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天満敦子in「無言館」 魂の響き♪

信州上田の山に囲まれた静かな高台に「そこ」はあります。

戦没画学生慰霊美術館『無言館』

太平洋戦争で亡くなった、画学生や絵を学んでいた若者たちの絵や遺品を、本人の略歴や家族恋人らの言葉も添えて、展示している施設です。美術館であり追悼の場でもあります。
2023年9月12日。
十字架の形状をしたこの建物の、十字が交わる場所で、ヴァイオリニスト・天満敦子さんのコンサートが催されました。
開館間もない頃から重ねてきた、天満さんの無言館でのコンサートは今回で実に24回目とのことです。

いつもお元気なことで知られていた天満さん。昨年2月に突然、頸椎の病に襲われ、長く体調不良に苦しんでおられます。
今年5月に東京の紀尾井ホールで行われた、ピアニスト岡田博美さんとのデュオ・リサイタルで復帰(コンサート鑑賞時の感想は https://note.com/vast_ruff439/n/ne52d69e2acd9?magazine_key=m5e65226250f3 )、
今回の無言館でのコンサートでソロ・リサイタル復帰を果たされましたが、拝見したところ、まだまだリハビリが続くようです。

大体は椅子に座って、また間にご本人と無言館館長とのトークや10分程の休憩を挟みながらとはいえ、2時間弱にわたって渾身の演奏を聴かせてくださった音楽家魂に心が揺さぶられ、思わず涙がこぼれました。

第一部の曲目
 鳥の歌         カタロニア民謡
 トロイメライ      シューマン
 オン・ブラ・マイ・フ  ヘンデル
 ヴォカリーズ      ラフマニノフ
 タイスの瞑想曲     マスネ
 夢のあとに       フォーレ
 思い出         ドルドラ
 ジュピター       ホルスト

驚かされたのは、最後の『ジュピター』の迫力です。
低音域から中音域にかけて、生命力やエネルギーに満ち満ちた演奏でした。


第二部の曲目
 独奏ヴァイオリンのための譚歌より
 「琥珀」「萌黄」         和田薫
 五木の子守唄           熊本県民謡
 からたちの花           山田耕筰
 落葉松              小林秀雄
 旅人の詩             小林亞星
 望郷のバラード          ポルムベスク

後半で特筆したいのは、以下の3曲。鮮烈なインパクトがありました。

まず『五木の子守唄』
無念のうちに亡くなった画学生たちに向けて、母として子に歌いかけているような、実に優しい慈愛に満ちた調べでした。

次に『望郷のバラード』
天満敦子と言えばこれ!…の代表曲ですが、前の曲を弾き終えた天満さんがふーっと息をしてから立ち上がり、この曲に入りました。
そして鳴り出した音の美しくも力強いこと!
亡き画学生たちの魂、望郷の念に、ひたすら寄り添うような演奏でした。

そしてアンコール。照明を落とし、暗い中で奏でられた『月の沙漠』
亡き画学生たちを、天満さんご自身を、そして聴衆をも、新たな旅路に送り出そうとしているようなイメージを抱きました。
子どもの頃この歌によく触れ、思い入れがあることも手伝って、深い感銘を覚えずにいられません。

『無言館』という他にはない雰囲気の場所で、天満さんの全身全霊を込めた演奏を聴くことができ、とても心に残る秋の一日になりました。


この日は無言館から車で15分程の別所温泉に泊まり、翌日、改めて無言館の展示を拝見しに伺いました。
一泊二日の旅の、コンサート以外のあれこれについては、別に書きます。


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