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お墓、どうしてます?

「じさを荘」ときたま日誌



うちの場合、父がなくなって12年になるのだけど、まだ実家に骨壺のまま置いています。こういう場合、関西は骨壺が小さいのが助かります。

でも、そうか。今年はもう13回忌か。とくだんの信仰心があったわけでもないのに行事ごとだけはこまめに欠かさなかったひとだったから13回忌してほしいだろうなあ、父は。どうしょう?

ずるずると「お墓をどうするか」決めあぐねているうちに、実家の二階の空いたままの部屋を「仮の本堂として貸してもらえませんか?」と知り合いのお坊さん(地方では住職不在のお寺が増えている反面、都会ではマンションの一室などをお寺にするお坊さんが少なくないそうだ)に言われ、「いいですよ」。
すでに一階は家族葬ハウスとして利用してもらっていて、そのお坊さんと葬儀社の川原さんはもともとは霊柩車の会社の元同僚ドライバーという関係で、この貸部屋の話も川原さんからの相談があったからだった。
そのかわりではないが、行きがかりから本堂で父の遺骨をあずかってもらっている。なのでいまは、ただ実家に置いていますじゃなくて、「お寺に置いている」「毎日、拝んでもらっている」というハナシになっている。まあ、わが家なんだけど。

ということで、12年間なんとなくお墓をどうするかは先送りしている状態だ。そんなこともあって、目にとまったのがこの本。
『お墓、どうしてます? キミコの巣ごもりぐるぐる日記』北大路公子(集英社)

誰が? 私が!?

なくなった父親の遺骨を一年半、自宅の神棚に置いていて、どうしたものか?と思案しているというエッセイ集だ。

書店で手にし、実務書というのでもなく、「体験」を綴ったエッセイというので買ってみた。初めて知る作者だが、人気作家さんらしく、旅ものの文庫本シリーズの案内が巻末にある。こちらも読んでみたらドタバタしていて面白い。
北大路さんは母と2人暮らし。きょうだいは既婚の妹が近くにいて、義弟との関係も良好らしい。
なくなった父は、
「骨なんてもうそこらの道に撒いてくれたらいいから」
と言っていたそうで、著者いわく、その一言からも、なんも考えていないのがわかるとか。道に撒けるわけないだろ(笑)。

母はというと、
「私、お父さんと同じお墓に入るの嫌だなあ」という(笑)。
さらに著者のキミコさんもまた、さっさと決めちゃえるひとなら、この本はできなかっただろう。
決めなきゃ。
そろそろ決めなきゃ。
と決めあぐね、決断するために「そうだ、よそ様のお墓をいろいろ見て回ろう」。編集者と連載企画をたて、さあ、というところでのコロナ。
旅行は無理。しかし何か書かなければというので、外に出ていけない日常を綴っている。

もらい受けた保護猫の世話やら、お隣さんが設置したエアコンの室外機に悩まされたりする、といった日々あれこれが綴られていて、なかなか始まらないお墓問題。おかげで、まったく知らない著者の素性を詳しく知っていくことになる。

まったく知らなかった他人のことをいつの間にか詳しく知るというのは、江戸川乱歩が描く覗き見の世界のようで妙なものだ。
とくにお隣のエアコンの室外機が自分ん家の寝室の傍にあり、それがデカイ音を立てるので安眠を妨げられている。お隣とはいえ親しい関係でもない。言いに行ったりもできもず、悶々とする。その様子が軽いタッチで吐露され、ああ、わかるわかる。騒音はそうなんだよなあ。ついワタシも過去の体験をしゃべりたくなる。聞いてよと。あのときはヤバかったよ。もういいんだけど。

まあ、そんなふうにして本題のお墓問題から目をそらしていたキミコさんだが、高倍率だからまずダメだろうと申し込んだ市営霊園の抽選に当たってしまった。
「困った」
突然、具体化する墓石をどうするか?問題発生。墓石だけに、けっこうな出費だ。どうする?
明かされる、まあ行き当たりばったり感に安堵してしまう。

キミコさんは家の神棚にお父さんの遺骨を置いている


しかし、お尻に火がついた事ここに及んでも、なかなか腰をあげようとしないキミコさん。まさかの決断先延ばしだ。読者として、すごーく親近感がわく。
お墓問題の参考書を期待して読むとアテがはずれるが、自分を許したいひとにはいいかもしれない。

もしやこのまま何もせずに終わるのか?
そんな気配の中、俄然、拍車がかかるのが、エピローグの章だ。
さすがにこのまま終わってしまってはまずかろう。石材店を巡りを始めるのだ。ここは、かなり参考になる。
たとえるなら、松竹梅。3店舗の墓石屋さんを訪ねる。
見事なまでに店ごとにまったく違う接客に驚きつつ、その一部始終をレポートする。
1軒目はフリーターが店番してんのかなというかんじの店。2軒目は、この道ン十年なおじさんのセールストークがんがん。3軒目は、ごくフツーの会社っぽい。接客はスマートだ。
わたしの好みは、呼びかけないと店員さんが話しかけてこない1軒目の石材店さんだなあ。おいおい、というのも含め。合う合わないはちょっと洋服屋選びに近いかもしれない。

が、が、が、まさか(かなり予想はしたけど)。結局、何一つ決めず持ち越しのエンディングに「まあ、だよね」と、なんとなく安堵してしまった。

駆け込みのように、石材店をめぐった3店舗レポートが人物記にもなっていて面白い


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