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『春風をたどって』の場面を読む

『春風をたどって』(如月かずさ)は、光村図書小学3年上の教科書にある、3年生最初の物語である。 

1 行空きを意識する!

 この作品は、行空きによって4つの場面に分けられている。以下の4場面である。あらすじとともに示す。

1場面 りすのルウは、森の見なれた景色に飽き、旅に出たいと思っている。
2場面 顔見知りのりすのノノンと出会い、ノノンが気づいたにおいの元をたどっていく。
3場面 そして、二人はにおいの元・青い花ばたけを見つける。
4場面 その夜ルウは、明日近くの知らないすてきな場所をノノンと探そうと考える。


 行空きを確認して4場面にしたら、場面分けをしたと思っている人がいるが、とんでもないことである。
 まず、子どもたちが行空きをしっかりと意識できるように指導していくことは、この作品に限らず大事なことである。行空きはわかっても、ほとんど意識に止めていないことは大学生でもよく見られることである。一つ一つの行空きに意識的・自覚的に目が向けられるように指導していくことが大切である。そういうことを通して、形式に着目する力が育っていくのである。
 また、行空きがあるからそこで場面を分けましたというだけでも不十分である。行空きは、作者が設定した読解の目印である。そこで何が変わっているのか、どう変わっているのかに目が向けられるようにしていく。そうなってこそ、場面が読めたことになるのである。
 

2 場面は、時・場・人物の3要素で読む

 上記の4場面を時・場・人物の3つの要素で整理してみよう。
 
1場面 ある日のお昼前       高い木の枝の上  ルウ  
2場面 ある日のお昼前に続く時間  森の中      ルウ ノノン 
3場面 2場面に続く時間      森の中      ルウ ノノン 
4場面 ある日の夜         ルウの巣穴    ルウ
  
 
 このように整理してみると、幾つかのことがはっきりとする。
  ① この物語は、「ある一日」のことを描いている
  ② ある森を舞台にしている
  ③ 登場人物は、りすのルウとノノンの二人である
 また、各場面の変化は以下のようになっていることがわかる。
 1場面から2場面 高い木の枝の上から森の中(地上)へ 新たな人物ノノンの登場
 2場面から3場面 時と人物に変化はないが、青い花ばたけのある場所に変わる
 3場面から4場面 昼間から夜へ ルウの巣穴 ルウ一人 時・場・人物三つともに変化
 これらのことは、場面が時・場・人物の三要素から成り立つということともに、これ以降の物語の読みにおいて子どもたちが自分で考えることができるように指導していくことが大切である。主体的に取り組むためには、そのためのやり方(方法)を子どもたちが持たなくてはならない。場面を読みとることは、物語の読解における基礎的な作業である。
 これで場面分けが終わりではない。場面分けは、場面に分けるだけではなく、場面の組み立て(構成)について考えていくことでもある。組み立て(構成)について考えることは、物語全体を大きくとらえることである。物語全体をとらえることで、個々の場面の持っている意味や役割が見えてくる。さらにいえば、物語の仕掛けも少し見えてくる。

3 場面の組み立てをとらえる

 もう一度、4つの場面を見直してみよう。
 
1場面 ある日のお昼前       高い木の枝の上  ルウ  
2場面 ある日のお昼前に続く時間  森の中      ルウ ノノン 
3場面 2場面に続く時間      森の中      ルウ ノノン 
4場面 ある日の夜         ルウの巣穴    ルウ
  
 
 ここで大事にするのは、場面の三要素(時・場・人物)に照らして、それが大きく変わっているところはどこかを考えることである。優先順位は、時・場・人物の順である。
 時では、1~3場面が時間的に連続しているのに対して、4場面だけが夜になっている。3場面から4場面の間に、時間の隔たりがある。
 また、2場面3場面は時間が連続し、場も人物も同じである。そして1場面と4場面は、どちらもルウ一人だけである。ここから、2,3場面の出来事を経て、1場面から4場面ではルウのあり様が変わっているのではないかということが見えてくる。どんなルウからどんなルウへ変わったのか、それがこの作品の読解のポイントになりそうだとわかる。
 整理すると、1場面ではルウはどのように描かれているか。それが4場面でどのように変わったのか。そのような変化をもたらした2,3場面ではどのような出来事があったのか。これらが、より詳しく読んでいく際のポイントになるであろう。
 これらのことを教師が説明するのではない。できるだけ子どもたちに見つけさせ、気づかせるようにするのが授業である。子どもたちが見つけていくからこそ、授業は面白く楽しいものになるのである。

4 2つの付け足し

 終わりに、授業をする中で大事にしてほしいことを2つ述べておきたい。
一つ目は、「顔見知りのノノン」という表現である。この作品は三人称限定視点でルウに寄り添って語られている。したがって、これはルウがノノンをどのように思っているかを示す表現である。「顔見知り」とは、「親しくはないが、互いに顔を見知っていること。そういう間柄の人」を意味する。つまり、ルウにとってノノンは知ってはいるが親しい存在でもなければ、親しくなりたいとも思っていない相手である。だからこれまでも「あまり話したことが」ないのである。そんなノノンとの関わりが4場面で大きく変わるのである。二人の関係をとらえる上で、しっかりと押さえておきたい言葉である。
 また、語彙を広げていく上では「顔」の付く言葉を子どもたちに調べさせても面白い。
 「顔出し」「顔つなぎ」「顔なじみ」「顔負け」……
 「知らん顔」「寝顔」「泣き顔」「笑い顔」「手柄顔」……
 二つ目は、「わくわく」という言葉の使い方である。1場面では「この森のけしきってさ、ぜんぜんわくわくしないよね」とルウは思う。4場面の最後では「そんなふうに考えてわくわくしながら、ルウがねどこにねそべると」と対照的に用いられている。こういうところは、教師が指摘するのではなく、うまく子どもたちに見つけさせたいものである。そのために、授業の中でどのような伏線を打っておくのか、そういうことを考えていけると授業に向かうのが楽しくなる。
 

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