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「みちのくダービー」で感じたこと、ベガルタ仙台について思ったこと

おっ、と思わず体を引きそうになった。
両隣を、モンテディオサポーターに挟まれたのである。

仙台駅から地下鉄南北線に乗り、ユアスタの最寄り駅である泉中央駅へと向かおうとしていた、その車中。
電車は満員。座れずに立っている自分をサンドして、今日の活躍が見こめる選手や、山形が勝つ理由をいくつもいくつも意気揚々と述べている山形サポーターの声が、耳朶に触れる。

見れば、車内には青と白のユニフォームがちらほらと点在していた。チェスであれば終盤のよい勝負だと思えるほどに、仙台サポーターと山形サポーターが混在していた。
揺れる電車。泉中央駅へと向かう十数分間。少し居心地の悪さを覚えながら、実感していた。今日は、ダービー。血湧き肉躍る、熱き「みちのくダービー」なのだと。


駅を出ると、抜けるような青空が目に映った。仙台駅前と同じく、泉区は快晴。絶好のサッカー観戦日和だといえそうな天気だった。

仙台、山形の両チームのサポーターの後に続いて歩く。Jリーグでも屈指のアクセスのよさを誇るユアスタ。すぐにスタジアムが視界に入り、集った人々の多さが遠くからでも窺い知れる。その光景が好きだと、いつも感じる。

敷地内に足を踏み入れると、熱気に酔いそうなほどにユアスタ前は喧騒と活気に包まれていた。
入場待機列にはズラリと仙台サポーターが並び、その近くでは、広報カメラのインタビューに答える若い男性が仙台の勝利を高らかに宣言していた。

その思いに共感を覚えつつ、列に並び、スタジアムへと入場。弁当などのスタグルを買い、雑踏のなかをコンコースからゴール裏北のホーム席へと向かう。
陽光に照らされた、青々としたピッチ。いつ見ても美しい、ユアスタの景色。

座席の前列の方はかなり埋まっていて、では後ろの方は、と探しても、一目で空いていると分かる席は少なかった。それだけ、この一戦を楽しみにしている方々が多数集ったのだ、そう感じられる、喜ばしい風景だった。

席を見つけて座り、弁当を食べ(中山の牛タン弁当美味しい)、ポカポカと形容するには強すぎる日差しから身を守るために日焼け止めを塗り(肌が白くなるほどに)、声を出せるように喉を潤して、応援する態勢を整える。
そうして準備をしているうちに、待ちに待った時間は刻一刻と迫ってくる。

そして、スタンドから歓声が上がり、周囲の人々が見つめる先に目をやると、GKの林と小畑がピッチへと姿を現していた。小走りでスタンド前へと向かい、サポーターに一礼をする二人。同時に沸き上がる歓声と、繰り返される二人の名前のコール。すさまじい声量に鳥肌が立つ。
その感激は、少し間を置いて登場したフィールドプレイヤー全員の姿と、発生したこれまた盛大な「ベガルタ仙台」コールに、さらに大きさを増したように思えた。全身で浴びる声援が、本当に心地よいと感じた瞬間だった。

拡張されたビジター席も、青色に染め上げられている。山形サポーターも仙台に負けじと旗を掲げ、アウェイとは思えない声の大きさで、ピッチにいる選手たちに熱を振り撒いていた。
応援歌が響く構造のユアスタ。反対側の山形サポーターの声援も、ホーム席まで確実に届く。この一戦に思いをこめて宮城の地までやって来たのが分かる、山形サポーターの熱さだった。

だが、仙台サポーターも負けていない。その一端にいるのだから当然ではあるのだが、ユース出身の郷家が「鳥肌が止まらなかった」と形容したのが分かる大歓声に心が震え、選手たちに送られる声援と拍手から伝わる熱量に「ああ、ダービーがはじまるんだな」という確かな感慨を覚えた。質の高い応援合戦になりそうな予感に、期待感は増すばかりだった。

両チームの選手が一度下がった後、少々の間を空けて歌われる、カントリーロード。選手を迎え、鼓舞する歌。サポーターが一体となり、鳴らす闘いの鐘。

円陣を組み、気合いを入れ、ピッチ全体に22人の選手たちが散らばっていく。
ゴールマウスに立つ前に、林が両手を上げ、ホーム席を煽った。その仕草に呼応した多くのサポーターが手を叩き、「林、頼むぞ!」と発破をかけた。審判が時計を確認し、開始の笛が吹かれる。蹴り出されるボール。駆ける選手たち。みちのくダービーが、幕を開けた。


