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おもてなしはおたがいさま

「ポイントカードはお持ちですか」
「いいえ」
「お作りしますか」
「えーと、いいです」

心ここにあらずな感じで「お作りしますか」と言われれば、そっけなく「いいです」って言えるんだけど、本気でポイントカードを勧められることもある。
特に、個人がやっている店ではなんだか断りづらくて、うっかり作ってもらうことがある。そして、活用されないポイントカードがたまっていき、かたづけブームが到来したときにごそっと捨てる。

あるとき、めったに行かないところでおいしそうなケーキ屋さんを見つけた。真面目にケーキを作っている雰囲気で、店員さんもとても感じがよかった。案の定、ケーキもとてもおいしかった。
そのケーキ屋さんでもポイントカードを作らないかと言われた。二度と来ないとはいわないけれど、立地的にそうそうは来なさそうな店だ。いい店だからできれば期待に応えたい。でも、ほぼ活用される可能性のないポイントカードを作るのも気がひけた。「はい、お願いします」と言って作ってもらってもいいのだけど、誠実そうなこのお店に嘘をつきたくないと思った。

だから正直に「ちょっと家が遠いんで。たまたま通りかかっておいしそうだなって思ったんです」と言ったら、「あらー、ありがとうございます」って先方もぜんぜん気にしていないし、逆になんだかうれしそうだった。
いらぬ気遣いからの嘘をつく必要はないんだと思った。

だから、ポイントカードを作りたくないときは、「遠いから」とか「今日は(やめとく)」というプチ言い訳を枕詞に入れるようにしようと思った。


日本が「おもてなし」の国だと自ら言い出して久しい。
サービスの提供者は、(わたしの知るかぎりにおいての)外国に比べたら行き届いているとは思う。もちろん形式的な場合もあるし、過剰な場合もあるし、的外れなこともあるけれど、それらも含めてお客様をどう「扱う」かということを考える癖はついていると思う。
ただ、お客様を「扱う」という視点であって、「もてなす」という視点をもつ提供者が少ないような気はする。なのに「おもてなし」?

もしかしたら、所作が丁寧なところをおもてなしだと思っているのかもしれない。
単に文化の違いなんだろうけど、中国でお釣りを投げてよこされたときはびっくりしたもの。

日本のサービスって一方的だと思う。店などサービスの提供者が一方的にサービスの利用者におもてなし的なものを提供する。そこに提供者と利用者の共同作業がない。

アメリカでは、スモールトークというどうでもいいおしゃべりが慣習としてあるという。サービスの提供者と利用者が見ず知らずであっても、たいした意味もない短いおしゃべりを普通にするらしい。

たとえばファストフードで食事を買った客が「アイスクリームもいかが?」と店員から勧められたとき、日本人だったら「あ、いいです」とだけ言って断ることが多いと思う。
でも、アメリカでは「今、ダイエット中なんだ」とか「さっき食べちゃったのよね」などと、プチ言い訳を添えて断る人が多いらしい。
そして場合によっては店員の方も、「あら、売上が上がると思ったのに残念だわ」みたいなジョークを返す。
そして、双方が笑いながら買い物を終えるという具合。

わたしはアメリカには行ったことがないので、このことは、聞きかじり、読みかじりでしかなく、実際どうなのかはわからない。
でも、サービスの利用者が受け身一辺倒ではなく、積極的にその場をいい雰囲気にしていくこういう行動は素敵だなと思うし、日本にも存在していいと思う。

日本人ってサービス利用者になるととたんに横柄になるひとが多いから、謙虚なんだか謙虚じゃないんだかよくわからない。サービス業に就いていると、その二面性をまざまざと見せつけられる場面も多い。でも提供者の方だってそういう二面性はある。

二面性があるのは、自分を開いて人と接していないからだ。
提供者はできないことをできないと言うことが許されず、もちろん失敗も許されない。
利用者はそれを当たり前だと思っている。料理が出てくるまで10分と待てない。つり銭を少なく渡したら、烈火の如く責め立てる(もちろんそうじゃない人もいますよ)。
自分が真面目でいつも頑張っているがゆえに、サービスの利用者になったときに最大限のサービスを求め、それがなされないと腹が立ってしまうんだろう。

サービスの提供者は「できない」と言うことに抵抗をもつかもしれない。でも、正直に言ってしまえば意外と笑って許してくれることが多い。

セルフサービスのカフェなのに「飲み物は食後で」なんて言われることがある。
はいはいと安請け合いして、結局忘れてしまって、お客様がややムッとしながら「コーヒー頼んだんだけど?」と言ってくる。黙っていても来ると思ったものが来なければ腹が立つのは当たり前だ。
チェーン店だったら「うちではそういうことはできない」と言うのかな。店のマニュアルには逆らえないから。
わたしもそう言ってもいいのだけど、大きくもない店だし、マニュアルもあってないようなものだし、ベストを考えたら「忘れてたら声かけてくださいね」って言うのがいいと思った。
そうすると、皆さん意外と笑って受け入れてくれる。正直にできないことを言ってしまった方が向こうも期待しないからいいのだ。

「おもてなし」はサービスの提供者だけがするものではない。提供者と利用者がおたがいに正直になって共同でその場をいい場にするということが、本当の「おもてなし」なんじゃないだろうか。
提供者がつり銭を間違えることもあれば、利用者がつり銭をもらったのにもらってない!などと言う間違いをおかすこともある。
わたしもついイラッとしてしまうことがあるけど、間違いはおたがいさま。今度つり銭が少なかったら、「ふふふ、つりはいらねえよ(笑」と店員さんに言ってみよう。言えるかな〜。

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