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いいインプロバイザーになるための4段階

今年は5月にデヴィッド・ジンダーからマイケル・チェーホフテクニックを、7月にウィリアム・スコットからマイズナーテクニックを学ぶ機会があった。どちらも世界トップレベルの素晴らしい講師で、同時にどちらも自分のテクニックをすごく構造的に捉えていたのが印象的だった。

特にデヴィッドは講師養成クラスで「私の方法論は私が思う素晴らしい俳優を育てるためのものである。それに必要のないものは全て省いた」と言っていて、それはとても印象に残っている。

その日から「いいインプロバイザーを育てるには何が必要だろう?」と考えていたのだけど、先日マイズナーテクニックを学んで必要なピースが揃ったと感じた。そこで、この記事ではいいインプロバイザーになるための4段階をまとめておきたい。言い換えるなら「インプロバイザーを育てる学校をつくるとしたらこんなカリキュラムになるだろう」という内容である。


これらは先の内容が後の内容の土台になっている。インプロマインドがなければ始まらないし、身体づくりがなければ今ここを生きるのは難しい、といった具合だ。実際には飛ばして学ぶこともできるが、ピラミッドを逆さに建てるようなもので、習得が難しいかどこかで崩れると思う。

1. インプロマインド

なにはともあれ、まず第1段階として必要なのはインプロマインドである。ただ、インプロマインドと言っても大きなものになるので、僕はこれを大きく3つの要素に分けて考えている。

自発性:自己検閲をせずに表現できる
利他性:他者に対して貢献的に関われる
挑戦性:思い通りにいかないことを面白がれる

インプロマインドがあれば、インプロはとりあえず面白いものになる。反対に、2段階以降で学ぶテクニックをどれだけ磨いたとしても、インプロマインドがなければ面白いインプロにはならない。

また、インプロマインドがある人たちが集まると、とにかく稽古が楽になる。なぜなら、みんな果敢にチャレンジするし、失敗も讃えられるようになるからだ。そういった意味でも、インプロマインドはまず第一に大事である。

インプロマインドを身につけていくには、キース・ジョンストンのインプロゲームやショートシーン(3分程度のシーン)をやってふりかえっていくのがいい。また、この時点ではいわゆる演劇的なインプロは目指さなくていい。というより、だいたい真面目になってしまうのでむしろ目指さないほうをおすすめする。

また、ショーに出ることも大事である。ショーに出ないと自分が本当にインプロマインドを実現できているのか分からないし、なかなか深まってもいかないからだ。

ちなみに、インプロマインドを身につけることは誰にとっても(インプロバイザーを目指す人でなくても)いいことである。なぜなら、未知に対して勇敢に、そして柔軟に向かえるようになるからである。僕はみんながインプロをすべきだとは思わないが、インプロマインドは全ての人にとって価値があるものだと思っている。

【CM】発表会付きの3日間集中ワークショップはまさにこの段階を扱うものです。ショーに出ることは初心者にとってもベテランにとっても大事なことなので、どなたも歓迎します。

2.身体づくり

第2段階は身体づくりになる。インプロは最終的に身体・心・思考に関すること全てを扱うが、まずは身体からアプローチするのがいいと思っている。なぜなら、身体が動かないと心や思考も動かなくなることがほとんどだからだ。それは器のサイズが内容の限界を決めてしまうようなものである。

身体づくりでは、癖のない身体と反応できる身体になることを目指す。多くの大人は成長する中で身体の癖を身につけ、刺激に反応できなくなっている。そうした癖を取り除き、刺激に対して反応できる(もしくは勝手に反応しない)身体を取り戻すことをする。

具体的には、野口体操やコンタクトインプロやマイケル・チェーホフテクニックなどがある。また、他にもシステマや合気道など、たくさんの方法がある。僕は野口体操やコンタクトインプロが好きだが、最近はデヴィッド・ジンダーからマイケル・チェーホフテクニックを学んだことで、これも扱うようになっている。

重要なのは方法ではなく、癖のない身体と反応できる身体になることである。また、この段階でキャラクタリゼーションを体験することで、身体と心の繋がりについて学ぶのも有益だろう(そしてなにより楽しい)。

3.今ここを生きる

第3段階は今ここを生きることにチャレンジしていく。また、第2段階が身体のことだとしたら、第3段階は心のことと言ってもいいかもしれない。ただし、心のことと言っても、内向的にならない(意識が内に入ってしまわない)ように注意が必要である。

ここでは、一瞬一瞬相手を観察して反応できるようになることを目指す。多くの人は「今ここ」ではなく過去や未来のことに意識が向かってしまう。そこから抜け出し、今ここに目を向け、そして衝動から動けるようになるトレーニングをする。

具体的には、マイズナーテクニックが圧倒的におすすめである。インサイドアウトのインプロやキース・ジョンストンのインプロでも「今ここ」を扱うが、マイズナーほど厳密には扱わないので、トレーニングとしてはマイズナーが一番よいと思う。

4.シーンを生み出す

第4段階はこれまで学んだことを全て活かす段階である。同時に、ストーリーテリングや演出といった知的な作業も必要になる。

具体的には、今ここを生きながら、同時にシーンやストーリーの核を見つけるトレーニングをしていく。インプロは「シーンをつくろう」とすると面白くならない。しかし「なんでもあり」だとお客さんは理解できない。ジャグリングのように、色々なことのバランスをとることが必要になる。

この段階になると、改めてキース・ジョンストンの知恵(期待の輪・ステータス・エンダウメントなど)が役に立つことに気づくだろう。また、様々なの演劇について学ぶことも大事になる。

最後に

これらの4段階はいずれも「できたら終わり」というものではない。インプロマインドはいつまでも探究していくものだし、身体づくりや今ここを生きるトレーニングもいつまでも必要になる。

特に第4段階は長いトレーニングが必要になるだろう。また、続けている間に「自分が見たいシーンはこういうものだ」という作家性も発見するかもしれない。その作家性を発見したら、今度は「いいインプロバイザー」から「素晴らしいインプロバイザー」になるための段階へと進んでいく――が、ひとまずこの記事はここまでにしよう。

最後に、いいインプロバイザーになるための旅は長く、そして楽しいものであることを伝えておきたい。僕もまだまだこの旅の途中にいる。ともに学びましょう。

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