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特別措置によるPC受験〜2026年からの司法試験PC受験への移行を踏まえて〜


第一部 犬と特別措置

  犬は書痙という病気で筆記が困難となり、特別措置としてPCによる受験をしました。特別措置やPC受験については調べてもなかなか情報が出てこないため、将来の司法試験PC受験化を踏まえて、PC受験へ移行する方針が決定してからもっとも早いPC受験者かつ合格者である私が知りうることをお話したいと思います。
 第一部では書痙になるまで、なってからの地獄の日々、特別措置をとるまでを話したいと思います。

1、飛べない啄木鳥

 手。それは腕の先に装着された39個の筋肉と27本の骨で構成された高精度のマニピュレーター。頑丈かつ繊細な動きが可能であるが、その複雑さゆえ、不具合が生じた場合にリカバリーすることは難しい。拳という単なる鈍器として使うにはあまりに高コストであり、もったいないので人は石や木の棒などの使い捨てアタッチメントを装着して武器として使用する。(Xのポストより一部引用)
 犬は字こそ汚いものの、筆記速度が早いタイプであった。どんなに答案構成に時間を書けても途中答案になることはなく最後まで書ききった。また、書きながら別のことを考えることができ、手が勝手に動くといった様子で問題文を読みながら論証を書くことができた。比較的優秀な手であった。
 ロースクールに入ってからもこれは猛威をふるった。犬は他学部純粋未修であったため、法的思考力は乏しく、頭を法律用に切り替えてからでないと満足な答案は書けなかったため、筆記速度はかなりの助けとなった。
 もっとも、その優秀な手にも陰りが見え始めた。ロースクールに入ってから論文をいくつも書くことになり、あまりに手を酷使しすぎたためか、答案作成中に激痛が走るようになったのである。具体的には、ふと腕を伸ばそうとすると親指のあたりに張り詰めた弓が振動するかのような「ビン!」という激痛が走るのである。これは非常に恐怖であったが、一瞬のことであるし、我慢すれば答案を書き続けられたため、特段病院などに行くことはなかった。(あまりに多忙なロースクール生活で病院に行く暇などなかったこともある。)本人としては、腱鞘炎なのかな、、、という程度の認識であった。
 そんなロースクール生活も終わりを告げる。残すは公法、民事、刑事それぞれの最終試験とも呼ぶべき科目に合格すれば良い、といったところであった。勘のいい読者諸兄はお気づきであろうが、これらは採点基準こそ司法試験より甘いものの、司法試験より過酷なタイムスケジュールで行われ、しかも学者が思い思いに作ったものであるから、ひねりが聞いているのだ。タイムスケジュールの厳しさの具体例を出すなら、民事系は民法・商法・民訴を3時間で自分で時間管理してやらねばならない。学生たちは当然焦る、ペンを持つ手にも力が入ってしまうことうけあいである。犬も他聞にもれず、最後に回した科目(なにを最後にしたかまでは記憶がないが)は、鬼の形相で力の限り書ききった。犬の頭に途中答案という四文字はない。ここで力尽きてもいい、というくらいの勢いでとにかく書いた。一つでも落とせば卒業できない=司法試験も受けられないのだから当然である。
 最後に、公法系の試験がはじまった。犬は公法系が苦手科目であったのでとにかく問題文に食らいつき、めまいがするほど考え、答案を書いた。試験の途中に問題文の訂正や質問を受け付けるため、作成した教授が教室に入ってくる。彼は開口一番こういった。
「もっと早く書かないとだめだよ。もっとキツツキみたいに。僕も受験時代はきつつきと揶揄されたものだ」(要約)
ロースクールというのは教授のご機嫌を伺う施設である。そうでなければ単位はもらえないし、満足のいく指導も受けられない、ひいては未来が閉ざされてしまうおそれすらある。多くの受験生はお得意のおべっかや思ってもいない世辞、表情筋を無理やり動かした作り笑いを駆使し、心をすり減らしながら好待遇を勝ち取らなければならない。我々学生は教授の一言を皮切りに法律をたしなむ啄木鳥と成り下がった。コツコツコツ!とこ気味いい音を立てる我々啄木鳥を見て法科大学院の事務員は「素晴らしい!」と称えた。彼らの苦労も推して図るべし、といったところであろう。
 しかし、そのような書き方は「癖」に分類されるのであり、早い=啄木鳥ではない。癖は日々の積み重ねによる体の歪みであり、歪みのない者がそれを真似るというのは人体の構造に反する動きをするのに等しい。ここまで酷使した犬の手は限界であった。啄木鳥のようにコツコツコツコツと机をたたきながら書いているうちにとんでもない激痛が走った。一度ではなく二度、三度と。犬は泣きそうになりながらも書き続けた。諦めても、苦痛を訴えても留年である。デッドオアアライブ。選択肢はあるようでなかった。そして、公法系の試験はなんとか書ききり、単位ももらえ、卒業を果たすことができた。しかし、それ以降犬は筆記に恐怖を覚えるようになってしまった。いままでよりはるかに短い文章でも件の激痛が走るようになったし、激痛がはしることを考えてしまいそこに思考リソースを割かれるようになった。筆記行為は必要なとき以外行わないようになった。
 法律文書を書けない法務博士というのは、飛べない鳥に等しい。自由に飛んでいた鳥が突然飛び方を忘れてしまったかのように、どうやってペンを持っていたのか、どうやって書いていたのかが分からなくなってしまった。
 コツコツコツコツ、、、、机を叩いてはこうではないと首をかしげる。
 犬は飛べない啄木鳥となった。

