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ETV特集『膨張と忘却 ~理の人が見た原子力政策~』 日本の宿痾と春の花

非常に見ごたえのある調査報道番組でした(焦点がぼやけまくって腰砕けもいいところ、かなり「??」だったNHKスペシャル「“絶望”と呼ばれた少女 ロシア・フィギュア ワリエワの告白」とは段違いの迫力)。
この3月2日に初回放送、昨日の深夜に再放送があり、9日(土)の午後11時59分までNHKプラスで配信されています。

https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2024030221737/


NHKプラスのサイトから番組概要を引用します。

長年国の原子力政策に関わった研究者・吉岡斉氏が残した数万点の未公開資料「吉岡文書」が見つかった。科学技術史が専門の吉岡氏は1990年代から国の審議会の委員などを務めた。「熟議」や「利害を超えて議論を尽くすこと」を求め続けた吉岡氏はそこで何を見たのか。「吉岡文書」に加えて今回独自に入手した内部文書や関係者の証言などをもとに国の政策決定の舞台裏に迫る。


吉岡氏は、いわゆる「反原発派」とか典型的「反体制派」ではありません。
番組で紹介されたご本人の言葉です。
「私はむやみやたらに原子力開発利用に反対するものではないが、日本の原子力政策が『政策合理性』に関する真摯かつ有能な判断に基づいて進められてきたとは、どうしても思えない」
「重要な意思決定が、大抵の場合『利益政治』の枠組みの中で進められてきたということである」

番組では、「吉岡文書」、関連する内部文書、吉岡氏と共に政策決定過程に関与した関係者の証言が丁寧に積み重ねられ、「熟議なし」「結論ありき」の原子力政策の実態(各種の委員会や懇談会等はアリバイ作りの茶番劇)が浮かび上がります。

高速増殖炉(福井県敦賀市の「もんじゅ」 2016年に廃炉を正式決定)も、再処理工場(青森県六ケ所村 竣工が26回延期され、今も完成時期は未定)も、数兆円単位の費用(国費、電気料金等)を投じられていながら、深刻なトラブルが続出しています。
長年実用化のめどが立たない状況が続いているのに、「原子力ムラ」の面々が核燃料サイクルをあきらめない、その訳とは?

番組は、吉岡氏が著書『戦後日本の科学技術の社会史』で以下のように喝破した言葉を紹介します。

所管省庁、電力業界、政治家、地方自治体の有力者、すべての構成員が何らかの利益配分を受けることが出来るかぎりにおいて、分裂は回避され、結果として原子力事業の自立的膨張がもたらされてきた。国民の痛みの上に政策は成り立っている。

「『金』と『嘘』と『おまんま』がグチャグチャになって固まっている」(原子力政策に異を唱え内部告発をした結果、人事異動で「とばされ」た官僚の発言より)、強固な利権構造が根幹にあるということですね。
平たく言えば、「原子力は、金の卵を産み続けてくれる鶏」なのでしょう。決して一般国民全体ではなく、ごく一部の人にとって、ですが。

「茶番劇」の立役者とも言うべき「2004-2005原子力委員会の長期計画策定会議」座長・近藤駿介氏に、NHKの取材陣が、内部調整がされていた証拠を示して「結論ありき」を指摘した時の、座長のしどろもどろっぷりといい、
先述の内部告発した官僚が、ある有力政治家に言われたという
「君らが言ってることは全部正しいな。でもねえ、これは神話なんだ」
「嘘は承知で "出来る出来る" って言ってればいいんだ」
との仰天発言といい、
「やっぱり…」
「それにしても、これほどとは…」
と呆れるばかりです。

ネット上にあがっていた、この番組の感想の中に
自民党が進める政策は一事が万事こうなのだろう、とうかがえる
という趣旨のものがあり、共感せざるを得ません。

無責任な膨張、根拠なき過信、自他に対する欺瞞、都合のいい忘却…
どこまでも「内向き」で利権と体面にしがみつく、戦前から続く近代日本の「宿痾」をまざまざと見る思い
です。

吉岡さんは常々
「普通の人が常識的に考えれば分かることしか、僕は言っていない」
「なんでそれが共有されないのか、なんでだろうと思う」

と言っていたそうです。
そして番組の最後に流れたのは、後進に向けた遺言のような言葉。

科学技術という「窓」を通して、日本社会の抱える問題点を照射し、打開策を考えることである。

科学技術の専門家ではない私などにも、「科学技術」を、例えば「知性」や「理性」、「客観的合理性」に置き換えれば通用します。
しかと嚙み締めたい言葉です。


最後に、心ある人たちへのエールを込めて、先日近所を散歩中に見つけた「春」のお裾分けを。

香りのよい、沈丁花
早くも咲き出した、ハクモクレン
可憐な、アンズの花


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