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6月の東京国立博物館


トーハクこと上野の東京国立博物館へ行ってきました。
梅雨の合間の曇り空でしたが、団体客や外国人など人波が絶えず、むしろ普段より多いのではと思うくらいでした。

現在は特別展は開かれてなく、総合文化展と呼ばれる通常展のみです。
それでも日本最大の博物館、とてもすべては見きれませんでした。


東博でうつわといえば、やはり本館2階の「茶の美術」室でしょう。
日本での陶磁文化が茶の湯を軸に発展してきたこともあり、名品とされるものがこの部屋に置かれることが多いのです。

今期間に一番の目玉として出されていたのは、重要文化財「青磁琮形花入」でした。
古代玉器の琮(そう)形を模した南宋官窯製の青磁です。

方形が大地を、穴の円形が天を表しているといいます。玉琮は四隅の文様も特徴ですが、この花入では簡略化された切込が施されています。
この形から占いで使う算木に因んで「算木手」と日本で呼ばれてきた種類の器物で、これは尾張徳川家で昭和の時代まで蔵されてきた名品。解説にはかつて水指としても使われたとあります。

その他の現在の陳列品
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=4311

1階には陶磁器専門の区画もあります。こちらは改装された他の部屋と違って地味な雰囲気のせいで、大したものがないように見えます。
しかし実は他の美術館なら主役級の名品があることがしばしばです。

今期の茶陶の陳列台。手前の2碗は樂家4代の一入の黒楽茶碗「祥雲」「かのこ斑」。右手一番奥にあるのが志野茶碗「振袖」です。

振袖は、昨年東博で開かれた「日本国宝展」の際にもこの場所にありました。
国宝展で国宝・志野茶碗「卯花墻(うのはながき)」を見た直後にこの茶碗を見たのですが、卯花墻と振袖は同じ窯で作られた兄弟碗だと思いました。それくらい作為や焼き上がりの味に両者通じるものを感じました。どの本にもそんなことは書いてないですが、個人的に疑いないくらい確かな直感を覚えた記憶があります。

日本では茶の湯の道具が一番評価が高くなりがちですが、世界的に見て日本が最高峰を誇るといえるのは蒔絵漆器でないでしょうか。
デザイン・技法ともに明治に至るまで洗練と精細化が進んだ、気の遠くなるような人間技の究極の世界です。
これは「蓬莱蒔絵香道具箱」。17世紀の五十嵐孫兵衛(~1660)かその後裔の作と考えられているとありました。

個人的には鎌倉時代の金属器のもつ造形面での洗練に一つの日本美の極地を感じます。
これは鎌倉時代ではなく奈良時代のものですが、鎌倉へ続く流れの発端を見る気がします。

今回東博へ行って気付いた、前はなかったように思う沖縄区画の陳列棚。単に忘れていただけかもしれませんが、沖縄の器物には意外性も新奇さもあって新鮮なコーナーでした。

これは以前用品店で見かけたことのある(ただし展示されてた上のは19世紀のものです)クバの葉で作った釣瓶。これを紐に吊るして井戸から水を汲み上げたそうです。

こちらは東洋館。本館には陶磁器がいろいろな区画に置かれていますが、それらを上回る数のコレクションが東洋館にはあります。

東洋館の名の通り、東は朝鮮から西はエジプトまでの美術品が納められています。
上の写真は韓国の陶磁のコーナーです。

この鉢は中国陶磁のコーナーにあった明時代初期の景徳鎮で焼かれた「釉裏黒唐草文鉢」。東洋館は陶磁器だけでも数が多く、ざっと見て回る程度しかできませんでしたが、その中でちょっと変わり種だったのがこの鉢でした。
景徳鎮のなら美術館でよく見かけますが、このうつわが変わっているのは黒色であること。コバルトブルーでなく、釉裏紅という赤い手のものでもなく、なぜ景徳鎮で黒なのか?
それを知りたかったのですが、解説にも「黒く発色した顔料については今のところ不明です」と書かれていました・・・

こちらは地下1階のクメールコーナー。クメールは現在のカンボジアで、アンコール・ワット遺跡群で有名です。
インドや中東とも違い、可愛らしいデザインをしています。ただ、可愛らしいは可愛らしいのですが、、、

クメール様式の形には、可愛らしいけどそれと相反するようなクセがあります。
この蓋を持つ盒子(ごうす)も全体の形はやわらかなのですが、特に最上部は神経質というかサイケデリックというか、そういう手のかけ方をしています。
可愛いものにはひかれない自分が以前アンコール・ワットを訪れた時に感動したのは、こういった単純でない複雑性のある造形にも理由があったのかもしれません。

ちなみにこの盒子は、いわゆる噛み煙草の道具で、白い棒は匙とありました。ビンロウの実を入れていたのでしょうか。

特別展もやってないのに、休みなしに見て回っても見きれないくらいの東博。
いつ行っても見応えがあります。特に東洋館の中国書画のフロアは書の醍醐味が味わえる優品が揃い見飽きません。うつわでないのですが・・・
うつわはやはり手で実際に触れてこそ楽しめるものだと思います。ガラス越しでは味気ないです。

東博のホームページでは出展作品がすべてリスト化されています。気になる分野のリストを時々チェックすると思いがけず名品が展示されることがわかったりします。
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1255

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