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他人の感情は一生わからない

母親が亡くなったので相続のために直前から出生時のときまでの戸籍を集めた。たいしてお金が入っていなくても、銀行口座の名義変更をしてその預金を引き出すにはそれなりの手続きが必要らしい。
とはいえ、母の戸籍が変わったのは1回の結婚によるものだけだったし、結婚前と結婚後の戸籍は隣り合った区で、わたしもその一方の区に住んでいるので、容易に戸籍を集めることができて助かりました。

母のすぐ上の兄が双子で、その一方の女の子は生まれてまもなく亡くなったという話は聞いていた。その亡くなった子を入れれば6人きょうだいのはずなんだけど、今回集めた戸籍を見たら、次女のはずの母は四女になっていて、きょうだいは全部で7人いた。
達筆すぎる昔の戸籍を読むと、二番目の兄も双子であることがわかった。双子のもう一人はやはり女の子で、数ヶ月で亡くなっていた。母の母であるわたしの祖母は2回も双子を生んでいたらしい。

昭和一桁の時代は、子どもが数ヶ月で亡くなるということはまだそれほど珍しいことではなかったのかもしれない。もしかしたら双子は育つのにリスクが高かったのかもしれない。わかんないけど。
祖父母もその子どもたちのだれも、その亡くなった子たちのことを話題にすることはなかった。

死んだ子どもの代わりというわけではないけど、祖母は自分が養女に出されたということを折に触れては死ぬまで文句を言っていたそうだ。
奉公に出されたわけではないから、女学校にも行かせてもらい、「今日は三越、明日は帝劇」という生活をしていたそうで、養女でもべつにいいじゃんと思うのだけど、本人は根に持ってたらしい。それよりも子どもが死んじゃったほうがショックじゃないのかしら、などと思ってしまう。

だけど、わたしは子どもを生んだことがないので(あえて言えば生みたいと思ったこともない)、親の立場の気持ちは一生わからない。子どもが親より先に死んでしまうということのショックは計り知れないんだろうなというのは、見聞きした限りにおける想像でしかない。

そしてまた、感情の出し方だってひとによって違う。たとえば、苦難を前にどうしていいかわからないとき、客観的に見ればだれかに相談すればいいと思うのだけど、ほんとうにつらいときってそういうことはできない。学校でいじめられていることを家族に相談できない子がいることはなんとなくわかる。

うれしいことはその規模が大きくても小さくてもひとに言うのが苦になることはそんなにないけど、つらいとか悲しいといったことは、それが深刻であればあるほどなかなかひとに言えないんじゃないだろうか。ひとに言ったら、よりそのつらさや苦しさが現実になって自分にのしかかってくるとか、あるいは言うエネルギーももはやないとか。ことがいい方に終わって初めて「実はあのときさー」なんてことが言える。

相手がなにも言わないからって、悲しんでないとか苦しんでないとか決めつける権利なんてないと思う。ひとって自分の基準で他人を判断してしまうから。悲しいとき、自分は泣くから、泣いていないあのひとは悲しくないんだ、冷たいんだとか。

以前、同僚が病気で休職した。そっとしておこうという気持ちから、わたしはとくにコンタクトを取らなかったんだけど、あとからわたしのことを冷たいと言っていたというのを人づてに聞いた。困ったときはいつでも連絡してというオープンなスタンスでいたつもりだけど、それをちゃんと相手に示せていなかったみたいだ。
ときにはがんがん相手に入り込んでいく勇気も必要かもしれないけど、それが相手にとってよいとは限らない(そういえばひとって年を取ればおせっかいになるのかと思っていたけど、わたしの場合は逆方向を行っている気がする)。
ベストな対応がそれぞれのひとに対してできればいいんだろうけど、そんなテレパシー的な能力は残念ながら持ち合わせていないので、自分がよいと思った方法で対応するしかないし、逆にそれでなんか言われてもいいやという勇気のほうが必要かもと思う。

えーっと、おばあちゃんの話しをしてたのよね。
そうそう、だから祖母が何を考えていたのかなんてほんとうにはわからないということ。話題に出さないからと言って子どもを亡くしたことを悲しんでいないわけでもないだろうし、あるいはほんとうにそんなことは忘れちゃってるかもしれないし。逆にグチグチ言ってたことは、ほんとうはもうどうでもいいから言えていたのかもしれないし、あるいはほんとうにまだグチグチ思っていたのかもしれないし。わからない。
子どもやパートナーといった大切なひとを失ったとして、その悲しみを長期間大事に持っているひとと、短期間で気持ちを切り替えるひととで、そのひとのもつ愛情の優劣をつけるべきじゃないと思うんです。

まあ、あのひとたちは戦争の話とかもしたがらなかったし、あまり感情を表に出さない一族で、だからわたしがこんなあっさりしてるのもしょうがないのかなーと、最近なんとなく納得してきた。

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