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VC Fund Controller Networkで「ファンドの守り」勉強会を開催しました!

こんにちは、VC Fund Controller Network運営チームの田中です。
2024年4月3日に開催した、ファンドの守りについての勉強会の内容をお届けいたします!


VC Fund Controller Networkとは

VC Fund Controller Networkとは、VCやCVCのファンド管理担当者向けのコミュニティです。VC/CVCのファンド管理実務を底上げしていきたいという思いのもと、不定期で勉強会などのコミュニケーションイベントを開催しています。

詳しくは運営メンバーのジェネシア・ベンチャーズ吉田実希さんのnoteをご覧ください!

また、過去の勉強会レポートも以下からご確認いただけます。

概要紹介

今回はみずほキャピタル株式会社 飯田正邦様、Spiral Capital株式会社 前田信一郎様をゲストにお迎えし、利益相反の対応やチェックリストの運用、LP(Limited Partners:ファンドの有限責任組合員) とのコミュニケーションをテーマに、ファンドを守るミドルバックのみなさんが気になるポイントについてお話しいただきました。

<ファシリテーター>

ジェネシア・ベンチャーズ 吉田 実希 氏(VC Fund Controller Network運営メンバー)

<ゲスト>

みずほキャピタル株式会社| 飯田 正邦 様
2017年10月にみずほ銀行からみずほキャピタルに出向。
経営企画部に所属しミドルバック業務や経営管理等全般に従事。着任後、ファンドレイズ7件の関与に加え、他社CVC設立支援や投資助言業のライセンス取得・当局対応なども経験し、銀行レギュレーション下でのファンド運営に精通。
出向前は銀行員として成長企業や公益法人・特殊法人を担当。担当先の海外進出支援、事業承継サポート、アライアンス支援等に幅広く従事。

Spiral Capital株式会社| 前田 信一郎 様
2023年2月、Spiral Innovation Partnersに参画。
当社参画前は、日本生命保険相互会社に約14年勤め、有価証券運用部門のバックオフィス、子会社VCでのスタートアップ投資及びアクセラレータープログラムの企画・運営、個人保険の販売戦略企画等、幅広い業務に従事。


利益相反に対する対応

(吉田)利益相反は言葉としてはよく聞きますが、実際にどういう場合に発生するのか、発生してしまった場合の対応について教えてください。

(飯田)みずほキャピタルは、形式的にはみずほ銀行のCVCに近く、基本的にはみずほ銀行の資金で運用しています。
複数の投資ファンドを並行して運用すると、通常はそれぞれのファンドから出資をすることになります。

例えば、ファンドA及びファンドBが同様の業種・地域の企業に投資を行うとすると、ファンドA及びファンドBで、投資対象が競合します。この時、ファンドBのみに偏った運営がなされると、ファンドAのLPの利益は損なわれる、という形で利益相反が生じます。

しかし、みずほではグループ内で戦略的にファンド運営を行うという方針のもと、銀行とみずほキャピタルの出資比率を工夫しています。デットファンドやグロースファンドでも同様に比率を工夫することで、利益相反を回避しています。

万が一、利益相反の疑いがある取引が発生した場合は、フロントからリスク所管部に報告を行い、弁護士なども交えて対応を検討する仕組みになっています。

(吉田)実際に投資先が重複することはあり得るのでしょうか。

(飯田)はい。重複防止のため、ファンドのコンセプトごとに投資対象を分けています。

例えば、ライフサイエンスファンドは薬事承認を必要とするモデルの企業を対象とし、それ以外の承認が不要なビジネスモデルは、成長支援ファンドの対象とする、というような形です。

また、1件当たりの投資額が大きい場合はグロースファンドで対応するなど、客観的な基準等を設け運営を行っています。

(吉田)各ファンドのリターンを均等にするため、戦略的にファンドを分けて投資しているということでしょうか。

(飯田)リターンの観点のみならず投資先ニーズや金額の基準を設ける方が、整理する過程で進めやすいという考えに至りました。

昨年設立したベンチャーデットファンドも、当初は「エクイティ出資の立場と、債権者の立場で相反するのではないか」という考えもありました。そのためエクイティ担当とデット担当を分ける方が、運用上スムーズになると改めて実感しました。

(吉田)前田さんはどうですか?

(前田)まず前提についてお話ししますと、弊社はグループ会社として、Spiral CapitalとSpiral Innovation Partnersの2つの会社があります。Spiral Capitalは基幹ファンドで、Spiral Innovation PartnersはいわゆるCVC的な位置付けになります。

利益相反については、会社を分けることで情報管理や担当者も分離し、対応しています。両社で同じ会社に投資することはないですね。

(吉田)追加投資などもされていらっしゃらないんですか?

