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お嫌いなんですね

「あら、グリーンピースお嫌いだったんですね。言ってくださればよかったのに」
と、インド料理店のマダムが言った。
べつに嫌いなわけじゃないけど。それにわたしが頼んだのはキーマカレーであって、グリーンピースカレーじゃない。ほれ、ダルカレーとかいうの、あれを頼んで豆を残してるんなら申し訳ないけど、キーマカレーにこんなにグリーンピースが入っているとは想定していなかったし。そもそもキーマカレーなんだから、シュウマイのグリーンピース程度の量にしてほしいって心のなかで逆ギレする。

あえてみずから食べないものはあるけど、基本的に好き嫌いはなかった。なにがなんでも食べられないのはドリアンくらいで、しいて言うならかまぼこが苦手だけど、出されりゃ食べた。ただし10年前までは。

そういう意味では今も好き嫌いはない。グリーンピースを始めとする豆類も好きで、ひよこ豆のカレーなんて自分でつくったりもしていた。
だけど、10年前に手術をしてから腸閉塞になりやすくなり、繊維質のものは食べられなくなった。今でもプチ腸閉塞みたいのはちょこちょこある。

小さい頃はよく熱も出していて、偏食もあったけどとにかく量を食べられなかったが、10歳くらいの頃から元気になってなんでも食べるようになり、食も太くなった。

それ以来、出されたものは残さず食べ、虫はさすがにダメだけど、ある程度のゲテモノも臆せず食べるような人間になったが、また急にあれはダメこれもダメに戻って10年もたつのにまだ慣れない。

炒飯に入っている細かいハムをちまちま取り除いて食べる気長な友人がいた。炒飯には店によってはわたしの苦手なかまぼこ(なると)も入っているけど、んなちまちまめんどくさいことはしない。多少苦手でも食べちゃったほうがはやいわと思っている。
それに嫌いなものを除けながら食べた皿はなんとなく汚らしく見える。かと言って、手もつけずにまんま残すのも行儀が悪いし、失礼なようにも思えて気が引ける。子供の頃にしつけられてきたのが抜けないんだろう。

先だっての昼時にふと目に入った店に入った。夜はバーというか、限りなくバーに近いスナックというか、70歳くらいの女性が一人でやっている店だった。
表の看板にはランチメニューが2種類書かれていたのだけど、店に入ってみたら1種類しかやっていないという。

ここの店主がほんとうに憎めないひとで、普通の店だったら文句言われちゃうかもしれないことをやらかすんだけど、初めてのお客さんですら、苦笑しつついいよいいよ気にしないでって言っちゃうような、そういうひとだった。

ランチは業務用のものをチンするものではなく、店主が自分でつくっているらしかった。
あまりにおいしく、そしてあまりに彼女があまりに一生懸命だったので、ちょっとやばいかもと思いつつ全部たいらげてしまった。

サツマイモのようなものだと少し食べただけでわたしのお腹はたいへんなことになってしまう。基本的に根菜でなければ大丈夫なのだけど、それでも野菜を食べすぎるとお腹が痛くなることがある。

その店で食べたものにサツマイモのような食材はなかったけど、かなり大きいサイズのロールキャベツはやはりよろしくなかったらしい。その夜はお腹が痛くなった。
おいしいしおもしろい店だったけど、もう行けないなと思った。残念。

おいしいからといってガッツリ食べたり、つくってくれたひとに気を遣ったり、はたまた好き嫌いが激しいひととか行儀の悪いひとなどと思われたくなかったり、そういうのをいまだにやめられずにいる。
自分のうちでも、このレタスあとちょっとばかしだからと食べてしまってお腹を壊してしまうこともある。
みえっぱりとか自分のせこさと「食べ物を粗末にしてはいけません」の呪縛が食べ方に現れてるなーと思う。

たまに苦手な食材を訊いてくれる店もあるけど、アレルギーというわけでもないので説明が難しい。
繊維の多いものがダメと言っても、わかるひととわからないひとがいる。っつーか、半分以上はわかってない。
コース料理だったら、お店の方から、こんな食材使うけどダメなものないか、みたいに訊いてほしい。なにが出るかわからないのに、食べられないものはサツマイモに、ゴボウに、トウモロコシに……と列挙して、あっ、でも裏ごししてあればそういうものでも大丈夫です、とか言ってられないし、相手も聞いてられないだろう。
人生ずっと偏食のひとはどうしているんだろうか。知りたい。

おいしいと評判のとあるカレー屋に入った。
カレーのなかに大きめのみじん切りにしたタケノコが入っていたので、面倒くさかったけど、ハム嫌いの友人と同じようにちまちまよけて食べた。幸い、除けられる程度には大きく、除けられる程度の量だった。
皿を下げに来た店主がニコニコしながら「タケノコお嫌いなんですね」と言った。
「ええ、(大好きでしたけど)ちょっと苦手なんです」とわたしもニコニコして言った。
お願いですから、残したものは見逃してくださいよー。
いや、ちがう。失礼だろうが行儀が悪かろうが平気にならないといけないんだ。
でも、やっぱり残してもほっといてね。

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