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ポテンシャル

知人が馴染みのレストランに連れて行ってくれた。
車でないと行くのが困難なそのお店は
山あいの焼き物の里にあった。
 
ご夫婦で経営されている
こじんまりとしたレストラン。
ランチタイムのみの営業で
予約のお客さんだけ受け入れている。
元々は都会で営業されていたが
数年前にこの土地に移転されたのだと。
 
DIYで店の外装、内装をされているという
お店の中に入ると壁にはいくつかの絵が掛けられており、
店の奥では薪ストーブが焚かれていた。
 
こたつテーブルに座ってお料理を頂く。
器は地元の窯元の物を使っているのだそう。
欠けたり、割れたりした器が漆で繕われていた。
 
近隣で採れた無農薬の野菜、
猪や鹿などのジビエ、
抗生剤などを与えられることなく育った鶏、
丁寧に育てられた希少な牛の生乳、
そして調理に用いられる水は湧き水。
 
様々な野菜を多用したお皿が運ばれてくる。
見た目にも美しい料理を口にしてうなってしまう。
シンプルな調味料のみで作られた料理の数々。
野菜のポテンシャルが十二分に引き出されている。
とても丁寧に手間をかけて調理されたのだろう
と想像される。
 
この素材でこのお料理でこのお値段でこの客数、
このお店はやっていけるのだろうか?
 
感嘆、感心、感動すると共に反省もさせられる。
これらの素材にはこんな美味しさが詰まっているのだ。
私はさっぱりその力を引き出せていないではないか?
埋もれさせたままでは?
 
そして恐らく食材だけではない。
人もまたきっと同じ。
目の前にいるその人のよさを最大限に引き出せているか?
「人の潜在能力をあなどってはいけない」とは
どこかで聞いたフレーズ。
 
更に言うなら対象が自分であっても同様。
自分のことを見限ってはいないか?
私は所詮こんなものだ、と。
 
帰り際シェフが店の外まで見送りに出てくれていた。
暮らしをスローダウンさせ、
納得のいく経営の在り方で、
真摯に仕事と向き合い、
素材のポテンシャルを最大限に引き出し、
そして自身の能力をも存分に発揮されているのであろう
その人は
凛とした佇まいの美しい女の人だった。

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