見出し画像

SM狂騒曲第4章~ロピア戦法早わかり

「鉄量戦略」とは、上陸時に火力で徹底的の敵の陣地を壊滅させることです。

 北海道から九州まで全国に店舗展開を急ピッチに進めるロピアはオープン時に圧倒的な価格攻勢を仕掛け、ライバル店の戦意を削ぎます。「鉄量作戦」です。

 コカ・コーラ1.5ℓ99円(当時)、揖保乃糸3袋499円(当時)、ハウスバーモントカレー99円(当時)など仕入原価を大幅に下回る価格で一定期間ぶっ通し販売を続けます。

 ロピアの進出を水際で抑え込もうとライバル店はオープン直前「まんぷく作戦」と称して、日替わり特価と銘打ちコカ・コーラ1.5ℓ178円、揖保乃糸1袋259円、ハウスバーモントカレー178円など打ち出しますが、価格の安さにはロピアの足元にも及ばないのです。

 「ロピアは安いわ。今まであなたたちずいぶん私たちから儲けていたのね」とお客に不審がられます。恥が上塗りされ、信用も失うのです。

 ロピアと通常のスーパーマーケットでは時間軸が異なります。通常のスーパーマーケットの時間軸は1ヶ月です。各店舗、各部門とも毎月の売上高、客数の前年対比、粗利益率、人時生産性、労働分配率などの数値の良し悪しが月初会議で検討されます。

 これは私の推測ですが、ロピアは開店初月に1億円程度(1日当たり300万円・1品当り30万円)の損金を出しても1年後月商が4億円、粗利益率も許容範囲であれば成功とみなされます。3年後同じ地区内に13店舗650億円の布陣ができれば大成功です。

 毎月の数値の悪化に意気消沈しては新しい取り組みやロピア戦略の目的とその内容を理解するまでは至らないでしょう。

 ではロピアはどこで開店時の損失を取り戻し、その後莫大な利益が得られるようになるのでしょうか。その秘密は買上点数の多さにあるのです。通常のスーパーマーケットの買上点数は6点、一品単価は300円、客単価は1,800円です。粗利益率は30%です。お客一人当たりの粗利は1,800円×30%→540円です。

 ロピアの買上点数は18点と推定されます。一品単価は300円だとすると客単価は5,400円、粗利益率が20%でも一人当たりの粗利益は1,080円。通常のスーパーマーケットの倍です。粗利益率10%でも採算があることになります。

 この違いはどこから生まれるのでしょうか。

 「利益の三原則」と呼ばれるものがあります。まずは、「利は元にあり」。大量に仕入れれば工業製品なら安くなりますが、生鮮品は高くなります。人気の生鮮品を安く買おうとするなら、全部買うか、少しずつ多くの売り先からかき集めるしか方法はありません。

 次に「利は売りにあり」。売場に立って、お客に声掛けする。お客の要望を聴き、お客に買っていただける商品を探す、実演販売などお客を集めて畳みかけて売る。新しい食べ方、簡単な調理方法を提案する。セルフサービスで売るより、声をかけて売る方が5倍、10倍売れる場合があります。

 最後は「利は他にあり」。値入ミクスというとチェーンストアでは、NB(ナショナルブランド)を安く売るために、PB(プライベイト・ブランド)比率を高めることを狙います。イオンが展開する「まいばすけっと」のPB比率は50%と言われます。大黒天物産(ラムー)も将来的にはPB比率50%を目指しているそうです。

 「利は他にあり」には別の解釈の仕方があります。買上点数を増やすことです。

 買上点数を増やすために「4段階の値入ミクス」を採用するのです。

 4段階の値入ミックスの4段階とは、損する商品、原価の商品、ちょっと儲かる商品、普通に儲かる商品の4つです。損する商品、原価の商品、ちょっと儲かる商品。この3つを売っても粗利益トータルはゼロです。「得した!」と気分を良くしたお客は普通に儲かる商品まで手を伸ばしてくれるのです。ここが勝負です。

 「利益の三原則」をロピアに当てはめてみます。「利は元にあり」ついては、グロサリーは、「SPA(製造小売業)」としてメーカーを傘下に入れること、生鮮は目利きの仕入です。精肉はロピア会長・高木秀雄氏を中心に、青果は2023年傘下に入ったアキダイ・秋葉弘道氏を中心に動いているようです。

 「利は売りにあり」は、ロピアの各売場には、個人商店のように屋号が付いています。これは現場責任者であるチーフが商品の買付から開発、陳列、価格設定まで、まさに店主のように大きな裁量を持って仕事に臨んでいるからです。担当者は伝えたいことを自分の言葉でPOPにします。手書きのPOPを多く、コロナ禍でも試食を臆することなく実施しています。「利は他にあり」は買上点数の多さです。

 開店月は、一般食品はハウスバーモントカレー99円など200円マイナス、日配品は明治ブルガリアヨーグルト99円など100円マイナスなどの原価割れ、定塩銀鮭、養殖ブリ、生サーモン、本鮪ブーメランなどは原価、青果の一部、ロングテイルの商品は10%の値入率、精肉、惣菜、ピザ、その他の生鮮品は約30%の値入率で販売されます。

 損する商品、原価で売る商品、10%の値入で売る商品のトータル売上構成比が30%、トータル粗利益がゼロ、普通に儲かる商品の売上構成比が70%、粗利益率が30%とすると仕上がり約20%の粗利益率になります。
通常のスーパーマーケットは馬鹿の一つ覚えのように店舗数を増やして売上規模を拡大すれば安く仕入れられると錯覚しています。規模の拡大こそが利益の源泉だと思い違いしているのです。また、生鮮品は規模を拡大すればするほど高くなります。

 利益の源泉は、あと2つあります。この2つを認識しない限り、ロピア戦法を理解できないのです。

 ロピアの鉄量作戦は、結果として買上点数を高め、長期的な利益を得るための「キラーパス」だったのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?