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短編小説

あと数駅
あなたの降りる駅が近づいてきます

いつもは車の助手席だったから
二人で電車に乗っている事も
なんだか妙な感じです

あなたは隣で前を向いたまま
今通りすぎた駅の町で数日後
行われる有名なお祭りの話をする
私は興味深いかのように聞き入る
ここからの短い時間も楽しく過ごしたい

出会って12年
二人で会ったのはほんの数回

なんとも不思議な関係ではあります
たまたまこんな世の中で
SNSでちょっとした繋がりも糸が切れずに続く
「生きてますか?」
と送れば
「なんとか生きてます」
と返信が届く

「元気?」
とくれば
「なんとか元気」
と返す

「デートしようよ 笑」
「会いませんよ 笑」

そんなやりとりもどれだけか
続きましたね
会うのは
私の気持ちがあふれた時だけ

いつも不思議に思います
あなたと会った後の余韻は
いさぎよい短編小説を読み終わった後のような・・・・
例えようのない爽快感があるのです

あなたの降りる駅で
あなたが自分の家に向かう
「私との時間」とは違う空間に戻る

私にとって「あなたとの時間」は
現実のまま しばらく続きます
また会いたいと・・
ただ そうじゃないフリをするだけです
完璧にそんなフリをできる自分に
「爽快感」を感じるのかもしれません
「私も私の現実に戻りましたよ」と

そしてまた それぞれの日常を送るのです
日常に戻りきる
でも本当は私の中では数週間もくすぶり続けます

お互いがお互いを心のどの位置に置いているのか 一度も確かめる事なく
まるで何もなかったように
約束もしない
いつも
まるでまた会うかのように
そしてこれが最後かのように
しれっと別れるのです

最後に「触れたい」と感じます
きっかけを探す自分がいた
けれど伝わったのかな?
あなたが私の膝に無造作な感じでそっと手をおく
少しずつ温もりが伝わってきます
人と人は「触れたい」と思う時がある

また駅だ
これが過ぎたらあと2つ

あと2つであなたはいなくなる

追いつめられて
無造作に彼の手の上に
手を重ねた

この温もりは現実のまま
しばらく持っていられる
そして本当はあなたにも
持っていてほしい
違う空間に帰っていっても
私のこの手と触れたこと

短いようで長い私の人生の中で
ちょっとだけ起きる「時間」

あなたとの事は
いつも「短編小説」です
そしてこれは私の体の中でしか
わからない
だれも読むことの出来ない強がりな
女の「短編小説」です







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