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カンテ・ホンドの世界 (フラメンコ文化の一側面)➁ フラメンコに魅せられて

協力ビセンテ・アヤ(セビジャ大学教授)
曲種解説マリア・デル・カルメン・コルパス・マルティン(当時(現在不明)バルセロナ在住、カンタオーラ)

上の画像は、フラメンコ発祥の地とされる、スペイン、アンダルシア地方の都市セビジャのトリアナ地区の風景!僕の留学先のアパートからもすぐの場所!

フラメンコのカンテ・ホンドの世界を紹介するための導入となる記事を書いたが(①については次の記事を参照して下さい)、この稿では、そのカンテ・ホンドに惹かれていったきっかけについてちょっと書いてみたい。

筆者のカンテ・ホンドとの最初の出会いは、フラメンコのカンテのいくつかの中でも、次の詩が最も印象に残るものでした。
 
Por Dios que la respetara
llorando me lo pedía
por Dios que la respetara
yo viendo que me quería
yo de su cuerpo abusaba 
ella callaba y sufría
(訳)
後生だから大切にして
泣きながらそう俺にすがったんだ
俺を好きだって分かっていたから
体を弄んでやったのさ
あいつは黙って耐えていたんだぜ
 
Autor: Camarón (presumido)
Cantaor: Camarón de la Isla
Guitarra: Paco de Lucía
 
 天才カマロン (Camarón de la Isla) の歌うこの切ない詩、フラメンコのカンテとアンダルシア独特のスペイン語の発音のおかげで、正確に聞き取れない部分もあったが、思わずこんなこと言っているのかと耳を疑ってしまいました。この詩の後に配された :
“Y le indignó aquel beso que le di,
y aquel beso le indignó,
a los tres o cuatro días otro beso me pidió.
¡Ay! Algo el primero tendría. La hice pecar, y pecó,
yo era malo y ella buena, la hice pecar, y pecó,
ella se murió de pena, del remordimiento yo,
de lo que hice con ella.”
(訳)
おれがしてやった口づけがあいつを傷つけたけど、
3,4日経ったらまたせがんできたんだぜ。
最初の口づけに何かあったんだろう。
俺が彼女の道を誤らせたのさ。
俺が悪いし、あいつは何も悪くない。
俺のせいで罪を犯したんだ。
あいつは悲しみにくれて、おれは良心の呵責に。
おれがあいつにしたことにさ。

Camarón de la IslaにギターがPaco de Lucíaの映像はなかなか見つからないが、音源は無数にあり、比較的音の良いものを紹介しておく。


華やかな衣装での踊り(danza)に、軽快なギターを中心とした演奏(toque)、そして、心を絞り出すような歌(cante)が織りなすフラメンコだけど、この詩(letra)の内容に触れた時には、呆れると言うよりは、フラメンコの世界に潜む闇とその深さを見せつけられた感じで、ついには、その後カンテ・ホンドの世界に深く引き込まれていくのでした。しかしながら、様々なカンテ・ホンドに触れるにつれ、そこには闇の世界だけではなく、ジプシーたちが日常感じている様々なテーマが存在し、そのどれにも素晴らし詩が配されていることが分かり、さらにスペインだけが経験したイスラム支配がジプシーたちに大きな影響を及ぼしていることが分かり、ますますカンテ・ホンドの世界にのめり込んでいくのでした。そういった様々なテーマの主なものを最初の稿で羅列したのですが、その中のいくつかをこれから取り上げ、また、協力者のビセンテ・アヤ君が研究している俳句との対照(彼のヒント)で際立つテーマについても述べてみたいと思います。

続く

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