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生成AI海外事例2(法務関連)

今回は生成AIの実際の活用に関して、幾つか海外での最新事例を紹介できればと思います。まずは法務関連に関して5つのスタートアップを取り上げます。

まず一社目はHarvey社です。こちらは前回のレポートで紹介した会社となりますが、これまでに$26M調達し、23年4月のシリーズAではOpen AIやセコイア等から$21M調達しました。ChatGPTの技術をベースに、契約内容の分析、デューデリジェンス、訴訟、規制対応、コンプライアンス等の法務業務全般に関するサービスを提供します。今年3月にはPWCとのパートナーシップを発表しました。

次はIronclad社で、2015年に設立、本社は米カリフォルニアで、従業員は約500人、現在のValuationは$3.2B。Yコンビネーター、Accel、セコイア等から22年にシリーズEで$150M調達。契約プロセスの業務管理に特化した法務領域のソフトウェアを提供する会社で、Yコンビネーターの2015年夏バッチに採択されています。

今年にはChatGPT4をベースにしたチャット形式のAIアシスタントサービスの提供を発表し、ユーザーへのさらなる業務効率化の手段の提供を進めています。これはまさにVertical SaaSの領域でのAI活用が進むという典型的な事例で、他の領域でもこれまで業務支援ソフトウェアを提供してきた会社による生成AIを活用したCopilot的なサービス提供はますます進むと思われます。

(Ironclad社のページより)

次はEvenup社です。2019年に設立、本社は米カリフォルニアで、従業員は約150人。現在のValuationは$325Mで、23年5月にシリーズBでBain Capital、DCM、Bessemer等から$50M調達しました。傷害事件や事故などの人身傷害に関する法領域に特化したAIサービスを提供しています。

米では毎年数百万件の関連の事件が発生していますが、これらの情報は一般に公開されないことが多いため、示談金や損害賠償金の見積もりが難しいことより、非常に不利な条件で和解、示談せざるを得ないケースも多いと言われます。この問題に着目した同社は、同領域の判例やメモ等の膨大なデータとAIの活用より、適正な金額の算定や、法務関連業務の効率化に貢献を目指しています。AIアシスタント機能のLitifyも発表し、自動車事故、警察による暴力、児童虐待、自然災害等、様々な人身傷害関連のテーマにおいて、今後は文書作成業務においても70%に近い業務のカバーを目指すなど、広く包括的なサービス提供を進めています。

EvenUpの創業メンバー(Bain Capital Venturesのサイトより)

Casetext社に関しては、報道でも目にした方も多いかもしれませんが、23年8月にロイターにより買収された会社です。2013年に設立、本社は米サンフランシスコで、従業員は約100人。Yコンビネーターの2013年夏のバッチに採択されていました。ロイターによる買収額$650Mと報道されています。

同社は、米における主要な判例をデータベースに、弁護士等の法律分析や証言作成の業務を支援しています。これまで同様のデータベースのサービスが非常に高額な料金で提供されていたことに注目し、法務データへのアクセス改善を目指しています。同時に調査業務にChatGPTを活用したCopilot的なアシスタント機能を提供することで、弁護士業務全般の効率化も進めています。同社を買収したロイターは現在、収益の約40%という大きな割合が法務関連のデータベースの提供から構成され、同領域のAI化に今回の買収で先手を打った形となり、大企業にとっては参考になる部分も大きいディールと考えられます。

ChatGPT4導入の法務アシスタントサービス、CoCounselを提供(同社ウェブサイトより)

最後にPincites社です。23年に創業されたばかりでYコンビネーターの直近の23年夏のバッチに採択されています。米カリフォルニアが拠点で、Valuationは$7Mと言われています。

同社は契約書確認のためのAI Copilotサービスを提供しています。ワード等において契約書を確認する際に、主要なリスクをピックアップし、標準的な文言からの差異を提示し、分析情報やガイダンスまで提供します。契約書関連業務を担当した人なら実感する部分かと思いますが、こういった業務では論点は決まっており何となく気になる部分は見えてくるものの、それを網羅的に見つけ出すことや、あるべき条件や落としどころなどを列挙するのはやはり専門知識や経験が必要で、弁護士も法務部も注意して実施したり、あるいはばらつきすら生じてしまう部分です。こうした業務が自動化され、AIにより広く判例や標準的な条件等を参照できることは弁護士や担当者にとっても大いに役立つサービスと想像できます。

Pincite社サービスイメージ(YCサイトより)

今回は法務領域に関して、生成AI活用の最新事例として5社のスタートアップを紹介しました。実際に見てみると、法務といっても取り組む部分や領域が分かれており、サービス展開をイメージするために参考になる部分も多いと思われます。また別領域のスタートアップも紹介していければと思います。

出典
各社ウェブサイト、YCの会社紹介など

Corporate legal departments see use cases for generative AI & ChatGPT, new report finds(表紙イメージのチャートを参照)
https://www.thomsonreuters.com/en-us/posts/technology/chatgpt-generative-ai-corporate-legal-departments-2023/

Ironclad社
https://www.ycombinator.com/companies/ironclad

Leveling the Legal Playing Field Through AI: Why We Invested in EvenUp
https://baincapitalventures.com/insight/leveling-the-legal-playing-field-through-ai-why-we-invested-in-evenup/

Casetext社
https://www.ycombinator.com/companies/casetext

Pincites社
https://www.ycombinator.com/companies/pincites


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