日本的なるものへの危機感〜記号化するということ

インターナショナルエキシビジョンが大学で開かれた。どういった団体が主催しているイベントなのかよくわからないが、留学生が国ごとにブースを作り、各国の文化を紹介するというものだ。郷土料理を出しているブースもあった。

日本も参加することになっていたので、一応私も2回ほど顔を出した。と言っても、準備などはほとんど他の人に任せたので、私はただただ行ってはしゃいでいただけというのが正直なところだ。
しかも、行った目的が「お昼時に行っておいしい料理をたくさん食べて昼ご飯代わりにする」というたちの悪いものだった。今は申し訳なく思っている。
この手のイベントは私が経験しているだけでも2回目ということもあり、他の国から留学に来ている友達もあまり乗り気ではなかったらしく、いっしょに行動してご飯を食べたりもした。

料理の他には写真の展示であったり、郷土品の展示であったり、なかなか楽しめた。インドネシアのモスクの写真が印象的だった。
見たことない景色の写真は、見ているだけで心躍るものだった。そうして、行ってみたい場所がまた増えていく。

で、日本は何を展示するのかというと、今回は写真を貼るスペースがあまりなかったので、折り紙とマンガ、日本の城のレプリカ、英語の日本観光情報誌である。妥当なところではあるが、正直なところ展示しているマンガを私は読んだことがなかったので、何とも答えようがなかった。

一番困ったことが「日本の文化についてなんでもいいから教えて!」と質問されることだった。聞かれるこちらにしてみれば、何でも良いって言われても……というのが率直なところであり、それを聞いて何がしたいのか見当がつかない。観光地について教えて、とかそういうのだったらまだ良い。とりあえずKYOTO行ったらいいんじゃない、と説明できる。なんどもこんな質問をされるので、私は最後には不機嫌になっていた。

こういう「お国紹介イベント」で日本のブースで展示するものと言えば、折り紙とマンガは外せない。折り紙、マンガ、アニメを展示しておけばだいたい喜ばれるのだ。そういうふうに幸か不幸か、「日本的なもの」として海外の人々を喜ばせるものが存在しているわけで、私たちは何食わぬ顔でそれを紹介するわけだが、私自身はこれが本当に日本なのかなぁという疑問を抱えたままでいる。

日本はそういう有名なものがあるし、それもあってか知名度が高いわけだが、どうしても紛争や社会問題などのマイナスイメージばかりが先行してしまったり、そもそもの国の規模が小さかったりして知名度が低く、こういうふうにスポットのあたりにくい国もある。私はそういう国の人たちが嬉しそうに自分の国について話すのを聞いたり、写真を見せてもらったりするのが楽しかったのだが、そういう人たちと私との違いって一体何なのだろうと思う。

おそらく、展示しているものに誇りを持っていなかったのだと思う。読んだことのないマンガについて説明しろと言われたって困るし、折り紙も好きではないと言えば嘘になるが、折り紙が「日本的なもの」という記号になるのならそれは何かが違う気がする。
そうだ、問題は記号なのだ。「文化紹介イベントのブース」という限られた場で「文化」という非常に大きなものを扱う場合、記号化して伝えるのが手っ取り早い。その「日本的な何か」を伝える記号として選ばれているのが折り紙であったり、マンガやアニメなのだ。

確かに日本はマンガ・アニメ文化の非常に発達した国ではあると思うが、私にとってマンガは小説と大して変わらないものであり、アニメはドラマと大して変わらないものだ。小説やドラマの文化は比較的どこの地域でもあるものだと思う。好きな小説や興味のない小説があるのと同じように、興味の持てないマンガがあるのが私にとっての普通なのだ。

だから私は「人並みかそれ以下にマンガを読む人間」であるわけだが、そのような人間にマンガを語れと言われても困るのである。

それならば、まだラーメンやお好み焼き、もんじゃ焼きなど日本の食べ物の写真であったり、畳敷きの伝統的な家屋の写真集を展示した方がより一般的な「日本的なるもの」になり得たのではないだろうか。そちらの話の方が私たちだって当然しやすいわけだ。日本人にとってはありふれた日常生活なのだから。日本の家屋だったら、私の両親の実家の写真なんてどうだろう。畳敷きの昭和の日本家屋らしい家だ。

いかにも海外の人が喜びそうなものを全面に出す必要はないのではないか。
私たちの日常にある、普段は意識しないけれども密かに愛しているものを紹介すればいいのではないか。
自分がマンガ・アニメ好きではないということもあるが、そればかりを出すのはなんだか媚びているような気がする。楽しそうに自分の文化を紹介する他の国の友人を見ていて、そんなことを思った。

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