(前田)CVCが投資したところに基幹ファンドは投資しません。

個人的に難しいと思っているのが、そもそも利益相反の定義がどこから出発しているか、というところです。ファンド管理における利益相反は金融商品取引法(36条2項)の善管注意義務・忠実義務から出発しており、適格機関投資家特例業者である全てのファンド運用者にその義務が課されています。

経産産業省が示すモデル契約には投資機会の配分については、「無限責任組合員がその裁量に基づき適当と認めるところに基づいて」という記載がある反面、抽象的な部分が多く、明確に指針を立てて動くには難しいところがあるのが現状です。

(吉田)例えば、ファンドが初回のリード投資を行い、次の投資で同じファンドのLPが直接フォロー投資することを希望した場合は、LPとGP(General Partner) 間で投資機会の奪い合い、つまり利益相反が生じてしまうというように考えられませんか。

(前田)一概には言えませんが、可能性としては低いと考えています。LPとしてはスタートアップへの投資資金をCVCファンドに寄せているのでGPで対応してほしい、という形に落ち着くのではないでしょうか。

みずほキャピタル株式会社の飯田様(写真左)とSpiral Capital株式会社の前田様(写真右)

投資先のチェック体制

(吉田)次のテーマは投資先のチェック体制についてです。ルールは決めたものの、実務への落とし込み方が課題だと感じています。ルールを整備しても、誰がチェックして運用するのか、どのようなワークフローや体制であれば機能するのか、そのあたりをお伺いしたいと思います。

(飯田)みずほキャピタルでは年間100件近い投資実行を行っているため、フロント、ミドル、バックの3段階の体制で、組織的に運用しています。

銀行系ということもあり、業種規制や法令を踏まえた詳細なチェックリストを作成しております。このリストを投資審査プロセスにおいて2回に渡り、フロントが起票します。

起票のみではチェックとならないため、バックにあたるリスク所管部でダブルチェックを行っています。疑義があればミドルバックが掬い上げるような体制で運用しています。

(吉田)チェックの際、ネックになりやすい項目はありますか。

(飯田)例えば、出資比率が一定割合を超えるとフラグが立つよう設定しています。また、弊社独自の弊害防止措置なども網羅的に確認出来る仕組みとなっています。

(吉田)チェックリストのメンテナンスはどのように行っていますか。

(飯田)新ファンド設立など既存の体制に影響するタイミングで見直しを行っています。また、法令の改正は毎月モニタリングし、アップデートを行っています。

(吉田)投資後のモニタリングはどのように運用していますか。

(飯田)年に一度、コンプライアンスの観点を含む別のチェックリストで投資後のモニタリングを行っています。当初の投資仮説と実態にギャップが生じることが前提のため、そうしたギャップを認識する機会を設けています。

グループガバナンス上、運用に対する責任も大きいことから、まずはモニタリングの仕組みを作り、実際に運用しながら実態に最適なオペレーションを模索しています。

(前田)私は日本生命出身なので、どうしてもその経験に引っ張られてしまいますが、当時学んだ考え方をベースに体制を整備しています。
具体的には、チェックリストを段階ごとに分け、前の段階をクリアしないと次に進めないよう運用しています。

①出資・決裁に必要な情報
②LPAでの規定事項
③コンプライアンス的な観点
の3段階で設置しています。

IIA(The Institute of Internal Auditors:内部監査人協会)が提唱するコンプライアンスのスリーラインモデル、第一線と第二線の役割分担に沿った体制です。

(吉田) チェックリストの運用が一番大変だと思いますが、その壁をどう乗り越えてきたのでしょうか。

(前田)壁を高くし過ぎるとキャピタリストのフラストレーションがたまるというジレンマがあります。一方、リストがなければ必ず問題が生じます。

私の役割としては、実務を行うキャピタリストとルールを作るバックの橋渡し役となり、キャピタリストの個性を見ながら導入することが大事なミッションになってくると思います。

(吉田)キャピタリスト側にもチェックリストの重要性を丁寧に説明し、理解を求めることも大事ですね。

(前田)そうですね。あるいは、キャピタリストに負担をかけるやり方でなく、ミドル・バックがチェックリストの運用の大変な部分を引き受けるというスタンスも必要かもしれません。業務のキャパシティが許せば、新しい取り組みとしてチャレンジしてみるのも一案でしょう。

LPとのコミュニケーション

(吉田)ミドル・バック部門は、LPの窓口の役割を担われていることが多いですよね。トラブルが発生した際、いつ、誰に、どのように伝えるべきか。報告する際の優先順位や、GPが直接行うべきかどうか、などの対応については、どのようにお考えでしょうか。

例えば、投資先のスタートアップ内でトラブルが発生し、処理が未定の状態だがバリュエーションに明らかな影響がある場合。早期にLPに報告すべきと考えつつ、スタートアップ内部や投資に入っているVC間の対応を整えた上で報告した方が良いのかなどの懸念が生じます。このようなケースでのコミュニケーションについて、指針があれば教えていただけますか。

