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恐れ多き人間よ! シャー!

うちの猫を見ていると、このひとに恐いものはないんだなと思う。
いや、彼にも物理的に恐いものはたくさんある。ピンポーン♪と家のチャイムが鳴っただけで「なんだなんだ?」とキョロキョロ落ち着かなくなるし、家のなかに電気屋さんとかガス屋さんとかなんらかの業者さんが入ってこようものなら、ベッドの下に隠れて出てこない。
超チキンな内弁慶である。

だけど、このひと、精神的に怖がることはほとんどないような気がする。
カリカリのおかわりがほしいとき、くりっくりのお目々をして、お腹も見せちゃったりして、「あらー、かわいいねえ。もう1スクープあげちゃおっかなー」などと飼い主に思わせようという意図はまったく感じられない。
鬼の形相で「くれー、くれー」とギャーギャー騒ぎ、場合によってはズボンをひっかいたりする。
憎たらしいことこの上ない。でも、結局あげちゃうんだけど。

うちの猫には「かわいいしぐさをする→カリカリのおかわりがもらえる」という発想がない。ひとに気に入られて、なにかを得ようという行動がほぼ見られないのだ。

赤ちゃん以外の人間だったらこうはいかない。
物心ついたときから「かわいいしぐさをする→カリカリのおかわりがもらえる」的発想が身につく。
のび太くんだって、テストでいい点を取ってくればママがケーキをくれたりするけど、0点だったらガミガミと怒られる。

「かわいい→カリカリおかわり」の発想は、かなりおとなになっても多くのひとが持っている。意図的な場合もあるけど、多くは無意識だ。
この発想がないひとは、一部のひとを除けば、子どもに戻りつつあるお年寄りくらいのものだろう。
高齢者でも頭がしゃっきりしているひとは、残念ながらまだ持っているひとが多いように思う。

「かわいい→カリカリ」の「かわいい」の部分は、デキる人間だと思わせるためのなにかだったり、いいひとだとか尊敬できると思わせるようななにかだったり、その他諸々である。
なにもしなかったら自分はなにも得られず、精神的無一文になってしまうという恐れがある。だから、カリカリを得るための行動をとるんだと思う。

カリカリのためにする行動って、自分視点でしかないから結局は空回りに終わる。
デキる人間だと思わせるために一生懸命やった仕事は、周りのひとはわけわかんなかったり、べつのひとが手直ししないといけなかったりする。
いいひとに思われるためだけの行動はその場しのぎだから、そのためにべつのところで損失を被るひとがいたり。
尊敬されたいがために、自慢話をしたり横柄な態度をとったりすれば、かえって軽蔑される。
結局、カリカリはもらえず、無一文になる。

わたしは以前「ひとを褒めない」とか「わざとあまのじゃくなことを言う」などと言われたことがある。
あー、ほんとうにそれはそうだなーと、そのときわたしにしては素直に思った。

言い訳するわけじゃないけど、母や姉にけなされてばかりいたので、褒めるという行動を長年知らずにいた。
それに、おべっかのように思われるから、褒めることはよくないことなんだという思い込みもあった。
褒めないどころか、けなしてばかりいた。なにもないのに突然面と向かってけなすということはさすがにないけど、ほかのひとのことをだれかが褒めると、「でもさー、こんなところもあるよねー」とわざわざ否定する。
そうすることでカリカリ(=わたしのほうがデキるのよ)を得ようとしていた。

あまのじゃくなことを言うのも、考えなしに大勢の意見にただ従うんじゃなくて、ひとつ違う視点で考えてみるということを心がけての結果であることもあるのだけど、そこにはカリカリ(=自分の存在感を知らしめる)を得るという下心も無意識にあったんだと思う。
下心がある場合は他人にはわかるけど、気をつけていなければ自分にはわからない。
他人は知っている。恐いねー。

最近は友達の着ている洋服が素敵だったら、素直に口に出して言うっていうことは、だいぶ平気になってきた。
でも、自分に価値がないという恐れ(という勘違い)があるとき、わたしはいまだに誤った「かわいい→カリカリ」の法則に従ってしまう。

ときどき耳にする「存在するだけで価値がある」なんてことは言わない。
だけど、虚勢を張ったり他人を否定したりしなくても、自分がこれで正しいんだと思うやり方を貫いていればいいんじゃないかと思う。
あるところではほんとうに精神的無一文になるかもしれないけど、違うところでは意図せず大盛りのカリカリがもらえるかもしれない。
精神的無一文になる環境のところで、必死になにかを得ようとする必要はないのだ。
うちの猫だって精神的無一文にならない環境にいるから、むっちゃ凶暴的にカリカリを要求をしても、ちゃんとカリカリ大盛りでもらえている。

ま、きにしない、きにしない、ってことですな。


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