ダービーは、仙台が早い時間帯に先制する。
序盤に連続した山形の決定機をDFの小出、菅田を中心に体を張ったシュートブロックで防ぐと、左側で繋ごうとした山形に対して郷家と髙田がよいプレスをかけ、ボールを奪う。そのこぼれ球を拾った中山が相良へと展開すると、相良らしい素晴らしいミドルシュートがネットを揺らし、仙台が先手を取る。その瞬間のスタンドの爆発したような歓声に、ふたたび胸が熱くなった。大一番のダービーで、先制したのだ。仙台が。大きな一点だった。

ピッチでは得点した相良が小出らと一緒にベンチ前へと走り、選手やコーチ陣と喜びを分かちあっていた。「点を決めたらめっちゃ喜んで時間を使おう。相手はダメージがあるから」とは森山監督の談だが、その言葉通りの光景に、仙台の持つチームとしての一体感が窺えた。

時間帯を考えても、効果的な先制パンチ。応援のボルテージが上がったスタンドは、菅田の取ったチーム2点目でさらに白熱する。長澤の連続クロスが成功した形だが、ヘディングでしっかりと決めきった菅田も素晴らしかった。やはり攻守ともに要と呼ぶにふさわしい選手だと、改めて実感させられた。

仙台は山形に序盤以降は決定機らしい決定機を作らせないまま、前半を終える。
ロッカールームへと引き上げていくイレブンに拍手が送られ、どこかから聞こえる「すげえ、強いよ、ベガルタ」との感嘆の声。同感だ、と思いながら、少し温くなったお茶を飲み、興奮に早くなった鼓動を静めるために、一息ついた。

──仙台は、やれている。闘えている。本当に頼もしい戦いぶりを見せてくれている。高揚感が体を満たし、トイレに行くことも、空になったペットボトルの代わりを買いにいくことも忘れ、ただただピッチをぼおっと眺め続けている自分がいた。


ハーフタイムを挟み、後半。
ふたたび姿を現した選手たちに、期待をこめた拍手が送られる。前半と同様、森山ベガルタの冷静かつ闘志に溢れたサッカーは、後半も変わることなく展開される。仙台サポーターの声援も、チームを支えるべくますます熱を帯びていった。

後半も15分を過ぎたころ、この試合で最高のシーンの一つといえる、ビッグプレーが飛び出す。

早いリスタートからはじまった、山形のカウンター。ボールを受けたのは、氣田亮真。昨年まで、仙台の左サイドで躍動していた元18番。その速さと足元の上手さは、嫌というほど知っている。

氣田がドリブルでスルスルとピッチ中央を進んでいくと、その先には線が引かれたようにコースが生まれていた。仙台の選手が一度体を当てるも、スピードに乗った氣田は止まらずに前進し、あわやGKと一対一という状況が作られていた。

明確なピンチ。林が止めてくれるか、そう覚悟したとき、仙台の選手が後ろからタックルをし、ボールを奪取した。倒れた氣田が、審判に抗議をする。しかし、笛が吹かれることはなく、その瞬間、ホーム席からはピッチを覆わんばかりの歓声が響き渡った。この試合でも、最大級といえる声援の大きさだった。

現地では遠目で確認できなかったのだが、後に氣田を止めたのは小出だと知り、その事実に胸が熱くなった。

山形の10番の独走をノーファールで、完璧なタイミングで、阻止してくれたのだ。

昨年、16位と低迷した仙台において、キャプテンとして責任を感じていたであろう小出。その悔しさを乗り越え、開幕から主軸として活躍し、本来の守備能力をダービーでもいかんなく発揮してくれた。

チャンスをものにできず、決定的な仕事ができなかった氣田は、後半途中で交代する。

あの場面で決められていたら、スコア的にも心理的にも、チーム的にもサポーター的にも、きっとキツくなっていたに違いない。そうした意味でも、小出の経験に裏打ちされた勇気あるスライディングは、称賛に値する大きなプレーだった。

小出の卓越した守備に、スタンドはさらに盛り上がりを増す。指定席からもチャントに合わせた手拍子と、プレーに対する自然発生的な歓声が沸き起こっていた。その一体感が、この日のユアスタの雰囲気をより形作る要因になっていたように思えた。

仙台の選手たちは、懸命に走る。
体を張り、ボールを奪い、ピンチと感じられれば全力で自陣へと駆け戻る。
休まずにコースを切り、正対し、相手の前進を食い止め、失点を防ぐ。その献身的なプレーには拍手と声援が送られ、応援に後押しされた選手たちは気迫を全面に出して戦い、攻め、守り、吠える。

