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ニッポンの夏、汗っかきの夏

わたしが言うまでもないことだけど、今年の東京は例年以上に暑い。
「あっつい、あっつい」と何万回言ったかわからない。
こんなに暑いのに、電車のなかで扇子などでぱたぱたとあおいでいるひとや、汗をだらだらかいているひとが意外に少ない。
うなじやもみあげのあたりから汗がぽたぽたと滴り落ちて、落ち着きなくハンカチで汗を拭いているのはわたしくらいだ。
隣に立っている小太りの男性が、涼しい顔でスーツを着ているのが不思議でならない。

わたしはよく「涼しげね〜」などと言われることが多い。痩せていることと、ショートカットであること、顔がのっぺりしていることが、涼しげに見せるんだろう。
しかし、わたしは暑い!と思っているし、汗っかきである。
今の季節は、外から帰宅したら速攻でお風呂に入らないと、家中の床に汗の水滴を落とすはめになる。
タイ料理を食べれば、季節を問わず頭の中から汗が滴り落ちる。我慢してからいものを食べてるんじゃないのよ、と周りに対して弁明したくなる。

夏は冬に比べて体の調子がよくなるのできらいじゃないんだけど、なにがいやって、体中が汗でじっとりとして衣服もぬらし、汗が引けばべとべと感が残るあの感じ。
今すぐにでも、シャワーを浴びて、さらっとしたくなるあの感じ。
他人がそうなっているのを見ていても、なんとなく自分も不快になってくるあの感じ。

9年前の夏、テレビのニュースで街の猛暑の様子が映されていた。
汗だくになった男の子を抱っこしたこれまた汗だくになった若いパパが、「いやー、暑いですねー」などと記者にこたえているのを見て、ああいうべとべとはほんといやよねと思いつつ、自分は冷房のきいた室内にいることに、少々の満足感を覚えていた。

わたしはこの年の夏をずっと病院のなかで過ごした。
窓からは高層ビルしか見えないような都会のど真ん中の病院だったから、セミの鳴き声も聞こえない。
夏を感じるのは、朝の検温が終わった後、1階まで降りて、駐車場を散歩するときだけだった(その病院は屋上は立入禁止だった)。
その年も猛暑だと言われていたと思うけど、朝の駐車場はまだ涼しかったから、今年の暑さに比べればへのカッパだ。

汗をかかかないひと夏をすごし、自分の汗腺は大丈夫だろうか?と心配した。けれど、それは衰えることなく、今年の夏も不快指数をちゃんと100近くにまでしてくれている。

ちなみに猫は汗をかかないそうだし、暑いからといって犬のようにはっはっ言うこともない。やつらは涼しげである。
着物を着ることが日常のひとも、気合いと帯による締め付けで汗をかかないらしい。着物を着ているご婦人方はやはり涼しげだ。
涼しげな猫やご婦人は落ち着いている。
わたしも汗腺に働いてもらいつつ、落ち着いて夏を乗り切ることにする。

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