駆け出す。

陽なたに書く事を止めてしまった
僕等の物語
なぁまた目を見開いて
記憶に読ませて

 日の目を見るような人生ではない。決して目立つような派手な生き方をしていない。
それでも覚えているから、キミのことを。

生まれてきた事を報そうと
声を枯らして泣き叫んだの
あの日から同じように
何時でも奏でた
アースコードを

 人間だけではなく、動物も。生きとし生けるものの多くは泣きながら産まれる。きっとそれはこの地球に生まれたというメッセージなのかもしれない。そんな地球の音を奏でるように生きているのだろう。

忘れていないのを知っていて
忘れてないから生きてる  
 
今の今まで憶えた記憶は誇れる?

 忘れるから生きていられて、忘れないから生きている。
 相反する事のように思えるが、真理ともいえるようなこと。
 過去があるから現在があって未来がある。

目で耳で鼻で口で指で
刻む今日を自分と呼んだ
ここからも同じように
何時でも奏でる
アースコードを

 記憶は曖昧だ。はっきり憶えていたこともいつかは忘れてしまう。だから、五感を感じて、此処に存在する現在。それが自分なんだ。
これからも地球の音を奏でるように存在し続けていく。

 おわりに 

 休日から始まり、最後は地球の音を奏でる。
言葉で書くと何だか壮大さに溢れる。でもこれは人間の一生なのかもしれない。産まれ落ち、成長し、時には挫折を味わって、悲しみに打ちひしがれる事もあって。そして今度は育てる立場になって誰かや何かの為に生きる。
 そんな一生をこのアルバムで体感出来るのではないだろうか。

 また、1st albumということから、tacicaの決意のようにも思える。

貰った声だけを枯らしても鳴く

偉くもなければ
「すべてを終えよう。」と答える資格もない

 これからも音楽を続けていく。
そんな言葉にも思えてくる。

 2008年に出したこの曲たちがあってこそ、現在のtacicaがある。きっとこの先も彼等は歌い続けてくれるだろう。
 来年の結成20周年が今から待ちきれない。

 こちらの記事でデッドエンドの歌詞を投稿したところ採用されておりました。
様々な"ことば"が載っております。是非。


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