執事喫茶でお嬢様の生活を垣間見た話  #2

試験や面接でも経験したことのない緊張を抱きつつ、私と友人Tは池袋駅に降り立ち、Kと合流した。

Kはこれまでに数度の“ご帰宅“を経験している先輩お嬢様であり、前回述べた通り我々の帰宅を企てた首謀者型お嬢様である。ご帰宅の先達ともあれば、Tと私は是非とも彼女に案内から作法まで頼り切りたいところではあったのだが、当のKお嬢様にも若干の不安の表情が伺えた。それもそのはず、今回の帰宅後一行はお嬢様一名、お嬢様見習い、もといおぼっちゃま二名という構成比である。無論執事喫茶はお嬢様・おぼっちゃま双方へ分け隔てなく手厚い饗しを提供してくれる場所ではあるが、ここは元を正せば執事喫茶、おぼっちゃまの方が多い一行は中々に特殊ケースであるだろう。加えてそのおぼっちゃま方がかたや枯れ枝のような痩身の人見知り三叶、かたやその天然な言動で昔から大人を驚かせてきたTともあれば、2人をよく知るKにとっては決して小さくない不確定要素を抱えた状態なのであった。都合のついたメンバーが我々だったKの不運にそっと同情する。

さらには我々が訪れたのは3月上旬。ひな祭りの前後であるこの時期は、執事喫茶がプリンセス期間としてお嬢様を「姫様」、おぼっちゃまを「殿下」として扱うスペシャルなタイミングであったのだ。日々の喧騒に揉まれながらここ数日自身のお嬢様力(ぢから)を高めてきた我々は急なマインドセットの変更を余儀なくされ、敬語のような歴史的仮名遣いのようなぎこちない口調で現場へと赴いたのでございますわ、ゑゑ。

執事喫茶SWALLOWTAILは賑やかなサンシャインシティを抜けた、閑静なビル街の一角にその屋敷を構えていた。コンクリートジャングルに華を添える花壇のビオラを横目に地下へと続く階段を降りていくと、小さな踊り場の先に上品な扉が現れた。お嬢様を夢の世界へと誘う門である。ソワソワと予約の時間を待っていると、入り口でドアマン山岡執事が出迎えてくれた。おかえりなさいませの言葉と共に、マスク越しでも感じ取れる爽やかな笑顔と優しい眼差しを浴びて、これは人をガチ恋にさせる顔面だ、と唾を飲む三叶。

持ち前の低体温で山岡執事を検温の二度手間で煩わせてしまった後、エントランスの待機場所へと向かう。少し暗めの照明にほのかに漂う甘い香りに高鳴る胸は、テーマパークのアトラクション待ちの高揚を彷彿とさせた。変に気を張りすぎたためか、目の前の椅子に誰も腰掛けないお嬢様ご一行。執事の誘いでダチョウ倶楽部ばりのどうぞどうぞの譲り合いをしながら待機席に腰掛ける我々は、どこからどう見ても成り上がり新興貴族なのであった。

いい加減に入店しろと話題の喫茶店レポ、次回こそは店内の様子を書きたいと思います。お楽しみに。

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