2、紙を掘る

 そうはいっても、このころの犬はまだ「腱鞘炎が酷くならないように書くのは控えよう」といった程度の認識であった。まさか自分が文字を書けなくなっているとは思ってもいなかった。
 そんなある日、アガルートの論文答案の「書き方」講座を受講した。旧年度版で安くなっていたし、答案を添削してくれるということで思い切って購入してみた。優秀な読者諸兄においてはお気づきかと思うが、犬は本当に犬のような人間であり、自分が認めた者以外を師と慕うことはない。つまり、前述のように場の空気に合わせて行動をしたりはするが、自分が認めてもいない教授の好感度を上げられるような器用な生き物ではなかった。そのため、教授の好感度は低く、個別指導などはまったくしてもらえず、自分の勉強の方向性を決めかねていたのである。だから、答案の添削をしてもらえるというのは犬にとっては魅力的だった。
 さて、いざ講座が届き、添削してもらう答案を書いて見るぞ!と机に向かうも、なんだかおかしい。文字が書きにくい。痛みが走らないように書いているから?おやおや、このままでは司法試験にも支障がでてしまうぞ。もっと早く書いてみよう。
 書けない。
 書けないわけではない。しかし、骨が邪魔して書けないような、筋肉が硬直して書けないような、とにかくむず痒くて書きにくい。思い切り力を込めて書いてみる。書けた、が、すぐに件の激痛が走る。
 どうすればいい?なんだ、これは。わからない、わからないわからないわからない。
 それでも、講座はそれなりの金額で購入したものなので無駄にすることはできない。気合と根性ですべて書ききった。時間制限は無視した。書いているときは書けない事で頭がいっぱいだ。どうやってペンを持てばいい?いや、どうやって持っていた?どれくらい力をいれればいい?わからないわからないわからない。
 犬はそこで初めて知った、自分は文字が書けなくなっているということに。論文を書かなければならない司法試験受験生にとって「書けない」というのは致命傷だ。
 絶望である。絶望とは愚者の結論であるとはよく言ったものだが、このとき感じた仄暗い水の底に引きずり込まれるような感覚は絶望という他にない。自分は愚者とあいなった。
 その後、まずは形成外科(整形外科?)に行き、酷い腱鞘炎なのではないかと訴えた。結果的に、軽い腱鞘炎ではあったが、特段問題となる部分はなかった。レントゲンもとってもらった。異常はなかった。
 後から検索して知った、病名は書痙。筋ジストニア系の病気である場合と、職業病(精神的なもの)としての書痙があるようで、犬は後者であった。書こうとするとうまく書けず、手が痛くなってしまう。こんなところに骨があったのか?というような、筋肉が硬直しているのか?というような感覚で、無理して続けると体中がむず痒く、背中が痛くなってくる。それでも続けると心の臓は二気筒のバイクのように激しくなり、冷や汗がでて、吐き気がしてくる。
 それからは地獄のような日々が続いた。これを読む読者諸兄はほぼ司法試験受験生であろうからわかっていただけるであろうが、司法試験受験生は「毎日」「長時間」勉強することが必要で、その内容としては「書く」というのが大部分を占める。前述のような苦しみを毎日、毎日長時間味わうのである。苦しくて苦しくて休憩中に音楽を聞きながら泣き出してしまったこともある。それでも諦めることはできなかった。小さい頃からの夢なのだ、弁護士は。他学部へ行ったのはどうせ自分にはなれないと思ってしまったからであるが、どのような因果か、自分は弁護士になれる場所に立っている。諦めるわけにはいかなかった。諦めた、挫折した同期たちのことを考えても、やはり諦めるわけにはいかない。コンコルドファラシーもあったかもしれない。とにかく犬は文字を書いた。
 ゴリゴリゴリゴリと紙を掘るように書き続けた。

