見出し画像

執事喫茶でお嬢様の生活を垣間見た話 #1

3月某日、学期末に立て込んだ課題の締め切りに終われる私三叶は、書きかけのレポート片手に新宿行きの電車に乗り込んだ。本来ならばこのまま図書館にでも籠って学業に勤しむのが切羽詰まった大学生としてのセオリーだが、この日の私の顔に浮かぶ緊張は課題の締切からくるものとはまた異なっていた。

途中、乗り込んできた友人Tに声をかける。彼の表情も同様の強張りを見せ、目線で共に戦場へと赴く同志であることを確認する。道中互いの近況をやりとりしてコロナ禍によって失われた交流を取り戻しながらも、我々の脳内は他のことで一杯だった。

険しい面持ちの青年2人が向かうのはデモか、はたまた争いか。


否──、執事喫茶への“帰宅”である。

画像1

事の始まりは知人Kからの何気ない誘いだった。何かと多忙な日々の癒しを求め、フクロウカフェやカワウソカフェの話に花を咲かせていた時のこと。

「三叶、3月初旬に空いてれば“しつじきっさ”に行かないか?」

この時私の脳裏をよぎったのは他でもない、スリット型瞳孔がチャーミングな偶蹄目の動物に溢れた店内である。課外授業で触れ合った彼らの人懐っこさと羊毛の柔らかさを思い出し、なんとハイカラな店があるものだと二つ返事で承諾したのだった。Kから体験談を聴き進めるにつれ、お客様を丁重にもてなし紅茶の相談や談笑、さらには歌劇までこなす多彩なウシ科であることに違和感を抱き始めたあたりで自身の誤解に気づくこととなった。

一つ、私が向かうのは執事喫茶SWALLOWTAILという敏腕執事集団による手厚い饗しを受ける本格喫茶である。
一つ、我々は執事喫茶に“ご帰宅“するお嬢様とおぼっちゃまである。

先祖代々由緒正しく平民として過ごしてきた一族の当代三叶は、突如訪れた久方ぶりのご帰宅(もとい初来店)に向けて、執事喫茶の世界を学ぶことになるのであった。(続く)



次回は執事喫茶でお嬢様の生活を垣間見た話 #2「衝撃 プリンセス期間につき姫様と殿下にジョブチェンジ」を予定しています(時期未定)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?