後半も残り少ない時間帯、チャントを歌いながら、考えていた。
森山ベガルタと仙台サポーター、ユアスタの相性は、抜群によいのだと。

この日のユアスタには、チームとサポーターが一体となり、相手を圧倒する空気が流れていた。味方を走らせ、奮起させ、相手の勢いは削ぎ、共に勝利への道を歩いていく様が、そこにはあった。

菅田が「最高」と評したスタジアムの雰囲気は、まさにユアスタ劇場と呼ぶにふさわしい、勇壮で華やかで、それでいてとても居心地のよいものだった。

ハッピーエンドを確信したかのように歌われる「Twisted」が会場内に響き渡るなか、審判によって笛が吹かれ、試合終了。
みちのくダービーの一戦目は、仙台の勝利で幕を閉じた。ピッチ内、そしてスタンドにおいて、それぞれの立場で交わされるハイタッチと笑顔は、この日の戦いが満足のいくものであったことを示していた。

先制ゴールを決めた相良のヒーローインタビューが行われた後(ダービーは勝ってなんぼなんで!の名言に沸くスタンド)、選手と歓喜を共有しあう「シャンゼリゼ」が歌われ、「勝利のダンス」として踊られる髙田と石尾の摩訶不思議なダンスがこの日も披露され、皆を笑顔にする。

挨拶をしに、スタジアムを一周した監督や選手たちを拍手で送り出した後、勝利の歌である「AURA」が歌われ、歌声を浴びるようにスタンドまで近づき、様々なポーズを取って勝ち点3の喜び?を体全体で表現するマスコット、ベガッ太さんの微笑ましい様子に、仙台が勝ってよかった、と心から思う。

「AURA」を口ずさみながら、改めて感じたことがある。時に素性も知らない人々と歌い、ハイタッチを交わしあい、手を叩いて喜びあう。ベガルタが好き、応援したい、勝ってほしい。その一念で集まり、一喜一憂、様々な感情を共にする。その楽しさ、素晴らしさ。

自分は現地にあまり行けていない人間だけれど、サッカー観戦の楽しみの一つであろうそれらを、この日も確かに味わうことができた。みちのくダービーの舞台で得られたその感慨は、やはりとても格別なものだった。

「いいぞ、元彦!」
「蒼生、ナイス!」
「相良、最高ー!」

試合中に聞こえた、サポーターの声。マイナスな感情のもとに発せられた言葉はほとんど、いや、自分の耳には、一つとして入ってこなかった。

勝っていたことは、当然あるのだろう。90分間、選手がたゆまぬ姿勢で奮闘してくれたことも、当然大きいのだろう。
ただ、それ以上に要因として感じたのは、森山ベガルタは背中を押したくなる、プラスの言葉で支えたくなるチームだということだ。ブーイングによる叱咤も、方法としてはあるのだろう。しかしそれよりも、前向きな声掛けの方が、今季のベガルタにはより適しているように思えるのだ。

今後、上手くいかない時期もあるかもしれない。思うように勝ち点を積み重ねられず、苦しむ状況が訪れるかもしれない。
そうしてトンネルのなかで迷うことがあっても、仙台の選手たちは森山監督をはじめとしたスタッフ陣の下で腐らずに努力し、競いあい、出口に向かって着実に歩き続けてくれるはず。その先には、仙台に関わる皆が待ち望む光がきっと見えるはず。

ピッチを見つめながら、熱に浮かされた頭で、そう考えていた。そして今も、そう信じている。


試合後、いまだ熱気の残るユアスタを出て、帰路につく。18,000人近くが集まったダービー。歩道にはベガルタゴールドに青と白のユニフォームが混じりあい、同じ方向へと帰り道を急いでいた。心地よい疲れ。でも、少し座りたい。地下鉄で座れたらいいな。

そう思いながら駅に着き、ギョッとした。溢れんばかりの人々が改札の前に並び、その周囲では駅員が「押さないでください。ただ今、非常に混みあっております」と呼び掛けていた。18,000人が、この地に集ったのだ。その結果として生じたのであろう、混雑だった。

ーーこれは、帰るまでに相当かかりそうだな。諦めの境地で列を外れ、駅構内の空いているスペースに移動して壁に背中を預け、ポケットからスマホを取り出す。Xを開き、勝ち点3の喜びに沸くTLを眺めた後、少し考えて、ポストした。

「ユアスタ、素晴らしかった。最高のゲームだった!」

地下鉄に乗るまで、勝利の余韻に浸る時間はまだまだありそうだった。

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