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バーチャルアナログシンセの系譜(前半はDTM昔話)

 タイトルは系譜ですが、時代とともにアナログタイプのシンセをたどる内容となってしまいました。発端は超DTM部Discord内にて「Serumに対するアナログ系の定番は?」という話題の中でいくつか出てきたシンセをなぞっていったところ、バーチャルアナログの変遷みたいなものを感じたからです。なお、このnoteは私の肌感覚であることに了承下さい。

ハードウェアとしてのアナログモデリングシンセ(前置き)

 1994年、赤いカラーリングが印象的なクラビアのNordLeadが発売されます。当時シンセといえばPCM方式が一般的でした。PCMシンセは一部からはプレイバックサンプラーとも呼ばれ、ダイナミックな音色変化が乏しい、アナログの太さが得られない等々、個人の価値観にもよりますが一段低く見ていた人もいたようです。そんな中、バーチャルアナログモデリングはアナログシンセの感覚そのままの操作性と音色により、当時かなり話題となっていた記憶があります。97年にはヤマハからAN1xが発売され、PCMシンセに否定的な立場の人からも「国産デジタルシンセにしては太い音」と高評価だったと記憶しています。つまりは、アナログモデリングシンセとは当時から特別な価値を持っていたわけです。翌96年にはRolandよりJP-8000が発売。この機種についてはSuperSawが特徴なのは言うまでも無いですね。
 この頃のシンセはハードウェア主流、なおかつキーボディストの楽器であったので、PCMシンセともう一台・・・たとえばステージピアノ、オルガン等、2~3台でライブに臨むという組み合わせがほぼ理想だったかと思います。PCMシンセ2台でもいいんですが、もう少し毛色の違う音が欲しくなりますからね。あと上原ひろみさんのピアノの上にNordLeadというスタイルも印象的でしょう。
 ただし、この当時は、アナログモデリングといいつつも、アナログ回路のゆらぎまでは再現はしないものです。もし正確に言うとなればアナログシンセスタイルとでもいうのでしょうか。ちなみにWikipediaでは英文ページが Analog Modeling Synthsizer、日本語だとバーチャルアナログ音源と・・翻訳しきれてない!とツッコミたくなる表記です。とはいえ英文ページでは「バーチャルアナログとも呼ばれる」と表記されてます。海外の記事などではアナログ回路のフィルタを数式で再現することをアナログモデリングと記すのを見かけるので、語源はそのあたりにあるのかもしれません。
 話は逸れますが、95年はコルグからアナログモデリングも含むProphecy、前々年にはヤマハからVL-1と、「フィジカル」モデリングシンセが発売されています。シミュレーションによる楽器の再現は一時期廃れたかと思いきや、Pianoteq、MODO Bass等々、現在ではわざわざフィジカルとも呼ばれずにモデリング形式として普及してるのはなんとも感慨深いものがあります。

Synth1の衝撃

 2002年、VST音源のシンセとしてSynth1がリリースされます。しかも無料。そして公式では堂々と「あの赤いシンセ(NordLead)を手本としました」と。あのNordLeadの音が手に入る!と喜び勇んだ人も少なくないかと(その期待がどれほど報われたかはわかりませんが・・・)。それ以前にもVSTとしてのバーチャルアナログシンセはありましたが、フリーソフトという入手性の良さから利用者・ファンも多かったのではないかと思います。
 ちなみに、NordLeadとの互換を目指したらしいDiscoDSPの Discover Pro(2007年リリース)というシンセもあります。こちらもあちこちで当時評判良かったかと。

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Sylenth1・Massiveの登場

 2007年にSylenth1がリリースされます。人によってはいまだに第一線級の使用頻度かと。ユニゾンでSuperSawを鳴らしても軽いという特徴からか、絶大な人気はご存知の通りです。同年、NIよりMassiveもリリース。ルーティングの自由度からWobbleBassに多用されるシーンが多かったと思います。オシレータに着目・比較すると、オーセンティックな構成のSylenth1に比べ、MassiveはWaveTableもあり、このあたりで音色の特徴が大きく分かれるのかなと思います。いずれにせよ、この2機種はバーチャルアナログモデリングの金字塔でしょう。どちらも公式サイトででバーチャル・アナログを謳っています。

WaveTableといえば・・

 はい、SerumはバーチャルアナログというよりWaveTableとして分類されることが多いのではないでしょうか。おそらくはMassiveのWaveTableをより強化した、独自にWaveTableを追加出来ること、そしてMassive同様ルーティングの自由さが最大の特徴だと思われます。
 ここまで辿ってきて最初の「Serumに対するアナログ系の定番は?」の問いの前に、そもそもSerumがMassiveの延長上にあるような気がしてなりませんか?

究極のアナログ

 モデリングでないもの、つまりアナロ回路のエミュレートとなれば、u-heのDivaとRepro、Brainworxのbx_oberhausen、あとはArturiaのV Collectionシリーズに内包されるMiniMoogやArp2600などが主なものではないかと思います。特にDiva、Repro、bx_oberhausenはバーチャルアナログというよりも、実機そのもののエミュレート。どちらも電子回路レベルまで追い込んで作られるサウンドの存在感は、ハードウェア不要と言わしめるレベル。それぞれの負荷のかなりのものです。
 ※Arturiaも2000年代から色々出してはいましたが個人的にはあまり印象に残ってないです(ゴメンナサイ!)

こんなものも

 最近(2022年8月時点)NovationのV-Stationが無料化されました。これはハードシンセK-Stationをソフトウェア化したものです。また、Virus TIを意識したViperもあります。これらのハードシンセはどちらも2000年代前半、かなりの地位のものだったと記憶しています。

余談

 この記事を書くにあたり、久々にSynth1をインストールして触ってみたところ・・・意外と芯のある音も出せるようでびっくりしました。無料で昔からあるものなので、侮ってしまいましたが、SerumやDivaとはまた違う味がこれはこれであるなと感じます。

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