花の都 2024/02/16

 先月末、6年間住んだ大阪を離れた。退去立ち会いでは上半身を重点的に鍛えている不動産屋に大阪弁でひとしきりの嫌味を言われ、引っ越す前の名残惜しさを解消してくれるサービスのようであった。重たいキャリーケースとパンパンのリュックに体を破壊されながらも、やはり西中島南方から新大阪は歩くものだからと意地を張り、なんとか昼頃には新幹線内で黒ラベルを呷ることに成功。富士山も束の間、品川駅の往来を大きな荷物で妨害しながら不動産屋に赴き、契約書のいたるところに意味もわからずハンコを押した。ここからは社用車で送っていただけるとのことで、車窓からビルが途絶えぬまま新居に到着した。「では、新生活、楽しんでくださいね。」と担当の方に送り出され、エレベーターを上がり鍵を開けると、それはもうとんでもなく良い部屋で、今朝引き払った部屋への愛着など吹き飛んでしまった。

 新たな我が町を開拓しようにも財布が許さない。引っ越しとは予想の三倍お金のかかるものである。これはマズいとバイトを探し、座ってマニュアルを読んでいるだけで稼げるコールセンターの仕事を始めた。怒涛の週5勤務ですこしの蓄えを得て、しかし私は来週からタイを旅行するものだから、つい一昨日退職した。OJTだけで辞めていく最悪アルバイターに身を堕としてでも銭を稼がねば私の幸が損なわれるのだから、どうか誹謗は止して欲しい。それにしても東京のコールセンターは大阪のそれに比べて雑談に難のある人間が多かった。受電中のマニュアルと砕けのバランスも悪いし、電話のかかってこない暇な時間に話しかけてみても返答に必ず過不足がある。奴らのコミュニケーションはへたっぴで、私のは百点満点正解である、と不遜なことを言いたいわけではない。ただ、大阪のコミュニケーションの方がスムーズだったなとつくづく思うのである。やはり大阪という土地への愛着は拭えない。

 最近は引っ越しや春先の就職に伴う手続き以外の時間をほぼ全て戦略ゲームに費やしている。将来に備えて英語やITのお勉強をしなければならないのは重々わかっているし、学びの足を止めてしまってはいけないとは常々思っているのだが、それよりもローグライクの魔力が上回ってしまっている。シレン6とSlay the Spireが私の全ての時間を奪っていく。時折行き詰まってコントローラーを手放しても、今度は将棋が私を待っている。角道と飛車道の交差点を意識しながら王を囲い、銀先の歩をぶつけるタイミングやふんどしの桂を打ち込む隙のことばかり考えている。盃やティーカップを傾けながらゲームをしていると、気力を起こせない人間の嗜みは古来変わっていなくて、脈々と続くその濁った流れの先端に私がいるのかも、と痛感するところである。

 暖かくなってきました。花粉も少し出てきたようで今から憂鬱ですが、皆さん健やかに頑張っていきましょう。東京の方は是非遊びに誘ってください。3月ほとんど空いてます。 

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