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足を使って歩くのよ

「上半身だけで体を動かしている」と整体の先生に言われたことがある。上半身だけで動いているから、下半身に力が入らないのだと。

子どもの頃は家族で山登りによく行ったし、昔も今も一駅分くらいはよく歩く。停電で会社のエレベーターが止まったときも、みんながひーひー言っているのを横目にさっさと階段を昇っていた。足腰はそれなりに鍛えられていると思っていた。
でも、それらはみんな上半身の力を借りているのだそうだ。だから足の筋肉も歩いている割にはそれほど付いていないし、その付き方にもかたよりがあるらしい。

意外なことに本格的なスポーツをしている子どもにも、そういうのは多いらしい。運動神経のいい子は、正しい体の使い方をしなくても「できちゃう」のだそうだ。

そういえば、腹筋やスクワットをやっているときに、本当は腹や脚だけでやらないといけないのに、無意識に腕で反動を付けていた。それで、できたつもりになっていた。
歩いているときも、指にぴんと力が入っていた。上半身で歩いていたからだ。だからいつも体が緊張していて、パソコンをやってもやらなくても肩周りが張っていた。
だから、どんなに歩いても、どんなにスクワットしても強くならなかったんだ。……って悲しい。
最近は、下半身だけに注意を向けて歩くようにしたら、指はだらんとするようになった。

これって、自分の生き方そのものだなと思った。
上半身を使って下半身で歩こうとするように、自分のできることを増やすことによって社会を生き抜こうとしてきた。
いろんなことが「できちゃう」ようになった結果、自分の仕事が増えて、ただのなんでも屋さんになってしまった。
たぶん社会に出たての頃、ひとから必要とされるのがうれしくって、それに味をしめて、なんでもできるようになろうと努力するようになったんだと思う。
努力する時期ももちろん必要だけど、ずっとそれをやっていると周りがいつまでたってもできるようにならない。
かたや自分は不満を持ち始める。自分の仕事を増やすというしくみを自ら構築しているのに、なんだかおかしなことだ。

「やり方」を極めてぶっちぎっていくんじゃなくて、仕事でもボランティアでもプライベートでも、「自分はこういう仕事が担当で、こういうことを実現するひとである」という「あり方」を明確に提示していかなければいけないと、ずいぶん前にひとからアドバイスをいただいた(未だにそれができていない自分にびっくりする)。

上半身で下半身が鍛えられている気になっているのと同じで、できることを増やして仕事が「できる」ようになったと気になっていた。
でも、組織にとって都合のいい存在にはなれても、出世はたかが知れていた。やり方を極めても、ほんとうに大事なことには、わたしは蚊帳の外だった。

わたしにとって歩く目的は、足腰を鍛えることで(いろんな発見があるから歩くこと自体も好きだけど)、ただ歩けばいいってもんじゃない。上半身も動員して無理やりな方法で歩くことは、目的から外れていた。

仕事に対しても、個人的な面と組織的な面の両方で、わたしは目指したいものを持っている。
もっと下半身をどっしりと安定させていかないとな。

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