連続小説「アディクションヘルパー」(ノート14)
人生全て「運」。「自責」などこの世の中には存在しない。何においても自分のせいでも誰のせいでもない。
〈「実技試験」〉
今になって思えば、追試を何度も受けておいた方がよかったと思っています。
現在の私は、車椅子などの器具の扱いとか動かし方がどうしても体得できないことに苦しんでおります。
さて、ここ「魁進ケアスクール」では修了のための実技試験と学科試験がいよいよ始まり、実技試験は2日に分かれて行われます。
初日の試験は、車椅子の移乗と食事介助の実技、2日目は排泄と着替えの介助の実技ということになっています。
ちなみに利用者役は受講生が交代で行うこととなっていて、私は田辺さんと組むことになりました。
「時間制限かあるので、淡々と進めて行きましょう。」
「そうですね。田辺さんは、初孫の写真でもみてニヤつきながら頷いていればいいですからw」
「ハハハ、試験官に怒られちゃうけど、それはそれでやってみたいですね。」
「まぁ、とにかくあにやんみたいに余計な小ネタを挟むと時間オーバーになってしまいますからね。」
「流石に試験ではそんなことはしませんよ。」
「あらそう?緊張がほぐれてむしろいいんじゃないの?」
「大姉御、俺をその気にさせないでくれ。いや、その気になってきた。」
「あにやん、それはマズイっす。僕と組むんで、頭が混乱するっす!」
「お、そうか。カッキーとか。ふふふ、悪いようにはしないからなw」
などという茶番があってイザ本番ということになり、順番で別室に呼ばれて試験を受けるのですが、待ち時間中は何故か上山校長が実施する「脳トレ」を受講してました。
「なんかこれ、試験に役に立つのかしら?」
「師匠、ここで急に頭を柔らかくしたところでどうにもならんと思いますが。」
「てか、こんなことやってるヒマがあったら復習したいのよね。」
「そのとおり、俺もこんなことやってるヒマがあったら週末の宝塚記念の予想をしたいんだけどな。」
あにやんの横槍を無視しつつ、「脳トレ」しながら待つこととしますが、実は「脳トレ」は私の得意分野なのでかなり楽しく待ち時間を過ごせました。
「では、屑星さんと田辺さん、お入りください。」
というわけで、試験開始です。
そして、手順が一気に飛んでしまいました。こういう「手続き記憶」の自分のレベルの低さについては、一度専門医とかに診て貰いたいと思っています。
まぁとにかく、丁寧にやることと、利用者に寄り添うことだけ心掛けて、試験を進めてきましたが。
「時間です。終了となります。」
ということで、制限時間内には全て終わりませんでした。
二日目こそは、時間内に終わらせようと思ったのも虚しく、同じ轍を踏んでしまいました。
ただし、試験の結果は「合格」でした。基本は理解していたことと、手際の遅さが課題ではあるがそこは今後の努力でカバーして下さいとのことでした。
まぁ結局、この状態のレベルから就職活動して現場で働くわけですから、現在苦しんでいるのは当たり前なんですよね。
「実技終わったわね。あとは難関の学科試験ね。屑星さんの問題集やっておけば必ず受かるのよね!」
「師匠、そこはお任せくださいw」
〈「学科試験」〉
さあ、いよいよここまで来ました。
私は、この試験で満点を取る、というのをモチベーションに通い続けることができました。
ていうくらいに、実技はいくら蓬莱(ほうらい)先生にダメ出しされ、介護職失格の烙印を押されようとも、なんなら初任者の資格を例え取れなくても、ここで満点さえ取れれば良いといった感じでした。
とにかく技術はダメでも能書きだけは完璧にしておきたい、まぁ実際はその能書きすら半端何ですけどね。
さて、前にも述べましたが学科試験のシステムは、問題が50問あって、それぞれの語群から5箇所の穴埋めとなっていて、語群は過不足なく5つあるのでそれを使い切る形となっています。
ですから、基本的には1箇所間違えると必然的にもう1箇所が間違うので2箇所の間違いとなるわけですが、「迷った時の重複回答」で、どちらか1つを確実に当てに行くというテクニックを使うことはできます。
全問正解を目指している私としては当然、そのテクニックは使うつもりはありませんでした。
配点は50問それぞれ2点ずつ。穴埋め1つ正解につき0.4点ということになり、小数点が生じます。
「いくつ合ってればいいんだっけ?」
「250箇所中187箇所ですね。」
「取りあえずあたしは200を目標にしておくわ。」