(前田) LPAで定められた報告義務に従うのが原則ですが、この場合はいかがでしょうか。

(吉田)明確な規定はないものの、コンプライアンス上の重要事項にあたるラインを想定しています。

(前田)その場合、事実確認、GPへの報告を迅速に行い、対応を相談した上で行動することが大事だと思います。

本来は、投資しているすべてのLPへの報告タイミングを揃える必要がありますが、状況によっては、アンカーLPに事前に連絡を入れ、正式な文書は一斉に送付する、という方法もありますね。

(吉田)GP内部での問題はどのように対処されていますか。

(飯田)みずほキャピタルでは、GP内で法令抵触の懸念が生じた場合、重要度で対応が変わります。重要度に応じてリスク所管部や社外弁護士を含めて対応を検討します。

(吉田)ちなみに、GP内部でのSNS関連の取り扱いはどのようになっていますか。

(飯田)SNSの業務利用は禁止しております。

(前田)スパイラルは少数精鋭の性善説に立っているため、SNSに関するルールは厳格に定めていません。しかし、コンプライアンスの観点から、情報管理上一定の制限は必要と考えています。

(吉田)確かに大手であるような、審査部の確認に2週間かかってようやくX(旧Twitter)に投稿する、というやり方は現実的ではないですよね。ただ、SNSに関しては、NGとなるラインの認識は最低限、揃えておきたいですよね。

(飯田)みずほキャピタルでは着任時のコンプライアンス研修に加え、毎月15分程度の確認テストを実施しております。グループ全体で実施しているテストの内容を、VCの業務実態に即した形に変更しています。他にもインサイダー取引規制の勉強会等も行っており、コンプライアンス意識の醸成に努めています。

Q&A

異なるファンド間での投資先の重複について(利益相反)

(質問)例えば、同一のGPが運用する複数のファンド間で投資先が重複するケースはどう対応すべきでしょうか。同じファンド内での調整はできているが、AファンドとBファンドの間ではルールが定められていないという状況です。

(前田)GPは運用コンセプトを明確にし、説明できるようにしておくことが重要です。ファンドをまたいだ投資を行いたい場合、LPAにその点が記載されていないのであれば、ファンドAとファンドBそれぞれのLPからの全部承認が必要となる認識です。事前に承認を得ておいたほうがいいでしょう。

GPとLPが共同で投資に参加する場合の注意点について(利益相反)

(質問)狭い地域の中で、GPとLPが共同で投資に参加するというような場合に気をつけることはありますか。

(前田)LPAでは基本的に制限されないと思いますが、先にもお話しした投資機会の配分について注意が必要です。LP内の窓口がファンド担当部署と資産運用部署で異なる場合が多いので、調整が難しくなるケースが考えられます。基本はLP内部の話なので、LP側で調整いただくのが適切な落とし所になるのではないでしょうか。

(吉田)可能性は低いかもしれませんが、複数のLPに対して、事前に対応方針を決めておくというやり方も考えられますね。

(飯田)全てのLPに対して平等に情報を提供し、要望に応えることが公平性の担保につながります。

法律関係の項目を網羅的にリスト化しているか(チェックリストの運用)

(質問)チェックリストの運用のうち、法令関係の項目も網羅的にリスト化されていますか。

(飯田)現在の運用に加え、米国銀行法に対応したチェックリストも用意しています。銀行や弁護士と情報交換を行い、内容も定期的にアップデートしています。

(吉田)独立系VCだと最新の法令のキャッチアップは課題の一つですよね。ジェネシアの場合は、アドミの外部委託先から最新の情報をいただくこともあるのですが、法改正に気づかないリスクを防ぐため、システマティックにアップデートできる体制作りが重要だと思います。

VC担当者が投資先会社の社外役員を務める場合(利益相反)

(質問)VCの担当者が投資先企業の社外役員を兼任する場合、ファンドの期限とIPO時期の間で利益相反が生じる場合はどう対応されていますか。例えば、バリュエーションのためにはIPOを先延ばしにした方が良いが、VCにとっては早期のIPOが望ましいというジレンマが生じ得ると思います。

(飯田)みずほキャピタルでは、社外役員を送る際に利益相反の該当性を事前に確認しています。仮に該当した場合は、役員の候補から外します。

基幹ファンドとCVCの間で投資先が重複した場合の基準(利益相反)

(質問)基幹ファンドとCVCで投資候補先が重なった場合、どちらが投資するかという判断はどのように行っていますか。

(前田)スパイラルはGeneralFundとCVCFundを運営する会社が異なるので、それぞれが別々の裁量で判断します。

懇親会

懇親会では、初参加の方も含め、自社の事例紹介やミドルバック部門特有の悩みについて活発な意見交換が交わされ、各社の知見を共有し、参加者同士の横のつながりを深める機会となりました。

参加者のみなさま

コミュニティへのご参加方法

VC Fund Controller Networkはこれからも今回のようなイベントを定期的に開催していきます!次回は6月の半ばに、ファンドアドミ初心者向けの勉強会を予定しています。

VCやCVCでファンド管理を行っている新メンバーも鋭意募集中ですので、ぜひこちらのGoogleフォームからご連絡ください。

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