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天才たちの日課を覗き見て人生開き直る

ひとの日記(的なもの)を読むのが好きだ。しかも著名人に限らず、というかむしろ市井のひとたちの生活が文字化されたものが好きなのだ(でも口頭だとあんまり聞きたくない)。

で、どこで知ったか忘れたけど、こんな本、自分は大好きだろうと思って読んだ。

これは一般人ではなく「天才」という著名人ばっかりだけど、じつに161人のあらゆる分野の芸術家や科学者の毎日の行動をまとめたものだ。ずっと読んでいたいくらいおもしろかった。「こうすればあなたも9割天才になれる!」みたいなビジネス書的要素もまったくなく、文献からの事実をただただ載せているのもいい。

この本に出てくるほとんどのひとが、自分の環境や志向や肉体などと相談しながら考え抜いて編み出した日々の規則に従って行動しているようだった。
7割くらいが朝型で、午前何時から何時まで、午後は……というように、毎日の行動を決めている。小説家だったら、書きたいことがあってもなくても、決まった時間に机に向かう。インスピレーションが湧いてくることをぼーっと待っていないで、とりあえず仕事を始める。動くことでインスピレーションを待つという感じ。うまくいくときもあればそうじゃないときもあるっぽいけど。

また、日々の規律を決めることは、余分なエネルギーを使うことが減って、その分より高いレベルの仕事ができることにもつながるらしい。スティーブ・ジョブズの黒いタートルネックと同じような考え方かも。
また、日常ではお行儀よく生活することで、作品においては独創的な力が出てくるのさと言っているひともいた。

とくに物書き系は、定職についているかたわらで小説家などをしているひとも多いので、書く時間を捻出するために規則正しくすごす必要があるようだ。というか、毎日決まった時間に外で働くことで規律ができたり、刺激を受けたりしてかえって執筆が進むらしい。
サラリーマンやりながら小説書いてるなんていうと、小説家だけじゃ食べてけないからしかたなくという消極的なイメージがある。この本のなかには、そういうひともいるけど、積極的に両立させているひとが多い。
やりたいことがあるのなら、背水の陣になってやれと言うひとって結構いる。それで底力が出て、独創的になれるひともいるだろう。
だけど、わたしは身を以て実感するし、また小心者なだけかもしれないけど、明日の米の心配をするなかで、思い切ってなにかができる気がしない。
損害保険会社に弁護士としてずっと勤めていた詩人のウォレス・スティーヴンズの言っていることが印象的だった。

ちゃんとした職についていることは、この世で私が経験したことのなかで、もっともすばらしいことのひとつだと思う。そのおかげで生活に秩序や規律がもたらされる。自分の望む自由もあるし、もちろん金の心配もまったくない。

わたしはなにか専業作家になりたいとか、そういう目指すものがあるわけじゃないけど、このままサラリーマンやっていていいのかなと最近思い始めていた。
その一方で、前職を辞めて数年ふらふらしたあと再びサラリーマンに戻ったときは、経済的な安心があるっていいなあと思ったし、今でもしみじみ思うことがよくある(もちろんサラリーマンだって安心できない時代ではあるけど)。
あれ、でもそもそもわたしがサラリーマンに戻ったのは、やりたいことができて、時間と金銭の捻出のためだったんじゃなかったっけということを思い出した。初心すっかり忘れてる。

時代も違うし、とくに日本のような長時間労働が常となっていると、二足のわらじが難しいこともあるだろう。だけど、生活に規則正しくすることで無駄なことに頭を使わないで、より高いレベルのものを生み出すのとは逆に、お金の心配をすることで、時間も頭脳も余分に消費してしまい、力がうまく出せないことはあると思う。

この本に出てくるひとたち、つまんないこと考えずにただ一生懸命生きてる感じがした。よりよい創作や研究成果を生み出したいという気持ちは、ルーティンを決めてるひとも、夜型でお酒大好きなひとも同じで。
でも、(少なくともこの本のなかでは)だれひとりこれが自分の使命だとか言っていない。彼らはただ書(描)きたかったり研究したかったりするだけなんだと思う。

わたしは死ぬとき、あるいはそろそろお迎えが……くらいの高齢になったときに後悔したくなくて、自分の人生を意義あるものにしたいと思っていた。で、意義ある人生ってなによ? てところから始まってるから、もやもやするだけでぜんぜん動いていない。
だけど、彼らの生活を覗き見したら、人生に意味とか目的なんか見つける必要はないんだと思った。あの世から振り返って、結果的に意味があったってことはあるかもしれないけど、それは先に求めるものじゃない。
文句言いながらも働いてやりたいことやって、崇高ではないけど後悔する人生でもないように生きればいいんじゃないかと思ったら気が楽になった。これって開き直ってるだけかな。まあいいや。

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