出逢はねばよかつた桜蘂降る夜    谷中隆子

花びらが散ったあとの蘂の姿をどのように捉えるのか、という美意識が問われる。誰もが絶賛する満開の桜は、散る姿さえも美しい。素晴らしいからこそ、そののちの姿に哀れや祭りの後の虚しさが漂う。年を重ねてくると、見方が少しずつ変わってくる。纏った花びらを脱ぎ捨てたのちの赤みを帯びた妖艶な姿にもまた違った魅力を発見する。軽やかな淡いベールのもとに隠されていた素顔に触れ、離れがたい魔力に取り憑かれてしまう。

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