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SM狂騒曲第3章~ディスカウントの成立要件

 2023年10月17日、オーケー銀座店がオープンしました。銀座店出店以前のオーケーの真骨頂は買上点数の多さでした。郊外型店舗では、買い物カートに大容量カゴを2杯満杯に積んだお客を多く見かけます。買上点数は18~24点前後と推察されます。ところが、銀座店の買上点数は6~8点なのです。

 ディスカウントの成立要因は、大量仕入れでも、ローコストオペレーションでもありません。最大の要件は買上点数の多さなのです。

 スーパーマーケットの元祖と言われるのが「キングカレン」。「キングカレン」は、世界恐慌の翌年である1930年アメリカで生まれました。創始者はマイケル・カレンと言います。

 カレンは、商品を4つに分類し、最初の300品目は仕入原価、次の200品目はほぼ原価の5%(値入率4.7%)、その次の300品目はちょっと儲かる15%(〃13.0%)、そして最後の300 品目は普通に儲かる20%(〃16.6%)を、それぞれ仕入れ原価にかけた値で売価をつけました。4段階の値入ミックスです。一品単価が同じだとすると仕上がりの値入率は8.9%になる計算です。

 300 品目の原価販売商品は、爆発的な廉価を実現させ、“世の人達は、わが店の入口を破って乱入するでありましょう”というカレンの予言の通りの状況となったといいます。

 ほとんどの人が、値入ミックスによる低価格の実現に注目するのですが、値入ミックスの段階の数に注目する人はいません。段階の数が4段階と言うのがミソなのです。段階の数が2段階だったら、低い値入率の商品だけ購入し、高い値入率の商品は購入しません。儲からない商品だけ売れて、本当に売れてほしい商品が売れないのです。

 4段階にするから、原価の商品だけでなく、ほぼ原価の商品、ちょっと儲かる商品も売れるのです。そして最後の普通に儲かる商品にまで手が伸びるのです。4段階の値入ミックスが買上点数を飛躍的に伸ばすのです。

 銀座店出店以前のオーケーの真骨頂は買上点数の多さでした。郊外型店舗では、買い物カートに33ℓ容量カゴを2杯満杯に積んだお客を多く見かけます。買上点数は18~24点前後と推察されます。ところが、銀座店お買い上げ点数は6~8点なのです。中身は、弁当か寿司、飲料、納豆、牛乳、菓子の類です。地下2階の惣菜売場は人だかりができていますが、2階の生鮮ゾーンや一般食品、お酒のコーナーは人がまばらなのです。

 晩ごはんのおかずの材料を購入目的のお客は2割前後ではないでしょうか。郊外のオーケーのように飲料を5~8ケース大量買いするお客も皆無なのです。ただし、越後製菓「ふんわり名人きなこ餅」などインバウンド需要の高い商品をまとめ買いする外国人をたまに見かける程度です。

 蹉跌とは事が見込みと違ってうまく行かないことをいいます。オーケー銀座店の蹉跌は買上点数の低さなのです。

 ディスカウント店の成立要件は買上点数の多さです。買上点数を高めるために、ディスカウント店は様々な「仕掛け」を施します。それが①原価割れ、②原価、③ちょっと儲かる、④普通に儲かるの「4段階の値入ミックス」です。①原価割れは、玉子と牛乳。原価割れで販売すれば、来店客数分売れますPI値は100%です。

 ➁原価で売る商品は、「アンカー商品」と呼ぶ価格の安さの物差しとなる商品です。おかめ納豆、R1ヨーグルト、南アルプス天然水などです。③ちょっと儲かる商品は、購入動機をヒートアップさせる商品です。「ろく助旨塩」「千代一番」「中田田舎漬け」「アウトドアスパイスほりにし」などロングテイル(ABC分析の尻尾の部分)の商品が低価格で販売しているのを見つけるとまとめ買いの動機につながるとともに次回以降来店の動機になります。

 特定のライフスタイルが結びついている商品があります。セロリの大束を購入するお客は、カレー作りの名人です。極太ゴボウの大袋を購入するお客は和食の名人です。マッシュルームが好きな人は箱買いして余ったら冷凍保存します。

 トマト好きの人はトマトを箱で購入し、カレーやスープなどふんだんにトマトを使用し1週間で1箱のトマトを使い切ります。原木椎茸を箱で購入する人は、椎茸の味や香りの違いを知っている人です。ブルーベリーを購入する人は健康や長寿に関心がある人です。

 これらの商品は品揃えすることに意義があります。品揃えするだけでは売れないので、ライバル店の半分以下の値入で売るのです。だから③ちょっと儲かる商品に分類されます。

 それ以外の商品が④普通に儲かる商品です。鮮魚なら、インストアで調理する天然ぶり、プレミアム銀鮭、一頭買いの牛肉、手作りの惣菜、御当地アイテムです。NBに関しては、高く売らないことです。ライバル店の10円マイナス、15円マイナスで売るのです。

 オーケー銀座店で売られているのは、どの店でも扱っている商品ばかりです。それが同じか少し安いだけです。自宅の近所ならそれだけでディスティネーションストアになります。ディスティネーションストアとは、人が何かを買おうと思った時に、まず最初に思い描く店のことを言います。わざわざ買いに行くような立地の店舗ではディスティネーションストアとはなりえないのです。「わざわざ銀座で買う必要ないし…。」となるのです。

 オーケーは、店舗の老朽化などで撤退する店舗はありますが、経営不振により撤退する店舗がないことで有名です。銀座店の買上点数の低さは致命的な欠陥なのです。


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