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石田誠 展@萬器 北千住店

研鑽された手業の底力と美しさを感じることができる石田誠(いしだまこと)さんの個展が7月22日(水)まで開かれています。
会場のお店は北千住の萬器。石田さんの個展をこちらで開くのは初の機会になります。

石田さんは砥部焼で知られる愛媛県で作陶されています。
洋食器の形の使い勝手のよいうつわは、確かな評判を獲得しています。

その作風は「軽やか」と評されます。
たしかにうつわの色味はそよ風を思わせるような爽やかさです。

軽やかで、使いやすいうつわ。それが備わる石田さんのうつわは、うつわとして十分魅力的です。
一方で、そういう表現は石田さんの作品の魅力の一面についてにすぎず、そこに秘められたより良いものへの奮闘の熱に、今回触れることができた気がしました。

そのきっかけの1つは、同じ種類で数多く揃えられた作品の量でした。
同じ色・同じ形でも、1つ1つ比べると、わずかながら違いが生じていることが分かります。

たとえばリムがあるプレートやハットボウルは、石膏型を使って作られます。
型なので同じ形がコピーされるのですが、実際には微妙に違ってきます。
それは型にのせる轆轤で挽いただけの土の形・厚さであったり、型にのせる時の位置、余った土の切り取り方、そういった諸要素が重なりあって生じる微妙な違いです。

単体だと「そういうもの」として見てしまいますが、複数見比べて、そこに差があることに気づくと、作家が1つ1つ作る中で見ている視点を、見る側も持つことができます。
そしてその違いが生まれてしまう土の世界で、作家が何を選び取っているかが見えてきます。

別のきっかけは、石田さんの言葉。
たとえば飯碗について「むかし作っていた飯碗はまだ飯碗でなかった」と言います。
そして今の飯碗はまだ伸び代があるものの「よくなった」と言います。
それだけ作り手が手応えを感じる進化形としての作品なのだと改めて見ることで、「そういうもの」と見ていた作品に「こうでないといけない」という面が浮かんで見えてきます。

そうすると自分の感性が探知機のように働き出し、自然と今まで気付かなかったような作品の良さに触れるようになります。
まるで、水の中で今まで何気なく泳いでいたのが、指先に神経を集中することで掻き出す水にしっかり手応えを感じるようになるように。

そうして研ぎ澄ました感覚でうつわに触れていると、それが単なる型押しされた土ではなく、作り手の努力が幾層も積み重なってできたものであること、あるいは単に轆轤で挽き削った土ではなく、作り手が培ってきた精神との結節点であること。そんな見方の世界に入り込みます。

そんな物の裏側にある源泉へダイブするような時間を経て選んだ石田さんのうつわは、日常生活で使う時にハッとするほどの魅力を湛えます。一見して目を引く軽やかな色合いと端正な形だけでなく、自分の感性にすっと入ってくる、押し付けがましくない優しい感動を与えてくれます。

今回新しく石田さんが作られたのが、急須・ポットです。
特に中国茶用のサイズが最近の台湾茶・中国茶人気にぴったりです。

茶壷(ポット)に合うサイズの茶杯も作られていました。
石田さんらしい柔らかさのある色合いです。

その他にもカップ類が充実です。
コーヒーカップ&ソーサーも初めて石田さんのを見ました。

人気の定番品に加え、上の画像左側にあるのが最近始められた茶色いシリーズ。
南蛮焼用の土(讃岐土)と磁器用の土(砥部磁土)を配合した素地に、透明釉や化粧土をかけたりしたものです。
唐津焼などで見かける色合いですが、唐津焼と違って透明釉によるコーティングで光沢があります。
形は定番の皿と同じで、焼物らしい色味と、洋食器の形のハイブリッド。石田さんならではのうつわであり、新境地でもあります。
(新しいことだけに苦労話もいろいろお聞きしました)

瑠璃釉のうつわは、お店の方が入れたトマトを見てもわかるように、料理を映えさせる石田さん独特の青さです。

萬器でもしばらく入荷のなかった石田さんのうつわが、まとめて見られる今展。ぜひじっくり真剣に見比べて、微妙な違いを持つうつわの中から自分のうつわを見つけてみてください。

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