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ストレンジャー

 初対面の人と話すのが好きだ。同じ場所、同じ時間に見知らぬ人同士が偶然居合わせる。縁を感じて、相手のことを根掘り葉掘り聞きたくなってしまう。そしてその会話の中にいつも新たな発見がある。

 先日、週末に弾丸で根室へ行った。土曜の朝には中標津空港に着きたかった。金曜夜に新千歳へ飛び、翌朝中標津へ向かった。

 困ったのは宿泊場所だ。節約好きなので、最初は空港で寝ようと思った。だが、新千歳は最終便が出ると空港を閉めてしまう。代わりに見つけたのが、空港内の温泉施設だった。温泉に入れる上、夜を明かすこともできる。

 受付を済ませ、浴場へ向かう。扉を開けると、貸切状態だ。コストパフォーマンスの高さに気分を良くした私は深夜にも関わらず口笛を吹いた。旅の始まりを祝うような思いだった。

 体を洗い終え、露天風呂に入った。暫くすると男性が一人来た。容姿は二十代前半。小柄で細身、どことなく、私に似ている。例のごとく、私は彼と話してみたくなった。

 人に話しかけることに、普段はあまり抵抗がない。だがこの日は違った。「広い浴場に男二人。くつろぎに来てる彼に迷惑じゃないか」。話しかけないための言い訳を考えていた。だめだ。私らしくない。

 浴槽は広く、端から端まで八メートルはある。彼は私から一番離れた場所に陣取った。「どちらからいらしたんですか」。台詞が喉まで出かかったが、緊張して声にならなかった。距離が離れていると話しかけにくい。「弱気になるな」。私は彼の近くへ移動した。

 一瞬、彼は私を見た。広い浴槽でわざわざ隣に来た私は明らかに不審だった。今しかない。二度目の「どちらからいらしたんですか」。「東京で出張があって、今、帰ってきたところです」。笑顔で答えてくれた。安堵した。

 聞くところによると、彼は二三歳で、いわゆる終活業界で働いているらしい。彼の話が終わると、「それでは、お先に失礼します」と出て行ってしまった。私は相手に期待してしまうところがある。私の仕事についても質問が来て、もう少し話に花が咲くかと思った。

 彼はどういう経緯でその仕事に就いたのか。人生で死と向き合うきっかけとなる出来事があったのか。二十代で「死」を相手に働く人がいる。これも私にとっての発見だった。





















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