3、言い訳になるか、伏線になるかはここで立ち上がれるかどうかにかかっている

 書痙だから、満足に書けなくて勉強をできなかったから、司法試験に合格できなかった。十分に残念な結果の言い訳にはなりそうだ。でも、まだやれることはやってないし、司法試験には特別措置もある。まだだ、まだ膝をつくときではない。もう一歩、もう一歩、苦しいときこそもう一歩、だ。
 しかし、特別措置は認められるかどうか不確定である。情報も少ない。もしだめだったときにどうしようもないということは避けなければならない。
 だから文字を書けるようになるのであればなんでもやった。犬のスタディプラスをフォローしてくださっている方はご存知かもしれないが、ペン習字も5〜6冊やった。これは結果的に効果を発揮したと思う。多少はマシになった。他にも、司法試験用と名高いセーラーの高級万年筆も買ってみた。これは素晴らしいものであったが、あまり効果は発揮しなかった。とにかく、お金も時間もかけて手探りで対策を試していった。
 そして、自分にとっての伏線が訪れた。とある心療内科に通うことにしたのである。職業病としての書痙は短期間で完治するものではなく、人によっては死ぬまで背負い続けるものであるから、治るとは思わず、とにかくなんでもやろうという気持ちで心療内科にいった。先生は優しい方でいろいろと考え、手を尽くしてくださったが、治りはしなかった。では、なぜこの先生が伏線なのかというと、特別措置で法務省から連絡があった際に色々と言ってくれたのである。身体障害ではない書痙の場合、PC受験が認められるかは本当に賭けであったが、この先生が法務省の人に色々言ってくれたお陰でPC受験決定に大きく傾いたと思っている。
 2つ目の伏線は2026年からのPC受験への移行である。これは完全に運だったし、自分の特別措置決定に影響したのかを知るすべはない。しかし、普通に考えれば2026年からPC受験に移行するためのモルモットとして、犬のPC受験をみとめる合理性があり、そのような考えが働いてもおかしなことではない。
 他にも伏線はあった。かかりつけ医に行き、大学病院の有名な脳神経内科の教授を紹介してもらった。丁寧な先生でさまざまな考えうる検査を行ってくれた。その結果は、身体的異常はなく、やはり精神的な疾患であるということではあったが、この先生にも診断書を書いて頂いた。前述の心療内科の先生の診断書と脳神経内科の先生の診断書、2つあったからPC受験が通ったかは定かではないが、できることはすべてやったという意味で伏線と言っていい。犬は採血が苦手なのに半年で四回も血を抜かれたり、病院に入ろうと思ったら熱があり、3時間ほどコロナの検査で足止めを食らったりといろいろあったが、それは別の話である。
 とにもかくにも、犬は願書を提出する際に、診断書や特別措置の書類を提出し、無事PC受験を認めてもらうことができた。法務省の特別措置担当の方にもたくさん配慮をしてもらった。右も左も分からず電話をした犬の稚拙な説明をよく聞いてくれた。諦めなかったから、ここまでたどり着くことができた。
 絶望は愚者の結論である。手足をもがれ、泥をすすってでも、この目の黒いうちは、意思の炎が消えないうちは、まだできることがある。絶望は糸色望(いとしきのぞみ)、希望の別名なのである。
 言い訳になるか、伏線になるかはここで立ち上がれるかどうかにかかっているのだ。

第二部 司法試験当日

 第二部では、実際に司法試験をPCで受験した際にどのような障害にぶちあたったか、何枚書けたのか、準備や撤収はどうしたのかといったことをお話したいと思います。

0日目(会場入り)

