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出不精こわい

勤め先の近くに百貨店がある。いや、百貨店の近くに勤め先があるのか? ってどっちでもいいことにのっけからつまづく。
ともかく、そんなわけでわたしは百貨店の前を毎日通っている。
緊急事態宣言が出された際にそこも含むいくつかの百貨店がさっさと閉店してしまったときにはびっくりした。あとでなんとか庁とかいうどっかの役所に怒られたらしいけど、そんなの知らんがなですよね。
今はだいぶ客足も持ち直しているようだけど、外国人観光客がいない分、ほんの1年前に比べたらだいぶ店内は歩きやすい。でも崎陽軒のシュウマイ弁当は会社帰りに行くといつも売り切れていて買えた試しがない。どうでもいいですけど。

さて、平日の朝はだいたい10時前後にその百貨店の前を通るのだけど、かなりの確率で高齢者が店内に入っていくのを見かける。
地下鉄の改札からつながる出入り口は、だいたいどこの百貨店も階段が4〜5段ある。その数段すら昇るのもたいへんそうなお年寄りを見て、これは見習いたいなーと強く思った。
だって、病院のように必要に迫られて行かなければいけないところではなく(病院通いが趣味というひともいるけど)、百貨店なんて来ても来なくてもいいところで。それなのに、昔のようにすたすた歩けなくてもこうして地下鉄に乗ってお買い物に来ているなんて、すごいことだと思う。

わたしなんて家の近所ですら出るのが億劫で、外に出たくないばかりに冷蔵庫に唯一ある卵とご飯で食事をすませてしまうぐらいだ。
ワンマイルウェアなんてことばがあったけど、ワンマイルどころか玄関から一歩も出られない。宅配便が来てもインターホンで宅配ボックスに入れてもらうように頼むという体たらくである。

出不精を改めるには、いつでもどこにでも行けるように常に身支度を整えておくことが必要だと常々思っている。
今でさえこんな状況じゃ、歳をとったらもっと身支度が億劫になって、でもこんなかっこじゃ出られないわ、などということは頭でわかるから、結果として引きこもりになってしまう。そうすると足腰が弱まってますます出なくなる、そして認知症とか衰弱とか諸々……。こわい。

百貨店近くで見かける高齢者の皆さんは、地味ではあるけれど普通に清潔感を保った格好をしている。たまに毛皮コートに便所サンダルといったアヴァンギャルドなマダムを見かけるが、この街は老若男女を問わずそんな感じのひとが比較的多いので、きっとノーマルな範囲内なんだろうと思うことにしている。

先だって平日の午前の遅い時間に電車に乗っていたとき、とても身なりのよい高齢紳士が電車に乗ってきた。彼は片方の手で杖を使い、もう片方の手は必ずどこかにつかまっていないと歩けないようだった。1駅で降りていったのもあるけど、たぶん座ったら立つのが大変だからなんだろう、席が空いていたけど座らなかった。
以前だったら「お金もってそうなんだからタクシーに乗ればいいのに」とわたしは思ったと思う。だけど、たぶんケチとかではなくて、本人はあえて電車に乗っているんだと想像する。
体はともかくお顔からして後期にさしかかるかどうか微妙なところの年齢に見えたし、ネクタイをきちんと締めて洋服のどこもずれてなく(きちんと着ている&サイズが合っている)、だらしなさが微塵も感じられない。なので、病気かなにかで急に体が言うことを聞かなくなったのかもしれず、そのリハビリも兼ねて、楽なタクシーではなくあえて電車に乗っているのかもとまたまた勝手に想像する。若いひとたちこそ隙あらば座り、エスカレーターやエレベーターに乗っているというのに。

わたしはいくつになってもきれいな身なりをしていられるだろうか。いや、今ですらほぼノーメークで、会社がゆるいのをいいことに通勤の服でさえゆるゆるで、この先仕事もしなくなったとき、きちんと身なりを整えて百貨店に行ったりできるだろうか。

わたしはほんとうに面倒くさがりなので、自分の美容的ケアも最低限にするべく、そっちに力を入れてしまっている。
無精でもそこそこに見えるよう、絶対に安い美容院には行かないし、化粧して肌が荒れて、さらにそれを隠そうor治そうとあれこれするよりも、素肌で勝負とばかりに、ほぼノー基礎化粧品、ほぼノーメークで通している。そうすれば、最低限の手間でそこそこ清潔感は保てるかと思っていたし、実際に清潔感があるとか、ちゃんとお手入れしてそうなどと言われることが多かったからだ。
だけど、待てよ。それ最後に言われたいつだ? 過去にしがみついてるかもよ自分!
ノーメークはそろそろ卒業したほうがよさそうかもと思い始めた。うっかり電車の窓やショーウィンドウに映った自分の顔を見て「どこのおばさんだろ、あ、あたしか」とぎょっとすることも増えたし。
せめてBBクリームくらい塗るかと思っていた矢先のマスク生活で、結局今でもノーメークを続けていて、わたしは後期になっても銀座の三越にお買い物に行けるマダムになっているのだろうか。ちょっと、いやかなり心配。

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