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あえてソ連製という選択

世界で初めて月を訪れた腕時計がオメガ・スピードマスターであることは、別に時計マニアでなくとも知っている人は多いかもしれない。

人類初の偉業を成し遂げるため、NASAは実力派の腕時計メーカー10社に過剰なほどに頑丈で正確なクロノグラフの製作を依頼。
最終的にオメガ・ロレックス・ロンジンの3社が競い合い、この名誉あるミッションの同行者にオメガが選ばれた。
今となってはジェームズ・ボンドのシーマスターと並んでオメガのアイコン的存在になったのがスピードマスターだ。

では初めて宇宙を旅した腕時計はなんだろう。シュトゥルマンスキーと聞いてすぐピンと来る人間を見つけるのは難しい。
ユーリ・ガガーリンという名前なら分かるだろうか。世界で初めて宇宙飛行を成し遂げた彼の腕に、今回のシュトゥルマンスキーは巻かれていたのだ。

空軍の士官に支給されていたシュトゥルマンスキー
ガガーリンももちろん愛用していた

そんなシュトゥルマンスキーがソ連時代に作られたムーブメントを搭載して堂々の復活。お値段も6万円程度ときたら買う以外の選択肢は無いだろう。

文字盤の色は実際にガガーリンが着けていた白(どちらかといえばベージュか?)文字盤ではなく、黒文字盤を選んだ。コッチの方が個人的にクールに見えたから。
ガガーリンというド直球の名前を持つこのモデルは豊富なサイズ、素材からなるバリエーションを展開している。
僕はオリジナルに近い33mm径のステンレスモデルにした。

宇宙服というよりは潜水服のようなケース

40mm以上の腕時計が当たり前になった現代、再び小径化の流れが訪れているものの33mmというサイズはメンズウォッチとしてはかなり小柄に映る。
でも正直なところ日本人の腕のサイズを考えたら38mm以上の腕時計は不必要に大きすぎだ。
そして30mm前半の腕時計は実際に見てみると分かるが何とも言えない凝縮感がある。多分40mm以上になると途端に大味に見えちゃうだろう。

数字だけ聞くと小さすぎるのでは?と感じるが
コレがベストな大きさだ

ちょっぴりチープでレトロフューチャーなアラビア数字のダイヤルは手塚治虫作品のタイトルロゴみたいだ。
6時位置にあるよく分からないが共産趣味全開のロゴも味わい深い。

心臓となるポレオット2609ムーブメントはソ連時代に作られたデッドストックものらしい。もう二度と作られることは無いだろう古典的なムーブメントだが心配はいらない。この機械が底をつくというのは地球上の海水が枯渇するレベルの杞憂だ
時計自体の価格、乱発される限定モデル、それらを鑑みて腐らせるほどの在庫がロシア国内に眠っているのだろう。
精度に関しては感動することも失望することもない植物の心のような平凡なものだ。不満は一切ない。

手巻きのポレオット2609
特に語るところはない地味なムーブメントだ

最近の機械式時計は無闇やたらに裏スケのモデルを作るのが頭痛の種だ。よっぽど美しかったり面白いムーブメントでない限り、着け心地のよろしくないガラス蓋の裏面には辟易とする。
シュトゥルマンスキーはありがたいことに、ごく普通の裏蓋のモデルも販売してくれている。
眺めたところで特に面白みもないムーブメントなので迷いなく普通の裏蓋を選んだ。
とはいえ、しつこく言うが日常生活で不満を感じることはない堅実な機械であることは断言しておく。

シンプルなはめ込み式の裏蓋
当時の風情を再現しようとする粋な計らいだ

ムーンウォッチことスピードマスターは以前に比べてかなり高額になった。それにかなりメジャーな時計なので他人とも被りやすい。
であれば1/10以下の価格で誰も知らない“スペースウォッチ”を提案しよう。
時計を壊すのが目的にしか思えない過酷なNASAのテストに耐えうるわけでもなく、特別上質な時計でもない。平凡なパイロットウォッチだ。

ごく一部のカーマニアの中にはロシア車の魅力に取り憑かれ、ラーダやUAZを並行輸入する猛者もいる。ロシア人が聞いたら腰を抜かすだろう。「君の国にはトヨタやホンダに日産、安くて素晴らしい車が選び放題なのに何故⁉︎」
ぐうの音も出ない正論だ。上手く言い返すことはできないが、他には真似できない独特の風味がそこにはある。

セイコーやオメガは文句なしに優れた時計だ。
でも優れている=いいものとは限らない。

ソビエトの時計にNATOストラップとは奇妙な響き
しかし違和感は皆無。これがデタントか

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