 0日目、というのは、PCの初期化作業を行ったりするための試験会場前のりである。犬は特別措置ということで、予め指定された時間に会場の特別な部屋に行き、PCを初期化しなければならなかった。ちなみにその部屋は社長室のような一人部屋で試験監督が逆光を浴びながらこちらを監督してくるなかなかに壮観な部屋であった。犬はこの部屋をラスボス部屋と名付けた。そして、この日は犬にとって司法試験でもっとも苦しい日となった。
 犬はPCに詳しくないが、知らない、使えないという程ではない。だが、それが慢心を招いた。「PCの初期化なんてデータの移行さえできてればおそるるにたらず」などと思っていた自分を抹殺せねばなるまい。タイムマシンはどこだ、落ち着いてタイムマシンを探せ。聡明な読者諸兄はきっとご存知なのだろうが、おろかで油断しがちな犬はPCの初期化にインターネット接続が必要とは知らなかった。気づいたのは一応もうちょっと調べておくか、、、と会場へ向かう道中でネット検索をしてるときであった。犬はポケットWi-Fiなど持っていなかったから、もはやテザリングで乗り越えるしか、、、!ということになった。
 結論から言うと、テザリングでは乗り切れなかった。初期化作業は遅々としてすすまず、Macbookは見たこともない天文学的な必要時間を表示した。犬、二度目の絶望である。誰だ?絶望を糸色望などとうそぶいた者は、責任者を出せ。しかし、どんなに責任の所在を求めてもすべて他でもない自分のせいなのである。あまりに想定外の事態に犬は大いに冷や汗をかき、泣きそうになった。
 その後、Wi-Fiはなんとか確保でき、PCの初期化作業は終わったかのように見えた。
 しかし、まだ犬の最も苦しい日はおわらない。消えていないのである、サファリのお気に入りなどが。iphoneやipadと連携しているがゆえの悲劇。しかも、どんなに連携の設定を切っても消えないのである。どうやらお気に入りなどが残っている状態ではPC受験に使えないらしい。そして、どんなに設定をいじっても消えないのであるから、手動で一つずつ消さねばなるまい。

「犬、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、犬の裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」

 犬は、ひどく赤面した。

これは有名な走れメロスのラストである(メロスは犬に変えた)。なぜこれを引用したのかというと、赤面するようなことがあり、その際にこの一節がずっと脳裏に浮かんでいたからである。
 犬はやんちゃな若者だったころからiphoneを使っていた。読者諸兄が犬の性別についてどちらと思っているかは分からないが、犬は男の子である。健康優良男児が初めて手にしたスマートフォンでお気に入りに登録するものは想像に難くない。そして、それらは今でこそ存在を忘れられているが、ひっそりとブラウザのお気に入りに残っていたのだ。
 PCの初期化作業は不正防止である。したがって、手動でお気に入りを削除するということは人の目にさらされながらやらねばならない。犬には二人の人間がしっかりとつき、一人は女性であった。「たくさん勉強しているからブックマークがたくさんあるのね、一つずつ消そうね」。フォローが痛い。この試験室はこんなにも暑かったか。犬は見守られながらたくさんのブックマークを消していった。お姉さん系、幼馴染系、etc…。彼女たちはもはやはるか遠くの記憶であり、おそらくリンクは切れている。それにも関わらず犬に絶大なダメージを負わせて去っていった。一つ消すごとにボディーブローをされるようなダメージを受けた。生きた心地がしなかったが、心の電源をOFFにすることでなんとか事なきを得た。
 こうして、0日目が終わった。犬はホテルを取っていたので名探偵ピカチュウのしょんぼり顔のような顔でホテルに舞い戻った。

 電話が鳴った。
「すみません、PCの封印作業を忘れていたようでして、会場に戻ってきていただけませんか」
、、、犬の司法試験はまだ始まったばかりである。

1日目(公法、選択科目)

