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空気遠近法に見る写真館ライティングの考察

遠近法を無視して写真は出来ない。

写真が誕生する以前は、古くより絵画などの視覚芸術において、平面に奥行きを持たせる技法があった。

写真で遠近法と聞けば風景写真や建築、ストリートスナップなどを思い浮かべる人が殆だろうが、人物撮影に於いても、遠近法は使われている。

表題の空気遠近法とは、美術をやっていない人からすれば、耳馴染みの無い言葉だと思う。
遠近法で皆が思い浮かべ易いのは、消失点を1点置き、そこにに向かって線が収束していく、一点透視図法である。
漫画などの背景を書く際に、パース(パースペクティブ)、つまりは、手前の物は大きく、奥にあるものは小さく書く技法である。写真では広角レンズを用いて、ダイナミックにパースを強調し、都市の景観を撮るイメージだろうか。
これら、パースペクティブの概念は、線遠近法と言われている。

空気遠近法とは、レイリー散乱とミー散乱と細かく別々の現象があるが、簡単に言うと、遠くのものが霞んで見える現象の事である。

レイリー散乱では、光り波長と大気の関係により、遠くにあるものは昼間は青っぽく、夕方は赤っぽく見える。
ミー散乱は、空気の密度により白っぽく見える現象である。

遠くにある物のシルエットそのものは変わらないが、結果コントラストが下がり、手前がはっきりと、奥にかけて霞んで(コントラストが低く)見えると捉えても良い。絵画や漫画では手前がハッキリ描かれ、遠くにつれボカして演出されている。写真では被写界深度によって、ピントの合ってる物がハッキリ見え、遠くにつれボケが増していくようなものである。


空気遠近法は遠くにあるものが霞んで見える現象と、我々はざっくりと定義をした。
写真も絵画やイラストと同様、3次元を2次元上の絵に落し込んだものである。平面のものに立体感を覚えるのは、遠近法をそこに見るからである。
写真と違い絵画やイラストは、2次元のキャンバス上に、描き手が遠くの物をボカし、霞ませて描く事によって、擬似的に遠近感を出している。
写真では、目の前にある物を写し撮る事しか出来ないので、構図や被写界深度を用いて遠近感を作り出すしかない。

さて、話を人物撮影に戻していく。

写真館のライティングを、常々、立体感と分離と言う言葉で語っている。写真館のライティングは人物の立体感を見せるためにある。ライティングによって光と影をコントロールし、鼻を高く見せたり、小顔に見せたり出来る。
方法は違えど、女性がメイクでハイライトやシャドウを入れているのと近いものがある。分離と言うのも、立体感のひとつの要素と捉えてもらえればよい。

ここからは表題の空気遠近法の話をしたい。
人物に当てる光ではなく、背景に当てるバックライトに目を向ける。

背景にバックライトを当てるのは、写真館ライティングに於いて特徴的なライティング技法である。人物のアウトラインから少しハミ出るくらいの大きさが目安となっているが、厳密な正解はない。バランスのよい、落着いた位置にあれば良い。

人物撮影で立体感、と多くの人が思い浮かべるのは、背景がボケた写真であろうと思う。
先程の空気遠近法の考え方によると、手前に(この場合の人物)ピントの合っている物がハッキリと写り、その先、距離が離れるにつれ、霞んで描写される。つまりは、人物と背景が分離している。
これはいわゆる背景ボケと言うもので、人物撮影をするカメラマンがこぞってフルフレームと単焦点レンズを揃えるのは、このボケが大きく、ピントが合っている被写体が立体的に見えるからである。
(ボケが少ないMFTがポートレート界隈から嫌煙されるのもこれが理由)


ただ、スタジオでライティングをする撮影では被写界深度を深くするために絞り、背景も単色である。背景ボケのような光学的な奥行きをそこにを求める事は出来ない。

しかしながら我々は、背景がボケて人物が際立っているような立体感を出すため、人物と背景をキチンと分離させたい。それをライティングでどうするか。

その為のひとつの答えがバックライトである。

もう一度、思い返してみよう。
空気遠近法では、手前にある(ピントの合っている)ものはハッキリと見え、遠くにあるものは霞んで見えるというものである。
では、ピントの合っている(ハッキリと見える)人物の後ろ側に、バックライトのような霞みのある(ハッキリとしない)光がその背景にあればどうだろうか。ハッキリ見えるものの後ろに、ハッキリと見えないものがある。空気遠近法で言われる、奥行きを感じさせる現象をライティングで再現する。これにより、人物と背景に奥行きがあると見る人に錯覚させられるのではないだろうか。つまり、バックライトを使って擬似的に奥行きを作り出し、人物と背景を分離させる=立体的に見せる、ということである。


これは検証用に無理矢理作った画像だが、バックライトが単色でハッキリとした場合、人物と背景の奥行きを感じさせるより、平面に見えて(切抜き画像のよう)しまう。

空気遠近法のみではなく、心理的に寒色は暖色よりも距離を感じるという、色彩遠近法も過分に働いているであろうと思われる。空気遠近法それ単独ではなく、複合的に絡み合い、人は平面上のものに遠近感を覚えている。
バックライトが暖色や寒色に関わらず、手前の被写体よりも、コントラストの低い(薄い)色であれば、この遠近法は成立する。

服が赤い為、同系色となっているが、寒色の方が距離を感じやすいと言われているのは、これから検証したい。


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