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食べられない息子

息子こだぬきは食べられないものが多い。

そう、裏を返して食べられるものが少ない。

昔は、食材を細かく切ったり、すりおろして料理に混ぜたりしたこともあったが、そもそも味覚や口腔内が敏感だから、食べられないものが多いわけで、細かくしたり、すり下ろしたところで、息子は目ざとく、否、舌ざとく発見し、途端に食べなくなる。

そういうわけで、そもそもこちらとしても料理をするのが好きな人間でもなく、料理に時間をかけられる生活でもないので、息子が食べられるものだけで、食事を成立させてきた。

でもまれに、これはイけるかなとか、ちょっとならと欲が出て、料理を作ってしまう時がある。

今晩がそうだった。

ナポリタンにピーマンを入れた。息子に出した皿にはピーマンは入れていない。

でも同じフライパンで作ってるわけで、ピーマンのエキスや匂いが料理についている。

1口食べて、息子は「食べられない」と言った。

嫌いなものは食べても栄養にできないから無理やり食べさせてはいけないと聞いたことがある。無理強いしたって意味が無い。わかっている。でも、1口食べて箸を置いた息子を今日は許せなかった。

罵ったり、体罰をするなんてことは一切していない。ただ、同じ部屋にいることができなくなって、たぬきちは寝室へ移動しドアを閉めた。

階下から息子が咳をしているのが聞こえる。なかなか止まらないようだった。

随分昔に読んだスティーブン・キングのピエロホラー「IT」に、確か子どもの肥満は母親のせいだと書かれていた。当時は大学生で、何の気なしに見たフレーズだったが印象的だったのを今でも覚えている。

この咳はたぬきちのせいだろう。そう思った。おそらく息子は母親が怒っていることを理解し、さらに自分はなぜ好き嫌いが多いのかと自分を責めているに違いない。そのストレスで咳が強くなっているんじゃないかと思う。

でも私は聖人ではない。

せめて息子を罵倒しないために、別室に移動する。それが限界だった。

以前の投稿で子どもに腹が立つ時は、原因は他にあると書いた。冷静なもう1人のたぬきちが、「あんた本当は何に怒ってるんだい?」と尋ねるも、今日は特に思いつかない。歳のせいか、疲れのせいか?はたまた先の見えない不安のせいかもしれない。

こういう時、心底自分が嫌いになる。

そして夕方に見かけたある母子を思い出していた。

見たことのある母子で、こだぬきずが通っていた保育園の子だと思う。習い事が終わり、さあ帰るぞとなった際、男の子が「嫌だ!」と言って、どこかへ走っていったようだった。さっきの男の子にそっくりな顔の一回り小さいサイズの女の子の手を引いた女性が立っていた。恐らく母親だろう。

しばらくして駐輪場でまたその男の子と遭遇した。電柱にしがみついて「嫌だ」と怒っている。

うんざりしたように母親が、妹だけを自転車の椅子に載せて、走り出した。男の子はしばらく突っ立っていたが、ぼちぼち歩きだした。

昔こだぬきずがうんと幼かった頃と重なる。幼子が、1度「嫌だ」と言ったら放っておくしかもう術はない。誰が声をかけようが、なだめてもすかしてもダメだ。こういう時にできることは子どもの気が治まるまで見守るだけだと思う。

数日前から急に寒くなっているし、18時にはもう外は真っ暗。あの男の子が万が一まだウロウロしていたら保育園まで連れて行こうかなんて考えて、たぬきちもこだぬきらと連れ立って自転車を走らせたが、男の子はいなかった。

多分お母さんが待っていて、男の子も観念して一緒に帰ったことと思う。大変ですね。心の中で時空を超えてそのお母さんに語りかけた。

生きるのは大変だ。うんざりするほど。みな様お疲れ様です。

息子はいつもの薬をのんでさっさと就寝し、咳で目覚めるなんてことも無くよく寝ておりますのでご心配なきよう。


ピーマン

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