 さて、司法試験が始まった。まずはこれでもか!と封印したPCを解放してやる。簡単にPC受験を説明すると、任意の文字入力ソフトで文書を作成、それをUSBに保存して提出、また、プリンターも持参して印刷せねばならない。
◯労働法
 ここで事件は起こった。正直、前日に犬が準備に手間取ったこともあるのだろうが、ほとんどPC受験の説明は受けておらず、印刷する紙は?どこからかけばいいの?という基本的なことが全く分からなかった。というのも、指定された書式(Wordファイル)は名前や科目が一枚目にかいてあり、後は適宜自分で紙を足していってね、という感じなのである。名前や科目を書いてある下から書けばいいのか?不安に思った犬は監督にどこから書けばいいのかを訪ねたところ、名前の下からかくのだと言われた。
 そこで、犬はその通り書き始めた。しかし、これは誤りだったのだ。名前や科目名を書いたページは表紙であり、答案枚数にカウントされない。書き始めるのはその次のページからで、試験監督の言う通りに書くとタイトルや名前の部分が答案に含まれる事になり、5行ほど失ってしまうのだ。犬は労働法は8枚びっしりと、本当に最後の最後まで使い切って書いた。しかし、本当は書くスペースが足りなくて泣く泣くエイヤっと省略した結果である。読者諸兄にはわかってもらえるだろうが、労働法は書きすぎる科目として有名であり、また、5行もあればもう一展開くらいできてしまう。大きすぎるハンデである。
 このミスに気づいたのはその日の終わりだった。法務省の人がそれは間違っているので訂正してほしいと言ってきた。もちろん、言う通りにしたが、言うこともいった。5行のハンデはあまりにも大きい、人生を左右するには。それからは対応を検討するといって、1時間半ほど部屋から退出することができなくなった。ストレスチェックと言われている一日目の公法系を終わったあと、明日の民事系を前にして一時間半も試験会場でなにもできず留められたのだ。苦痛である。そして、対応は検討中であるから、今日はお帰りください、と解放された。予想通りの結果である。まだ採点もされていない答案について5行のハンデがあるからと言って何を検討するのだ。答えなんて出るわけなかろう。わかりきった対応に1時間半を消費されたのは非常に苦痛であったが、体力も精神もギリギリ、明日の民事もギリギリであったため、そそくさとホテルへと舞い戻った。
◯憲法
 「またか」正直そう思わずにはいられなかった。生存権は出そうだと思って勉強していたが、あくまで出たときに何もできないこととならないように、だった。出題形式を変えて、更に生存権を出してくるとまでは思ってなかった。Xでは生存権は当然出ると思うべきだ、勉強してない受験生は勉強不足だ、などという厳しい言葉もみたが、流石に司法試験の相場を理解していないと思う。
 とはいえ、問題文に食らいつき、持てる知識の全てで8枚書ききった。
 なお、PC受験だからちょろいのでは?と読者諸兄はお考えになられるかもしれないが、先にいっておこう。全科目アラームがなるその直前まで終わらなかった。PCだから余裕ということはなかった。
◯行政法
 特筆すべきことはない。同じく問題文にとにかく食らいつき8枚書いた。

PCやプリンターは会場においていった。

2日目(民事系)

◯民法
 今年の民法はそんなに悩むことはなかったと思う。8枚か7枚は書いたと思う。
◯商法
 同上。
◯民訴
 さて、悪名高い民訴であるが、6枚しか書けなかった。しかもわけわからん判決とか書いた。その日の帰り、全てが無に帰したような感覚になった。

この日特筆すべきことといいうと、PCのロックが外せなくて焦った、ということだろうか。capsロックがかかってちゃんと入力できていなかったようだ。普段ならすぐに分かるようなミスでも、あの場ではどうしよう、どうしようとなってしまう。これは必ず2026年にもおこるだろう。

3日目(刑事系)

◯刑法
 思うように書き、共謀の射程を否定したと思う。しかし、あとから、受験政策的に考えれば肯定して次の論点につなげるべきだった、、、と落ち込んだ。
7枚ほど書いたと記憶している。時間は本当にギリギリであった。もし落ちるならこれか、、、とまで思った。
◯刑訴
 みんな大好き領置がでた。過去問で一度聞かれている以上、必ず書けなければならない。また、実況見分調書も同様である。それ故に正直怖かった。みんな書けるという状態ではたして勝つことができるのか、、、?
7枚書いたと思う。やはり時間はギリギリであった。

この日、特別措置は終わったのでPCを持って帰った。プリンターは翌日まで置いていってもおけまる水産と言われたのでおいていった。

4日目(短答)