「200超えしたのって何年前だったかなあ。最近は150も行かないよ。」
「あにやん、それボウリングですか。まぁでも200超えたことあるなんて凄いですね。」
「あまり張り切ると、腰痛めるからな。ボウリングも介護も。」
「いちいち上手くまとめなくてもいいですよ。」
「さあ、これ乗り切ったら今晩は清酒『初孫』で乾杯しようかな。」
「お、田辺さん、いいですね。」
「あー、早く終わって帰りたい。しかも今日は娘夫婦がゆいちゃんを連れて来るんですよ。」
「ほう。ゆいぽん来るんですか。」
「屑星さん、『ぽん』は余計ですw」
「田辺さんみたいに、楽しいこと考えていれば緊張もしなくなるかしら。」
「え、師匠、緊張しているんですか?」
「何言ってんのよ!あたしはこう見えても繊細なのよ!」
などとガヤガヤできる日も残り少なくなってきたんだなと、しみじみ感じつつ、本日の試験官は「目力姫」の三島先生でございました。
「さあ、みなさん、待ちに待った学科試験ですね。」
私だけ本当に「待ちに待った」ので、周りの皆とは別の意味での笑いが込み上げてまいりました。
三島先生から注意事項の説明があり、その前にトイレを済ませる人を募ったのですが、
私はトイレに行きそびれてしまいました
まぁ、1時間くらい大丈夫だとタカをくくって臨んだのがよろしくありませんでした。そして試験は始まりました。
(ラブストーリーと便意は突然に)
♫何から答えればいいのか、わからないから、わけわからなく……
試験開始後10分くらいで便意が襲って来ました。ちなみに問題は色々な対策の甲斐があってわからないものはありませんでしたが、取りあえず「便意の波」を上手くコントロールしながら、問題を読んで一気に50問片づけよう、という戦略を取りました。
皆さんには対策として、「まずは1時間の時間配分を掴んでください」ということで、穴埋めの問題集を事前に配布していて、全問辿り着いてくれるかなと気にしながら、それで便意も反らしておりました。
本来なら制限時間の60分ということで、1問約1分のペースで落ちついて回答したかったのですが、まずは全問さっさと回答して、見直ししながらひたすら便意をこらえようということにしました。
30分で全問穴埋めを終え、そのタイミングで便意の「第2波」がきました。
だから、こういう試験場の座席は全部便座にしてほしいと常日頃思っています。あとはオムツして試験受けた方がいいのかなと。しっかり●部巻きもして。
なんとか、「第2波」は5分くらいで収まり、残り時間、記入漏れがないか見直したところ、あるわあるわ
♪あの日、あの時、あの場所で便意に耐えるだけなら、僕の成績は……
いちおう、なんとか最終問まで見直しも終え、そしてタイムアップとともに「第3波」が来て、全速でトイレに駆け込みました。
「ふぅー、カンチー!」
「何言ってんのよ。それにしても屑星さん、問題解き終わるの早すぎよ。私、焦っちゃったじやないの。」
「師匠、すいません。」
「そうですよ。時間の配分考えましょうとか言って皆にプレッシャーかけてませんでしたか?w」
「西岡さん、すいません。ちょっと試験中に危機が訪れまして、、」
取りあえず、「試験中に失禁」という最悪の事態は食い止めたのですが、少しそのツケが試験結果に出てしまいました。
「99.6」
きちんと見直しし切れておらず、最後の50問目の一番最後で「重複回答」がありました。わざわざ100点を狙わずに99.6を取りに行ったわけではないのですが。
実は、ここで満点を取らなければ私は介護職になるのを諦めようとこの時点で思っておりました。「技術はダメでも能書きは完璧」というスタイルで臨みたかったからです。
0.4点で介護職になるのをやめるのもどうかなと葛藤もあり、就職活動に重い腰を上げるのにも時間が掛かってしまいました。ていうか、自分のこういう性格なのも困ったもんだと思います。
これを「たかが」なのか「されど」なのかとグダグダしておりましたが、「とにかく真剣に全うできた」という自分を評価し、介護の業界に飛び込みチャレンジしようという意識に変わったのはしばらくしてからでした。
「あまり、完璧を求め過ぎるのは良くないと思うけどな。」
「あにやん、週末のレースは?」
「撤回する。予想は完璧でないとな。」
今回はここまでとします
GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ
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