見出し画像

「利他の心」で地域一番店の集合体を目指す

 ヨーカ堂が「物言う株主」からスーパー部門を分離することを迫られています。スーパー部門が株主の利益を損なうからです。

 会社は株主の持ち物でしょうか。私は会社は株主だけの持ち物ではなく、お客の持ち物であり、従業員の持ち物であり、関係取引先、地域社会の持ち物であると思います。

 会社は、税金を納め、雇用を維持し、経済を回し、社会の立派な構成員です。特に食品を扱う我々は、「食」は「人」を「良」くすると書きます。食べ物は健康な肉体を構成し、美味しものは人の心を豊かにするのです。

 会社が株主だけのものであるなら、利益を少なくして安く売ることは背任行為になります。従業員に賞与を配るのも、従業員に教育投資することも背任行為になります。

 店頭公開しているスーパーの株主の4割は外国人投資家です。外国人投資家比率が高まれば高まるほど、「物言う株主」が増え、株主が会社を私物化します。株主の私利私欲私権がまかり通るのです。株主の言うことに異を唱える経営陣は首を切られますし、創業以来支えてくれた取引先も株主との関係性が深い企業と置き換わります。

 しかし、私の知る限り、大手スーパーでは2社、「利他の心」でお客の喜ぶことを最優先している企業があります。オオゼキとライフです。
「利他の心」とは何でしょうか。

 2022年8月24日に亡くなった京セラ・第二電電の創業者・稲森和夫氏は、「私たちの心には『自分だけがよければいい』と考える利己の心と、『自分を犠牲にしても他の人を助けよう』とする利他の心があります。利己の心で判断すると、自分のことしか考えていないので、誰の協力も得られません。自分中心ですから視野も狭くなり、間違った判断をしてしまいます。一方、『利他の心』で判断すると『人によかれ』という心ですから、まわりの人みんなが協力してくれます。また視野も広くなるので、正しい判断ができるのです。より良い仕事をしていくためには、自分だけのことを考えて判断するのではなく、まわりの人のことを考え、思いやりに満ちた『利他の心』に立って判断をすべきです」と説き続けました。

 オオゼキの創業者、佐藤達雄氏は、東急世田谷線の松原駅のそばにある小さな市場の中に、1957年乾物店を開店しました。思い通りには客足が伸びずに苦しんだこの時代に現在の「オオゼキの心」の源流があります。
 
 一日の売上が、当時で6,000円か7,000円。それこそ食べるものにも事欠く毎日の中で、佐藤夫婦が考え抜いて出した結論が、「余計な儲けは少なくして、お客様に喜んでもらおう」ということでした。「お客様に誠心誠意尽くそうと思った。一人でも多くのお客様に来てもらいたい。そのためにお客様が喜ぶ、あらゆるサービスを考えた。お客様が望むことなら、何でも聞いちゃう。それがオオゼキの一番大切な心だよ。『オオゼキの心』って、そこから生まれた」と佐藤氏は言います。株主に配慮した経営路線を採用すると、『オオゼキの心』を失ってしまうからです。

 オオゼキは2009年8月14日、佐藤氏の長女・石原坂寿美江社長(当時)が上場廃止を決めます。

 スーパーマーケット「ライフ」の3代目社長岩崎高治氏は、「『いくら売り上げたか』より『どれだけ喜んでいただけたか』私たちが目指しているのは、すべての店舗がその地域で最も信頼される『地域一番店』になることです。そのために必要なものが、『利他の心』だと私は考えますと言っています。ライフは東証一部上場会社ですが、三菱商事の持分法適用関連会社であるため、「物言う株主」が経営に口出すことはありません。

 実は、「物言う株主」の影響下にある大手スーパーはM&Aでもしない限り、成長するすべはないのです。店舗の魅力はますます乏しくなり、お客はどんどん離れていきます。「利他の心」より株主の「私利私欲私権」が優先されるからです。

 我々地方スーパーが目指すのは、オオゼキ、ライフと同じ「利他の心」で地域一番店の集合体を目指すのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?