書痙の特別措置なので、短答は特別措置はなかった。名前を書くときに手が震えて怖かった。

すべての備品を片付けて撤収した。試験監督の方々はとても優しくしてくださった。「ありがとうございました」と挨拶して試験会場を後にした。

第三部 2026年に向けて

 第三部では、2026年に司法試験がPC受験に移行することが決定してから、最も直近のPC受験合格者としてPC受験について思うことなどをお話できたらと考えています。

1、特別措置におけるPC受験の概要

 特別措置におけるPC受験では、自前のPCを初期化して受験する。初期化は試験前日に試験会場でおこなう。文字入力ソフトについては任意のものを指定することができた。また、文字変換ソフトも自分で指定することができた。(欠缺などの文字が変換できないことをおそれてgoogle日本語入力を指定したが、うまく導入できず、macの標準ソフトを使用した。)USB2つが貸与され、任意のソフトで入力した文章はまず一次保存用のUSBに保存される。そして、それを提出用USBに移動し、提出する。さらに、これまた自前のプリンターで答案を印刷する。印刷された答案は試験監督によって枚数が数えられる。なお、紙は用意してもらえる。一日の終りにはPCの封印作業がある。具体的には、厚い紙でぐるぐると梱包したうえで、一度剥がすと剥がした跡がのこるテープを貼って封印する。

2、気づき・対策

 2026年のPC受験というのは果たして自前のPCによるものか、それとも貸与されるのか。貸与されるとすれば膨大なコストがかかるし、自前であれば初期化作業などに時間がかかりすぎる(犬一人がまごついただけで何時間もかかったのであるから、同じような人が何人か現れればもはや一日で初期化は不可能である)。果たしてどのように行うのだろうか。また、必ずcapsロックがかかってキーボード入力ができなくなるという事態が起こるだろう。受験生はパニックになるはずだ。試験監督にこれを抑えることができるのか。また、試験監督は必ずしもPCの専門家ではないと考えられる。犬のときは明らかに「macを使っているから選ばれました」という程度の知識の人間だった。macに買い切りのWordはない!と言い張ったり(事前に指定しているのに)、なぞのリカバリーモードを作動させたりと(大丈夫なのか、、この人、、、)と肝を冷やされた(なお、大変優しく丁寧に、最後までPC受験をサポートしてくださった方で、犬にこれを糾弾する意図はまったくない)。すべての受験会場にPCに詳しい人材を大量に送り込めるほど法務省はITに強くないだろう。というかITに強かろうとそれを用意するのは容易ではない。どうするのだろうか。
 上記の事態に対応するためには、普段からPCを触って不測の事態に対応できるようにしておくしかない。自分の身は自分で守ろう、ということになる。PCが貸与されるということであれば貸与されるPCと同じ型のPCを勉強用に購入する必要があるだろうし、自前のPCで受験することになるのであれば、キーボード配列などをよく調べてもっとも打鍵しやすいもの、capsロックが誤作動しないものを探す必要があろう。なにより、PCが予期しない挙動をしたときに焦らないよう事前にPCとたくさんの時間を過ごす必要があるだろう。また、受験政策的観点からいえば、ブラインドタッチは必須スキルとなる。ブラインドタッチができないと打ち間違いに気づきにくくなるからである。採点実感で打ち間違いが多いと非難されるのが目に浮かぶようである。

3、所感

 最後に所感、と題したが特になにか特別なことを言うつもりはない。「司法試験、PC受験に移行してもほんとに大丈夫なの?」ということのみである。それなりにPCを扱える犬一人でこれだけ混乱が起こっているというのに、およそ3000人以上の受験生がPCをつかってなにもおこらないはずはない。そして、それを解決できる人員が果たして用意できるのだろうか。今回のPC受験で改めてそう思う。受験生としては、いざというときに試験監督は助けてくれないというくらいの気持ちで挑む必要があるだろうし、タイピング速度の向上やPCならではの書き方を熟知することが必須となる。そして、爪は短く整えること、寿司打論証など、新たな時代の受験対策が生まれることだろう。いずれにせよ、時代の変化と題する司法試験のごたごたで被害を受ける受験生が現れないことを祈ってやまない。

まとめ

ここまで長文駄文で犬のこれまでと司法試験のこれからをお話してきたが、まとめると以下になる。
・PC受験になったからといって答案枚数が劇的に増えて情報処理能力合戦になるかというと、そうは思わない。
・PC受験に向けてブラインドタッチを習得するなど、準備をしておくべきである。
・PC受験では必ず混乱が起こる。そのときに落ち着いて問題に対処できる者がPC受験を制する。
・司法試験委員会の用意してくれる環境を期待するな。

 以上、特別措置によるPC受験〜2026年からの司法試験PC受験への移行を踏まえて〜でした。

 犬はたくさんの人に支えられて、なんとか司法試験に合格することができた。かけがえのない出会いや別れ、たくさんの困難があった。だが、それはまた別の機会にお話したい。成就した夢ほど語るに値しないものはない。

いぬ


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