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【創作童話】カギ

①工場での仕事を終え、ボクはいつもの時間に、いつもの夕ご飯を食べていた。
いちいち考えることはめんどうだし、毎日同じものを食べてもちっともあきない。
これがボクのいいところだ。誰にもじまんできないけど。
チリンチリン

②めったになることのないドアのベルがなった。
「ラビンさんいますか。お届けものです。」
届け物は田舎の母さんからだ。
「そうか。今日はボクの誕生日だった。」
中には手紙とカギのかかったおもちゃの箱。
なんでおもちゃの箱なんて。

③母さんの手紙にはこう書かれていた。
「親愛なるラビン。お誕生日おめでとう。
あなたとの約束だったこの箱を送ります。
体に気をつけて。次のお正月こそは帰って来てね。母さんより。」

④そうか。この箱は確かに、小さいころぼくが大事にしていた宝箱。
この箱をプレゼントすることがボクとの約束だった?
でもカギがかかっていて、開けることができない。仕方なく母さんに電話をすることにした。

⑤「母さん、さっき箱を受け取りました。でもカギがないんですよ。」
すると母さんは、
「カギはあなたが持っているはず。大事なものだから自分で持っておくと言っていましたよ。」そう言ってすぐに、ボクの体調や仕事の話、工場長であるおじさんのことをやつぎばやに聞いては、しっかりやりなさい。と言って電話が終わった。

⑥しばらく耳の中で母さんの声がひびいていた。
「そうだ。カギを探さなくちゃ。」
この部屋に引っ越して来てから、ずいぶんたつけど、そのままにしていたいくつかの箱をあけて、運悪く最後の箱から小さなカギを見つけた。
おもちゃのカギは作りが悪いし、無理やり開けようとしたがダメだった。

⑦カギか。いつも持っているカギの束にそういえば何のカギかわからないのがついてたっけ?
すっかり忘れていたこのカギで簡単に箱は開いた。
中には、ノートが数冊入っていた。
「日記でも書いてたかな。それにしてもたくさんあるな。」

⑧ノートを開くとそこには、ボクの字で
「おにぎりタロウ 作うさぎタロウ」
と書かれている。タイトルも作者もタロウじゃないか。これがボクが書いたもの?
うさぎタロウはおそらくボクのペンネームなんだろう。

⑨「おにぎりタロウ」は修行して立派な忍者になるお話の絵本だ。
その他にも「はしタロウ」や「ねこタロウ」など、しばらくタロウシリーズが続いた。
他にも、ドラゴンやフェニックスが登場する冒険もの、草が主人公のコメディ、勉強にまつわるものや、昔話風など、ありとあらゆる物語が、何冊にもわたって書き連ねられていた。

⑩ずいぶんたくさん、書いてたんだなあ。
そうかボクは絵を描いたり、物語を考えるのが好きだったんだなあ。
少しずつ思い出してきたが、同時に別に思い出したこともあった。

11)クラスには絵がうまい子がたくさんいたよな。
そういえばボクは色を塗るのが下手で図工の時間に先生に色が汚いって言われたっけ。
もちろん点数も悪かった。

12)文章を考えるのが好きで、作文も好きだったけど、たしか大きな大会で賞をもらえなかったんだよね。
大きくなったら絵本を作るなんて母さんに行ったら「あなたには立派なおじさんがいるんだから、おじさんの工場で働けばいいんですよ。」って言われて、今もお世話になってたんだよな。

13)一番底にあったノートに書かれていたのはお話ではなかった。
自分を守るのは自分だけ
自分の夢を守るのは自分だけ
自分を信じる
自分の才能を信じる
自分を守るためのカギ

14)ボクは自分の夢を箱に詰めてカギをかけて守っていた。
どうして忘れていたんだろう。
ボクは考えるのが大好きだったんだ。

15)気づけば、部屋に唯一ある窓から光が差し込んでいる。
どうやら夜があけたらしい。
少し眠って仕事に行こう。そうだ。夕ご飯は、今日は外で食べよう。

#創作童話 #ショートショート


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