きょうばす 2023/11/10

 京橋でご飯の約束があって、せっかくだし朝から大阪城あたりに赴いて石垣や堀端や時期はずれの梅園、閉め切られた大阪城ホールなどをそぞろ歩いた。まったく関係ないが大阪城ホールをジョウホーと略す慣習がすきだ。散策して一番良かったのは大阪市建設局東部方面管理事務所弁天抽水所といういかめしい名前の建物であった。

 ベンチュー(以後お見知りおきを)の施設内がどうなっているかはわからないが、建物の外郭、地図には苔色でしるされている部分が半庭半道の緑地になっている。煉瓦づくりの古い建物の中二階に控えめな花壇と植え込みを備えた屋上庭園のようなものがあり、疲労に耐えかねた作業着のおじさんがひとり項垂れている以外は人も見えなかった。小高いので寝屋川と第二寝屋川の合流地点がよく見える。こんな地味なところに人が寄りつくはずもなく、修学旅行や国際観光の集団がわちゃつく城内とはうってかわって静まり返っている。膝の上にパソコンを開いて修論を少し進めた。すごろくで言えば2マスくらいか。

 京橋はいつ来てもやかましい。JR改札を出てすぐのみょうちくりんな広場が諸悪の根源である。誰が言い出したか「この広場ではうたを歌ってもいい」というルールでもあるようで、基本的にはaikoが絶叫されている。耳をつんざかれながら、広場からのびる細いアーケードの洞窟が光っているのを見、背を丸めて梅田に帰るのだ。
 丸めた背もそのままに高速バスへ搭乗し、窓際のすきまに身体をねじ込む。青春なんとかライナーという号名のわりにティーンは皆無で、自分のような金のない二十代と、ほぼセクしてる海外アベック、なぜか神経質そうに咳き込む老人が、めいめいの行儀良さで眠れる空間を作り上げようと力を合わせる。

 ぱっ と車内灯がつき目を覚ますと海老名サービスエリアについたから30分休憩してこいとのお触れが出た。メイクを落とす間もなく眠ってしまったので念入りに洗顔してからSA内を探索することとした。日本最大の利用客数を誇るだけあって朝4時からパンを焼いて売っている。フードコートも営業しており、運転疲れのお父さんが横浜家系ラーメン壱角家で硬め濃いめ多めを注文しているのが見えた。海老名に来たら鯵の唐揚げを食べてみたかったのだがさすがにこの時間から油物は入らず、安曇野の飲むヨーグルトをちゅうちゅうと吸ってバスに戻った。
 それから先は眠るに眠れず車窓をぼーっと眺めた。まだ暗い高速道路に、オイルを運ぶ銀のタンクローリーが橙色のあかりを反射していた。あと一時間もすればバスタ新宿で深呼吸できる。夜行バス内の空気はぬるく濁っており、意識のあるまま乗るには少々息苦しいのだ。音の鳴らぬようフリスクを手に出したら落としてしまい、前方の座席へと転がって消えた。

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