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不滅のマエストロと、不二のコンマスと、不屈の求道者ピアニストと♪

先の週末、3連続でクラシック界の名演に心を揺さぶられました。
全てテレビ(NHK)でではありますが、音楽家の純粋な魂に触れられて、「同じ時代に生きていてよかった♪」と、しみじみ思います。


まず一人めは「世界のオザワ」こと小澤征爾さん。不滅のマエストロです。
この2月に逝去されました。

改めまして、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

日曜日の夜に、NHKのクラシック音楽館で追悼番組として放映されたのが、2002年ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートで指揮された際の映像です。
大汗をかきかき、全身を使ってオケを操るエネルギッシュな姿。少なくともここ数年のニューイヤー・コンサートでは比較的おとなしい振り方の指揮者が多い印象があったので、とても新鮮で生気に溢れていると感じます。
そして表情や目の輝き! 実に楽しそうで、客席のご家族も誇らしげで…。
曲目では、音楽家揃いの派手なシュトラウス一家の中で、理知的で控えめでいて機知に富んでいるところなど、何となく好きなヨーゼフ・シュトラウスの曲が多く、観ていて嬉しくなりました。
そして何といっても、恒例の、アンコール曲『美しく青きドナウ』の前に、舞台から客席に向かって投げかける「新年の挨拶」が特筆もの!
団員たちが次々に多言語で挨拶し、締めにコンマスが日本語、小澤征爾さんが中国語で挨拶をしたあと、例年通り全員でドイツ語の「新年おめでとう」と声をそろえ、『美しく青きドナウ』に入るという粋な演出でした。
そうそう、バレエには名手マラーホフも出ていて、思いがけない眼福♪ 
NHKからの飛び切りのプレゼント!?といった趣の一夜でした。


二人目はカウンター・テナー藤木大地さん。金曜日早朝にBSで放送されたクラシック倶楽部に出演されました。
昨年秋に行われたコンサート『カウンター・テナーの饗宴』の抜粋で、是非聴きたいと思っていたある曲がカットされていて残念だったのですが、放送された中にここで是非とも取り上げたい一曲が♪


『死んだ男の残したものは』
作詞:谷川 俊太郎   作曲:武満 徹

死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった

死んだ女の残したものは
しおれた花とひとりの子ども
他には何も残さなかった
着もの一枚残さなかった

死んだ子どもの残したものは
ねじれた脚と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった

死んだ兵士の残したものは
こわれた銃とゆがんだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった

死んだかれらの残したものは
生きてるわたし生きてるあなた
他には誰も残っていない
他には誰も残っていない

死んだ歴史の残したものは
輝く今日とまた来る明日
他には何も残っていない
他には何も残っていない


私が素人ながら「日本のカウンター・テナー界における不二のコンマス」と勝手に思っている藤木さんの歌は、声の美しさと透明感もさることながら、間の取り方が絶品。
この曲は、ジャンルを超えていろんな方が歌っていらっしゃいますが、私は断然断然、藤木さん派になりました!
歌詞の一語一語、曲の一音一音を大切に大切にした、心に深く刻まれる歌唱です。


最後にご紹介するのは、スタニスラフ・ブーニンさん。
病気と怪我による10年の空白を超え、この秋から冬にかけて行った本格的な復帰リサイタルツアーの様子に密着したNHKのドキュメンタリーが土曜の夜に放送されました。
ブーニンさんの、いまだ思うに任せない体調(特に左手)に苛立ちつつも、奥様の献身的なフォローに応え、自らの理想とする「聴衆を感動させられる美しい演奏」を目指して奮闘する姿を追っています。
まさに不屈のピアニストにして求道者です。
ショパンの名曲アゲインは、若い頃の「これぞ天才」な雰囲気とは一味違う今の彼ならではの深みがあって、とてもよかったです。でも一番胸に染みたのは、このリサイタルの最後に持ってきたメンデルスゾーン「無言歌集」の『甘い思い出』♪だな。
この曲は、反田恭平さんの演奏をCDで何度も聴いていて、「美しいなあ」とお気に入りだったのですが、ブーニンさんの演奏には、美しいだけでなく、その奥に「痛み」や「悲しみ」があるような、そんな厚みを感じました。


本当に、音楽には人間性や様々な経験値が表れるものですね。

残念ながら私は演奏する方の才能には恵まれませんでしたが、素人ファンの一人として、今後もクラシック音楽の鑑賞を楽しんでいきたいと改めて思う週末でした。


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