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一日駅長になってみた話【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から40】

甲府11:32発新宿行き特急かいじ20号(3120M)の出発に立ち会う一日駅長

 
 ふるさと納税とは、「住民税の一部を希望する自治体に寄付し、その額を納税者から控除すること」(大辞林)。交通局関連では、2022年にあらかわ遊園が改装オープンした際、ラッピング電車「都電あらかわ遊園号」を運行する資金調達のため、荒川区がふるさと納税を実施したことが記憶に新しい。お披露目として、1万円以上の寄付者を対象にした試乗会が開催され、当日参加した私も、年甲斐もなく心が踊ったのを覚えている。
 唐突だが、先日私はJR甲府駅で駅長業務を体験してきた。日程はきわめて限定されるものの、山梨県甲府市のふるさと納税の返礼品として、一日駅長体験が用意されていたのである。今は縁あって都営バスで働いているが、物心ついた時から鉄道関連の職に就くのが夢だった。朝は10時半に集合し、昼食休憩をはさんで終了するのは16時過ぎという、まさに仕事のようなスケジュール。ヘルメットを被り、保線の現場を巡回した後、駅の窓口で業務端末を操作して乗車券を発券したり、改札口の横に立ち、構内放送の体験をしたり。中でも印象に残ったのは、儀礼用の白い制服(駅長は制帽と袖に金色の2本線が入っている)を着用し、実際に運行している特急列車を赤いカーペットの上で見送るという「出発式」だった。発車の合図で大きく右手を上げた後、列車が通り過ぎるまで進行方向に指差をし、発車を見届ける。体験とはいえ、安全に列車を見送った充実感はひとしおであった。
 一日駅長という体験を通して感じたことは、鉄道の現場というものは、駅員と乗務員だけではなく、縁の下の力持ち的な役割を担う職員を含めて多くの人材に支えられているということである。そして各々が安全について考え、また、お客様のニーズを的確に汲み取り、サービス向上に奔走している。この場合の「お客様」とは一日駅長(私)のことだが、JRの皆様の高度な接客能力、そして連携ぶりを目の当たりにし、褒める部分しか見つからなかった。
 「憧れの鉄道体験ができる」という単純な動機で一日駅長体験に応募したものの、結局のところ、高度な安全を目指し、お客様満足を追求するという方向性は普段の職場と共通していた。自治体に寄付ができる上、仕事へのモチベーションにもつながるという素晴らしい一日。旅客輸送に携わる者の一人として、一日駅長体験で得たさまざまな気づきを、今後の職務に活用したい。大袈裟ではなく、そのようなことを強く思った。

(筆者より)
 2011年より形を変えながら連載してきましたイラストエッセーですが、今回でいったん終了となります。長きにわたるご愛読、ありがとうございました。

都政新報 2024年3月8日付 都政新報社の許可を得て掲載
【参考】
 当日の様子がJR東日本(公式)Xに掲載されました。白い制服を着用しているのが私で、帽子を被っている方は、レンタルなんもしない人(なんもしない人を貸し出しますという有償サービス)です。張り合いをもって駅長体験に臨むため、私がレンタルなんもしない人に付き添いを依頼しました。

 レンタルなんもしない人のX。「めちゃくちゃさまになってて面白かった」そうです。

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